クリフォトvsフランス 歌vs歌

 前書き

 ひょっとしたらですけど、夕方にもう一話上げられるかもです。


 バトルロイヤルも終わり、与えられた控室に集合している我が急造チーム。


「ふっふっ」


 ダンベルを上下しているマッスル。これはいつものことだ。心底どうでもいい。


「あれ? あの店のポイントカードどこ?」


 財布の中に溜まっている、スーパーのポイントカードとクーポン券を整理している厚化粧。


「ふあ……」


 椅子に座ってあくびをしている突っ込み。なんて常識人なんだ。それだけでゾンビ共の中で常識人だと断言できる。


「えーっと、最初に勇気君が超力壁を張って……」


 イメージトレーニングをしている東郷さん。なんて常識人なんだ……狭間君を超える常識人だ。やはりチームゾンビーズの良心、ネクロマンサー東郷さん。こんなこと思ってるのばれたら浄力で溶かされるな。


 そして真チャラ男は、モイライ三姉妹の応援に行ってこの場にいない。あいつはギリシャと戦うことになったら裏切りそうだから要注意だ。というか間違いなく裏切る。チャラ男で獅子身中の虫とかどうなってんだ。


「……」


 目を閉じて瞑想している橘お姉様。ぶ、武人だ。全く緩むことなく次に備えている。これにはゴリラも満足だろう。


「……」


 壁に背を預けて腕を組んでいる藤宮君もだ。流石はチャンピオン、全く隙が無い。これは普通科の1年生がキャアキャア言うはずである。そのうち佐伯お姉様親衛隊と同じように、藤宮君親衛隊が結成されるかもしれない。


 そして……。


「あれはまずいね。ぷぷぷ」


 普段のお返しとばかりに可愛らしいぷぷぷ笑いをしている佐伯お姉様だが……その視線の先には……。


「ぷ……ぷぷ……ぷ……」


 チーム花弁の壁の皆が個人戦のバトルロイヤルが終わった後、ぐったりと倒れ伏していたのと同じように、ソファに寝転んでいるお姉様の姿があった。お労しやお姉様……今日一日中笑いのツボにはまっていたため、ついに腹筋が限界を迎えてしまわれたのだ。かわいいあいてっ。でへへ。


「しっかし、また一試合やるとか中々のスケジュールだよね」


「確かにな」


 少し肩を竦める佐伯お姉様に頷く藤宮君。


 佐伯お姉様の言う通りだ。朝にアメリカ、昼にバトルロイヤル、夕方にまた試合とか一体どんなスケジュールだよ。組んだ奴馬鹿じゃねえのか。だからバトルロイヤルは、疲れないよう徹底的に小賢しく立ち回った。まあ妖異との戦いでは連戦なんて有り触れた話だから、余力を残しておくことも非常に大事だ。


「しかし、次の試合だが懸念が一つある」


「だな」


 藤宮君の言葉に椅子に持たれかかっている狭間君が同意した。


「俺の四力結界が誤作動を起こす可能性だ」


「あれだよな。歌ってどうなんだって話だ」


「ああ」


 藤宮君の懸念、それは歌を四力結界が防げるかというものだ。ここにいる急造チームは彼と長時間訓練して知っているが、藤宮君の四力結界は基礎四系統から逸脱していたり、異端の技に対して誤作動を起こしてしまう。


 そして藤宮君は、異能で発せられる歌というものを経験したことがないため、果たして四力結界が正常に作用するか疑問符が付くのだ。勿論、橘お姉様の決死の攻撃を防いだように、密度を上げた死力結界なら誤作動が起きる可能性が少なくなるが、あれは自爆技でもあるため、いきなり藤宮君が戦線離脱してしまう。


 そう、歌だ……歌……。


「佐伯、どう思う?」


 藤宮君が佐伯お姉様に尋ねるのも当然。なにせ俺達の次の相手は……。


「ジャンヌダルクの妹と戦ったのはお前だ」


 フランスチーム! もっと言うなら佐伯お姉様と相打ちになった、賛美歌を歌うジャンヌダルクの妹がいるチームなのだああああ! ゲロゲロゲロゲロ!


「そうさねえ……微妙!」


「まあそんな気はしていた」


 その質問に対して佐伯お姉様は、微妙と口にしたがさっぱり分からんとお手上げのジェスチャーをした。でも確かに分からん。しかし、メイン盾の一つである四力結界が機能不全を起こすのはリスクをはらむ。


 ならば!


 ◆


 ◆


 ◆


『選手入場!』


 打ち合わせを終えて入場する我がチーム。対面にはフランスの烈士達。どいつもこいつも腹の座った顔をしやがって。一神教特有の気配を持っている奴らが多いが、その精神は称賛せざるを得なかった。見ているだけでサブいぼ出るけど。


 チームの皆がちらりと俺を見たのを感じる。プランAは前の試合と同じだが、違う点は俺がかなりキーパーソンと言うことだ。ふっ任せてくれ皆。まず間違いなく上手くいく、はずだ。無理だったらプランBも当然ある。ないなんてことはない。プランB、それはお姉様ご出陣だ。


『試合開始!』


『LAAAAAAAAA!』


 試合開始と同時に、フランスチームの一番奥にいて守られているジャンヌが賛美歌を歌う。くっそ面倒なことに、光の層となった歌は味方を弾くどころか強化する様で、相手チーム全体の力強さが一段上がったみたいだ。攻防揃って更に味方へのバフだと? やっぱこいつもやべえわ。まあ実質的に佐伯お姉様に負けたんだけど。流石です佐伯お姉様。


 さて!


 やるぞ!


 これぞ秘儀!


「■◆◇□■◆◇□!」


『な!?』


 相手チームが驚くのも当然! 光の層となった歌声は、突如空間に溢れた梵字によって防がれて、チームとチームの中間点で激突して硬直したのだ! そしてその梵字の発生源は俺の喉!


 そう! 歌には歌! そっちが賛美歌ならこっちは仏教賛歌だ!


「■◆◇□■◆◇□!」


 聞くがいい俺様の清らかな歌声を! 聞くこと、囁くことが本職なんだから、耳コピしたパーフェクトな歌声を披露するなど朝飯前よ!


 試しに控室で披露したら、なぜか東郷さんから違和感がすごいんだけど、それにぞわっとするし歌詞がよく聞き取れないと言われたが。解せん。


『LAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』


「■◆◇□■◆◇□!」


 歌の出力を上げようと無駄ああああああああ!


 梵字と音符が激突するが、今すぐ八百万聖歌隊に参加できる俺の歌声は破れない!


『あの字を打ち砕け!』

『おう!』


 俺の梵字となった歌を止めようと、フランスの戦士達が突進しようとするがもう遅い!


「【超力壁】一応だけどな」


「【四力連射砲】!」


「【ボルケーノ】!」


「【貫き氷柱】」


「【祓い給い清め給い】」


「暇ねー。ほら太一、とっとと呼びなさいよ」


「いやちょっと、姐さん達数がいっぱい来て混線しとる」


「奇麗な歌声よあなた」


 こっちの準備は万全よ!狭間君が万が一の壁を張り、誤作動の可能性があるならと、攻撃することにした藤宮君の四力連射砲、佐伯お姉様の溶岩、橘お姉様の氷柱が放たれ、長期戦が起こる時に備えて、マッスルは東郷さんのバフを受けている! まさに完璧! そしてお姉様は俺の歌声の清らかさを分かってくれている。分かりますか東郷さん? やっぱり清らかなんですよ。


『ぐああ!?』

『ごはっ!』


 そして嵐のような攻撃を受けて、フランスの戦士達が脱落していく。


 ん!?


『ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?』


 ジャンヌの発する声が歌声ではなく、絶叫のような限界を超えた音になった!?


『ええいなぜまた負ける! 証明せねばならんと言うのに! 最早我慢ならん! 勝つのだ!』


 この腐れ堕天使がまた出やがったなあああああ! 選手が神仏の力を借り受けるのは当然OKだが、外部から勝手にやって来て直接介入しようとするんじゃねえ! ましてや守護天使を気取っておきながら、人の限界以上の力を注ぎこんでなんとする!


【人類人話具現具象】! 食らえや対一神教最終兵器! しかもこれはお前に覿面に効くぞ! 【第一条! 我らの主なる主が言われた! くい】


『外部からの連絡と助力は禁止されてるみたいですよ!』


『なあっ!?』


 あの腐れ堕天使が消えた!? だが今の声!? ま、まさかああああああああああ!?


『あ……』


 ジャンヌがぱたりと倒れ、結界が発動して外に叩き出した。あの野郎、元は天使だから罪と恨みこそ持ってないが灸をすえてやる!


 だがその前に、残っている相手チームを全滅させる!


「姐さん達来すぎぃ! しゃあない全員や!」


 は? ちょっと待ってチャラ男、予定と違くない? 1人か2人だろ?


「【ムーサイの姐さん達頼んます】!」


 お、大馬鹿野郎! 確かにギリシャ神話の文芸の女神、ミュージカルの由来となったムーサの力を借り、俺の歌声を強化して相手を全員叩き出すプランだったけど、ムーサじゃなくて複数形のムーサイとか、あれ確か全員で9人くらいいただろ!?


 どわっ!? 力が流れ込んできた!?


「■!」


『ぐああああああああああああ!?』


 ムーサイ達の力によって一言に凝縮された俺の歌声は、残っていた相手チームを全員吹き飛ばした。


『勝負あり!』


「ふっワイらの勝利や!」


 こ、このきめ顔のチャラ男、今すぐケリを入れてえ。粛清しなければ。


「順調順調。ま、ジャンヌの妹にはボクがリベンジしたかったけど」


「ここからが正念場よ」


「ああ」


「ぷぷ」


「プロテイン、プロテイン」


「俺の壁にそもそも来なかったな」


「そういえば女神の化粧品はどんなの?」


「なんかやっぱり、貴明君の歌に鳥肌立つんだけど……」


 勝利を喜ぶチームメンバー。でも東郷さん、それは勿論感動してだね。間違いない。





 さて、と。


 流石に泥に成るのはやり過ぎだから早くいくか。俺もちょっとイラついてはいるけど。


































 ■


『なんだここは!?』


 一面黒。黒黒黒黒黒黒


 ぬかるんだ地面、泥泥泥泥泥泥


「いや突然すいません! 息子に聞いたんですけど、外部からの連絡と助力は禁止されてるみたいでしてね! まあ、力を借りる側の霊力者がコンタクトしたらセーフみたいですけど、やっぱ直接介入しようとするのはダメかなって思いまして!」


 その黒の中、真っ黒なベンチに腰掛けて気さくに声を掛ける一人の男。

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