幕間 ギリシャとイギリスのブリーフィング
前書き
すいません、時系列は粛清される前日の夜で、本当なら人物紹介の前に書いてなきゃけないのに、完全に忘れてました!
◆
問題があった。非常に大きな問題である。
強者犇めく世界異能大会ルーキー部門。後に黄金世代と呼ばれる者達の集いで発生した問題だ。当然優勝を目指して戦う彼らだが、特に現実的に優勝を掴めると自他共に思えば思っていた程その問題は大きかった。
それ即ち。
「日本チームが強すぎる……!」
この一点に尽きた。
「情報を纏めよう」
チーム戦初日の晩、宿泊先に戻ったギリシャ選手団の代表が、ブリーフィングルームに集った選手達に声を掛ける。
「次の相手は日本チームだ」
それはギリシャチームが最も直面している問題で、モイライ三姉妹、マーズの子弟という4人の別格と、残り6人の精鋭チームで優勝を捥ぎ取るつもりだったのに、突如現れたトンデモチームと戦う羽目になったのだ。
「情報は全くないんだな?」
「はい、面目有りません。徹底的に秘匿されていました」
「当たり前だが勝ちに来ているな……」
代表が選手団に同行していた表の分析官に念押しの確認をすると、その分析官は少し顔を伏せて肯定した。表ということは、公式にはいない裏の分析官もいたのだが、その部署ですら次に戦うチームの情報をほとんど持っていなかった。
というのも日本の2チームのうち、彼らが戦うチームは全くメンバーの情報がなく、著名な能力者など一人もいなかったのだ。しかもおかしいことに、日本で名高い名家の名前があったため、調べればある程度の情報は入手できるはずなのにそれすらないときた。
「そもそも優勝者からして完全に無名でして……」
「確かに。聞いたこともない名前だった」
分析官の言い訳に聞こえる言葉だが、それは純然たる事実であった。
個人部門優勝者、名を藤宮雄一。完全に無名であり、突如現れたダークホースのことを調べれば調べるほど訳が分からなかった。確かに大企業の御曹司だが一族は異能に関わりがなく、今年の春に学園に入学して、そこで本格的に学び始めたというではないか。つまり額面通りなら、たった半年程度の経験しかない、まさしくルーキーが頂点に立ったということになる。
「しかもそれが相手とは……!」
雄一が所属しているチーム。そう、彼らギリシャが明日対戦するのは、まさしくチームクリフォトに他ならなかった。
「他のメンバーもなんだな?」
「はい。北大路、東郷の名前は日本で有名な名家なのですが、彼らについても全く情報がありません。他の者達もです。唯一橘栞という浄力者だけが元々できるという話ではありましたが……」
分析官として無能そのものな返事をするが、あまりにも仕方なさすぎる。期待されていない者達の寄せ集めであるチームゾンビーズの面々は、それこそ誰からも期待されずにいたため元々情報がなく、チーム花弁の壁は桔梗小夜子が四葉小夜子となったため情報網をすり抜けてしまい、唯一調べて分かったのは、橘栞がそこそこな名家で中々の腕前という、なんとも曖昧な事だけだった。
だが分析官の苦悩はまだあった。
「それと……動画はおろか写真もダメでした。その原因も全く分かりません……」
「いったい日本とは……」
仕込んでいた全ての電子機器から、態々準備したアナログな構造のカメラまでその全てが機能せず、ブリーフィングに使えないという有様で、関係者一同は頭を抱えていた。
「致し方ない。記憶を引っ張り出す」
できないものはできないし、ないものはないなら、記憶に頼るという原始的にもほどがある手段をとるしかなかった。
「まず最大の脅威になるのは、優勝者の"虹"」
代表が当然の脅威、優勝者である雄一について言及しようとした時である。
「あのー……別のがですね……」
「いいえ」
「違います」
「それほど」
「なに?」
そこで待ったをかけたのはマーズの子弟であり、少々貧乏くさそうな男、名を忍耐強いの意味を持つアトラスとモイライ三姉妹だった。
「彼のことか?」
代表がまず考えたのはモイライ三姉妹が執着している男、木村太一のことだった。なにせ未来を見通すクロトーが、祖国に必要な男だと念を押していたためだが、尤も、ギリシャ選手団は少々懐疑的だった。というのも、権能使いとして達人の中の達人、なんてものを軽く飛び越えている太一の術の行使は、その達人達ですら何をやっているか知覚できず、彼がフランス戦で見せた降霊術は誰にも察知されていなかった。
「彼は勿論すごいわ」
「ええ」
「うん」
「具体的なことを知りたいのだが」
「とっても男らしいの」
「ええ」
「うん」
「……そうか」
(浮世離れしすぎている……)
三姉妹の反応に完全に匙を投げる代表。
まともな返事をせず惚気ているようにしか見えないモイライ三姉妹は、実はその精神の気高さに惚れていたため、太一の力の底を気にしていないし知らなかったのだが、彼がギリシャに必要だと押し通している以上こう言うしなかった。
「彼も大分あれなのは間違いないです。いえ、どれだけのものかきちんと理解はできてませんけど」
そんな男に一見惚気ているだけで、いまいち信ぴょう性に掛ける三姉妹の太一重要説は、アトラスも支持しているので、一応の納得はされていた。
「分からんな。いや、アメリカ戦の最後に雷を放った女か」
ならばその警戒すべき者は、アメリカチームに止めを刺した恐るべき雷の魔法使いかと納得する。学生ながら、既に火力を求められる魔法使いとして完成していた、妙に厚化粧な女かと。
「蹲って笑い続けていた女です」
「私達でも勝てません」
「あれ本当に無理」
『は?』
ブリーフィングルームにいたほぼ全ての人間が疑問の声を上げる。確かに彼らもはっきり覚えていた。悪い意味でだ。なにせ三姉妹が言う蹲って笑い続けていた女は、言葉通り本当にずっと蹲って笑い転げていたのだ。それが優勝者を差し置いて一番脅威とはどういう意味だと混乱した。
「アトラスは?」
「同じです。一番ヤバいです。どうやって戦うかは分かりませんが、とにかくあれはダメです」
「なに?」
代表は少し、いや、かなり浮世離れしているモイライ三姉妹では埒が明かないと、アトラスの意見を聞いたのだが、帰ってきた返答は同じものだった。
しかしである。
(でも)
(少し)
(違うかも?)
(あの女が一番ヤバいのは間違いないんだけど、いや違う? 二番目にヤバいんだけど一番ヤバい? 自分でも訳分からなくなってきた。ならそもそも、その一番ヤバいのは誰だ?)
モイライ三姉妹とアトラスは最も脅威が笑い転げていた女、つまり四葉小夜子のことを思い出すが、妙に引っかかる事があった。それはアトラスが、自分でも訳が分からないと思った考えが正解といえるだろう。
彼らとて理解できていなかったが、チームクリフォトにおいて最も恐ろしい存在は四葉小夜子ではなく、その夫である四葉貴明なのだが、この両者はかなりスタンスが違う。善の心を持つ三姉妹に対して貴明は善であり、アトラスに対しては心の底から尊敬していたため、彼らの感覚の警戒網に引っかからなかった。だが小夜子は違う。モイライ三姉妹とアトラスに対して、自分が楽しむために喧嘩を吹っ掛けるだろう。しかもモイライ三姉妹は彼女と直接相対して、その暴力的な気配と霊力を直に受けたのだ。
そのため、真にヤバい貴明は彼らにとってなんの害にもならず、そうなるとやはり一番危険なのは小夜子ということになる。
「それと」
「もう一人」
「うん」
「いるね……」
「まだいるのか!?」
モイライ三姉妹とアトラスの言葉に、まだヤバい奴がいるのかと目を剥く代表。
「結論が出たのだけれど」
「あの白い髪の女」
「天敵なの」
「え? 女?」
「あら?」
「はい?」
「うん?」
小夜子のことに対して意見が一致していた4人だが、ここで意見が分かれて困惑の視線を向けあう。ここでは小夜子と貴明のスタンスが違うように、彼ら4人の視点が違った。
アトラスは近接戦のエキスパートとしての視点だ。
「スキンヘッドに近い男じゃなくて?」
◆
◆
ほぼ同時刻。イギリス選手団もギリシャ選手団と同じくブリーフィングを行っていた。しかし、彼らが最も注目、いや、心底畏怖していたのは、貴明でも小夜子でもなく、雄一でも栞でもなかった。
これもまたギリシャと視点が違う為だ。騎士として接近戦のエキスパート揃いの彼らだからこそ分かった。
「あれは……………………至っている」
誰の呟きであっただろうか。イギリス選手団の代表か、騎士でもある情報分析官か、選手か、ひょっとしたらアーサーだったかもしれない。
とにかくそうと言うしか、表現するしかなかった。
彼らがそれを見たのは、目撃してしまったのは、アメリカチームでも最も逞しかった選手と拳を合わせていたほんの短い間だけ。
ただそれが体を動かしただけで理解してしまった。至っていると。
名前だけ何とか知ることが出来た。
肉体的到達者、いや、ともすれば至っておきながら、なお人類最高到達点を超え未踏の地に至りかねない
「北大路友治……」
その男を
あとがき
副題・改めてムリゲー
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