幕間 君臨する10人の魔人達

本日投稿2話目です。ご注意ください。

指が動く動く。でも明日は仕事なんで……(:_;)





 最速の超力砲による攻撃。


 それがアメリカ校の結論である。


 なにに対してか。


 それは虹に対してだ。


 後に伝説として語られるであろう、虹とアーサーによる戦いだが、各国は冷静にその2人を分析していた。


 それはアメリカも例外ではなく、雑誌の隅に載っていたような非常にマイナーな、虹に関する論文を偶々読んでいた者がアメリカにもいた。それによると基礎四系統を完全に、寸分の狂いもなく一致させて至れる極地である"虹"は、あらゆる攻撃を完全に防ぎ突破することが出来ないとされていた。


 しかもその使い手がアーサーすら破った者となれば、彼らの選択肢は限られる。その限られた選択肢から生み出されたのが、最速の超力砲によって虹が展開される前に相手を仕留めるプランである。


 だから、相手が日本だと分かった時点でその打ち合わせは完了していた。まあ実際は、当日に急遽出場が決まったため、本来なら相手をする必要がなかったのだが、そんなことを知らないアメリカは、2つのチームのうちどちらかに確実にいると思っていたからこそ、スムーズに意思の確認をすることが出来た。


 即ち彼らが念頭に置いている者とは


 完全なるダークホースにして個人部門優勝者。藤宮雄一に対してだ。


『試合開始!』


『超力砲!』


 試合開始とアメリカ校のメンバーにして実質的にキャプテンである一人師団の次男、ウィリアムが放った最速の超力砲が放たれた。


 バトルロイヤルにも関わらず、その決勝グループにおいてすら他の全てをなぎ倒し、ついにはアーサーと一騎打ちの死闘を演じて時間制限ぎりぎりで破れ、惜しくも2位に収まった彼だが、アトロポスという回避不可能な落とし穴にかからなければ、やはり大会優勝候補筆頭だったという意地を見せつけた。


 そしてバトルロイヤルに優勝したアーサーをして、速さと手数で負けていた。超力者として完全に完成していると思わせた男の放った超力砲の数はなんと20。はっきり言って異常である。何が異常かと言うと、そもそも超力者が放つ超力砲は1発で、一流と言われて2発か3発を同時発射できる程度なのだ。それが20。しかも手抜きではなくきちんと一発一発に力が込められた超力砲が20。


 かつてハリケーンと同時に北米大陸に侵攻してきた海洋生物由来の妖異達。普鬼とはいえその数300をたった一人で迎え撃ち、たった一人で戦場を作り上げ、たった一人で殲滅し、たった一人で勝利した男。超力者の大国ロシアにおいてすら、なぜよりにもよってアメリカに生まれた。あれこそが我々の理想像なのにと言わしめた、まさに"一人師団"の子に相応しい力と言えた。


 その恐るべき攻撃に、虹は間に合わない。


「【超力壁】!」


 が、拒絶が間に合った。


 だがなんの変哲もないただの超力壁。20発もの超力砲を防げるはずがない。


 筈だった。


『なに!?』


 戦闘中なのに驚いたのはアメリカの選手だ。この辺りが一人師団などにお坊ちゃまと言われる所以だろう。だが仕方ない。ウィリアムの恐るべき速さの超力砲を防いだその展開速度。そしてなにより。


『無傷!?』


 全く揺るがぬ超力の壁が健在なのだから。


『超力砲!』


 ウィリアムは流石であった。親と兄にしごかれていた彼は、防がれて無傷な事実は事実と受け止め、他のチームメイトが神の祝福を宿しながら驚いている間に、再び20発の超力砲を放ったのだ。ほんの少しのインターバルでまたしても発射できるなど、まさに異常としか言いようがなかった。


 だが十分な時間を与えてしまった。


「【四力結界】!」


 虹が輝く。無動無敵が、超力壁の包みドーム状に展開した。


 そして着弾する20の砲弾。


『くっそ! 【神の光よ】!』

『【ファイヤーブレス】!』

『【神の光よ】!』

『【超力砲】!』


 続けてアメリカチームの嵐のような攻撃が始まる。


 結果は当然。


『そんな馬鹿な!』


 無傷。虹色の輝きは何人たりとも掻き消せない。


 虹があり拒絶がある。これを突破できるものなど、果たして世界で何人いるか。


「やっぱ俺いらないだろ」


「あれだけ早く超力壁を作れて何を言ってる」


「【ボルケーノ】!」


 しかもその拒絶の壁と虹は、内側からの攻撃を通すという都合がよすぎる壁だ。基礎四系統最強の火力にして、その中でもさらに飛びぬけた火の魔法が、溶岩の奔流が放たれた。


『【神よ守り給え】!』

『【超力壁】!』


 その明確に攻撃の威力と言う一点において全てを上回る魔法を防ぐのには、最低でも2人以上の守りに長けた者が全力を出す必要があった。


「【貪降雪這】」


『例の雪だ吹き飛ばせ!』


 ひらひらと舞い始めた雪。個人部門を見ていたため、この雪の恐ろしさを彼らは分かっている。しかし対策は簡単だった。


『【ボム】!』


 魔法の爆発による爆発音と振動が闘技場に響いた。


 異能による攻撃は効果がなかったが、それなら物理的に発生した音と振動なら、頼りなくひらひらしている雪を吹き飛ばせる。


『馬鹿な!?』


 筈もなし。


 確かに衝撃波と振動に巻き込まれたはずの雪は、変わらず彼らめがけて降りてくる。


 それはこの世にあってこの世にない。存在している次元と位相がそもそも違っていた。物理的存在ではなく、ただ霊的異能に作用して貪る雪だった。


『このままでは詰むぞ!』


 虹と拒絶の周り以外に振る雪が、自分達に着弾する前にアメリカ校は何とか決着をつけるよう追い込まれてしまう。


『任せろ!』


 そこでアメリカ校の中でも最も逞しく、最も力強く、接近戦において最も強い者が突出して、凄まじい高密度の霊力を宿した拳を、虹と拒絶に叩きこもうとした。彼は個人戦で残念ながらアーサーに討ち取られたものの、その拳を受ければアーサーですら沈黙したであろう。


 戦闘服をパンパンにする程逞しい彼が放つその破壊の拳は……


「同士よ」


『おお友よ!』


 喜色を浮かべる彼の拳に何かが当たった。それはスキンヘッドに近いほど短い髪をした、同じく筋骨隆々と言える男の拳だった。


『むうん!』


 再び拳と拳が激突して強烈な衝撃波が発生する。


 一言だけ交し合った彼らには、それ以上の言葉は不要だった。なにせお互い、


「やっべえなあの人。まだバフ足りてないとはいえ、それでも北大路君と殴り合ってるよ。あれ、お姉様?」


「ぷぷぷぷぷぷぷぷ……ぷ……ぷ……ぷぷ……ぷ………」


「お、お姉様が大ピンチだあああああああ!?」


 その様相を見た者が隅で蹲っている。


「もういっちょ【ボルケーノ】!」


『もう一発来るぞ防げ! 【神よ守り給え】!』


『おう【超力】!』


「【アーテーの姐さん頼んます】」


 狂気の愚行が招かれた。


『【砲】! は?』

『は?』

『ぐがっ!?』


 再び襲い掛かる溶岩の奔流に、アメリカ校の前衛は確かに守ろうとした。しかし、そのうちの1人があろうことか、超力壁ではなく砲を放ったのだ。それは虚しく虹に阻まれ、代わりに溶岩は1人で防ぐ形となった薄い守りを容易く突破して、アメリカ校の前衛を丸呑みにした。


『み、見事……!』


 それとほぼ同時に筋骨逞しいアメリカ生徒が、姿に似合わぬ渾身のフェイントを仕掛けるも、それを完全に見破られて、更に拳が顔にめり込み脱落した。


『【超力砲】おおおお!』


 殆ど半壊したアメリカチームだが窮地にも関わらず、いや、寧ろ窮地だからこそウィリアムの超力砲のキレは磨きがかかり、なんと直線的なはずの超力砲がカーブしたり、一旦上空に上がって直上から急降下したりと、とにかくあらゆる方向から虹と拒絶の隙間を縫おうとした。


 だが……


「チャージ完了!」


 それは余波だけで消滅した。


「サンダー!」


 光が


 ケラウノスが


 インドラの雷が放たれた。


 正面に壁と虹を張っているのに、更にその中でもそれぞれを壁と虹で囲った相手は全くの無事。


『【超力壁最大】!?』

『【神よ守り給ええええええええ】!?』


 生存本能だったのだろう。全力で自らを守ろうとしたアメリカ校だが、その防御はなんの意味もなさず一瞬にして消滅すると、彼らもその光そのものの中に消え……。


「【祓い給い】……あれ? 終わった?」


『勝負あり!』


 ウィリアムも含めて場外で倒れ伏す10人のアメリカチーム。


 恐るべき雪すら不要だった。


 そして君臨する10人の魔人達。


 勝者は一目瞭然。


「やったね皆! 僕達の勝利だ!」


 その中で最も何もしていない者が勝鬨を上げる。

 全くの役立たず。

 ガヤ要員。


 ◆


『俺を見たな!』


 策謀渦巻く森では違う。

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