幕間 鎮座して君臨し、覗き込み、そして囁く1柱

 前書き

前日予告なく2話投稿しているのでご注意ください。

時間が間に合った!仕事行ってきます!



 集団戦部門のバトルロイヤルはかなり早く終わる。8ヵ国16チームであるため、4チーム一纏め戦いで予選を行い、その中で勝ち残ったこれまた4チームで決勝となる。なお、個人戦のバトルロイヤルに先に出場して、戦闘フィールドである森を一足先に体験した者が多いと有利だと判断されて、それを解消するため試合前に一定の時間森を探索されることを許されていた。


 その予選グループの中で、全く同じことを考えている3チームがあった。ノルウェー、アイルランド、バチカンである。その考えとは、まず1チームを撃破したら後は時間制限まで徹底的に逃げるというものだ。念頭にあるのは残りのチーム、そう日本チームだ。


 通常戦において一人師団の次男を有するアメリカチームに、圧倒的と言うのも生温い勝利を収め、しかもバチカンのリーダーであり、切り札として扱われたミカエルの力を宿せるカルロは、個人戦においても日本チーム所属の虹に圧倒されていたのだから、それを避けるのは合理的な判断だろう。しかも個人のバトルロイヤルにおいて、虹は完全に避けられて敗退したことを考えると、きちんとした戦術だと言える。


 問題はだ。


『試合開始!』


『透視で日本チームの場所を確認してくれ』


『ああ【クレヤボヤンス透視】!』


 ノルウェーが日本チームを避けるために、森を見通すため索敵のセオリーである超力による透視を行ったら。


『俺を見ているな!』


 通常戦において全く活躍せずノーマークだった男と完全に視線が合い、じっと覗き返されたことだろう。


『駄目だ気づかれた! 俺達の方を見ている! 一番目立ってなかった男は索敵要員だった!』


『くそっ! 今すぐこの場を離れるぞ!』


 真っ先に日本の位置を確認しようとしたのに、真っ先に見つけられた彼らは兎に角場所を変えて逃げるしかなかった。


『どうだ!?』


『さっきまでいたところに移動している! 俺達をずっと追えている訳じゃないみたいだ!』


 森の中を疾駆するノルウェーチームは変わらず透視で日本チームを見ているが、日本チームは先程まで彼らがいた場所に向かっていたため、完全に補足できているわけではないようだ。


『さっき俺を見返してきたやつが西の方を重点的に見ている! 反対へ向かおう!』


『おう!』


 その日本チームで最も警戒するべきは、透視に対してはっきりと目線を合わせた男だが、何らかの制限があるのか、少々見当はずれな場所を見ていた。


『止まれこっちを見てる!……大丈夫だ。また別のところを探し始めた。足も止まってる。少しここでやり過ごそう』


『何とか他のチームを見つけて倒さないとじり貧だぞ』


 しかしそれでもひやりとするような時があり、このままでは時間制限まで逃げ続けることになる。そう危惧


『奴がこっちを見た!』


『また見られている!』


『クソ! 見られた!』


『は?』


 森の少し開けた場所で


 3ノルウェーバチカンアイルランド声が重なるまでは。


『敵だあああ!』

『陣形を整えろ!』

『【ミカエルよ】!』

『【超力砲】!』

『どっちを先にやるんだ!?』

『【神よ守り給え】!』

『ぎゃっ!?』

『ぐああああ!?』

『【神の癒しよ】!』

『ミカエルの使い手を止めろ!』

『【サンダーランス】!』

『回り込ませるなああああ!』

『援護を! 早く!』


 敵と遭遇すればやることはただ一つ。戦うことだ。尤も、ノルウェー、バチカン、アイルランドの三つ巴は果たして戦いと言えるだろうか。全く予想外の遭遇戦となった3チームは兎に角混乱して、それぞれが2チーム纏めて相手取る羽目となり大混戦が発生したのだ。


『があっ!?』


 その混戦で突出したノルウェーの霊力者が倒れ。


『なあっ!?』

『し、しまった!?』


 超力者が味方の魔法使いに撃たれ。


『だ、誰か!?』


 孤立した浄力者が討たれる。


『右から来てるよ気を付けて!』


『おう!』


『魔法使いが魔力を溜めてる! 止めないと!』


『任せろ!』


 だが彼らも精鋭なのだ。混乱の中でなんとか統制が取れはじめ、お互い拮抗して相手を削り始める。


『【ミカエルの力よ】!』


『やっぱりミカエルの使い手を止めないと! 共闘じゃなく不干渉でいいから、先にバチカンに当たろう!』


『仕方ないかっ!』

『一時休戦だ!』


『なに!?』


 その中でもやはり飛びぬけていたのは、ミカエルの力を使うカルロだ。明らかに戦場で別格の活躍を見せるカルロに危機感を抱いていたノルウェーとアイルランドのチームは、相手の申し出を渋々ながら受託し、一先ずはバチカンとの戦いの間だけ休戦することにした。


『ま、まずいぞ!?』


『俺が前に出る!』


『頼むぞカルロ!』


『あのミカエルの使い手は足止めするだけでいいよ! 回り込んで後ろを叩こう!』


『おう!』


『くっ!?』


 突如両チームと戦うことになったバチカンは、カルロが前面に出て必死に防ぐも手が回らず、一人、また一人と倒れ……。


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


『こ、こいつヤバすぎるぞ!』


 倒れた仲間の無念を背負い更に猛るカルロが盛り返し。


 そして悲鳴と怒号が溢れる森に静寂が戻るころには……。


『はあっ!? はあっ!? 誰か!? 誰かいないか!?』


 たった一人薄暗い森の中で、満身創痍となりながら声を出すカルロ。周りには誰もいない。それはつまり、森の訓練結界が他の者達は全て戦死したと、森の外へ転移させたことを意味する。


 そう。三つ巴だったのにいつの間にか2チームの相手をしながら、それでもなお最後に立っていた者こそカルロであり、まさにバチカンにおける次代の星に相応しい強さを見せつけたのだ。


 勝者。カルロ。


『ごぼっ!?』


 そして敗者である。


 彼ですら知覚できない拳が胸にめり込み、カルロは結界によって森の外へはじき出された。


『お疲れ様!』


「うん? 日本語に戻ってないぞ」


「おっと失礼! お疲れ様!」


 カルロが先ほどまでいた場所に佇むスキンヘッドの逞しい男性に、まるで木陰からどろりと湧き出たかのように現れた青年が声を掛ける。


「俺もアーサーに小細工を成功させたが、全く及ぶところではないな」


「ほんと器用だよねえ」


「やっぱり索敵力は必要ね……私の時は森で袋叩きにされたし……」


「ぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ。ぷ…………ぷ…………」


「俺ら歩いてただけなんだけど」

「アーテーの姐さんに頼んでもないって言うね。視線と声だけで、ああできるもんなんやなあ」

「私は今日一発撃ってるから、仕事終わってるようなもんだし」

「ええ……なにさっきの……」


 三国は気づけば愕然とするだろう。何もかも仕組まれていた。企まれていた。欺かれていた。謀られていた。


 二虎競食の計。いや、三虎。餌は彼らノルウェー、アイルランド、バチカン自身。虎達はただその瞳の動きだけで誘導されてカチ合わされ、傷つき倒れ、しかも全滅するよう調整するための囁きに導かれて……。


 最後に残った満身創痍のカルロが討たれたことにより、バトルロイヤルの幕は閉じたのだ。


 あまりにも悍ましき瞳。あまりにも聞き心地のよい囁き。


 御業に権能、奇跡を使わずとも。


「いやあ、集団戦だから時間制限が多めでよかったよかった! コントロール外れてバラバラに動かれるのが面倒だったからね! それに最後に残ってるのは少ない方がいいでしょ!」


 邪神は邪神なのだ。


 勝者日本チーム。

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