チーム■■■■■

 本日投稿3話目です。ご注意ください。



 いやあ昨日はすごかったああああああああ! 本当は藤宮君のお祝いをしたいところだったんだけど、彼は試合後に気絶してしまって保健室直行だったからそれは今日だな!


 だがまずは。


『昨日はすごかったぞ!』

『優勝おめでとう!』

『よくやった!』


「分かった! 分かったから通してくれ! 通せ!」


「ぷぷぷぷぷ」


 学園に来るなり、他のクラスの生徒から揉みくちゃにされている藤宮君の救出からだな。


 ◆


「すまん貴明助かった……」


「いいってことさ! それより優勝おめでとう藤宮君!」


「ああ。ありがとう」


「ぷぷぷぷぷ。人ごみに負ける優勝者って。ぷぷ」


 運営委員長としての立場とホイッスルを使い、人混みの中に埋まっていた藤宮君を救出したが、彼はうんざりというかげっそりしている


「多分普通科の一年だと思うんだが、学園に来ている途中から女子生徒が俺を指さしてきゃあきゃあ言ってたから、いやな予感はしてたがこれほどとは……」


「あ、あはは」


 ただでさえクールな美青年と言える藤宮君が、世界異能大会の決勝でアーサーを打ち破り優勝したのだから、そりゃ女の子達もきゃあきゃあ言いたくなるだろう。


「そ、そうだ。お父さんとお母さんには?」


 なんだか試合後よりも疲れ果てているため話題を逸らす。


「2人とも異能と縁がないからな。凄いことは分かっても、どのくらいのものかはよく分かっていない。俺としてはむしろそれくらいが丁度いい。本当に」


「あ、あはは」


 だめだ。俺とお姉様が来る前から大分騒がれたようで、両親思いな藤宮君なのに表情が変わらず疲れ切っている。これが有名税というやつなのか。


「そ、それにしても昨日は僕の技を使って驚いたよ!」


 ならば次の話題は、藤宮君が使った邪神流柔術【捻じれ】のことについてだ。いや本当に驚いた。


「ふ。ほとんど無意識に使ってたな。お前との特訓は確かに俺の糧になっていたらしい」


「ふ、藤宮君!」


 ついに藤宮君の表情が普段通りの、冷静ながらもふてぶてしいものに戻った。


 し、しかし無意識に我が技を繰り出すとは……これが友情パワーなのか!


「やあやあ藤宮君。昨日は優勝おめでとう」


「おめでとう。優勝する約束は守ったわね」


「ふっ。当然だ」


 そうこうしていると、佐伯お姉様、橘お姉様と合流した。個人戦部門が終わり今日から団体戦なので、チームの皆と観戦することになっている。しっかし、通常の個人戦部門は半裸が優勝を決め、まさかの2部門で日本人が優勝することと成ったのだから、ゴリラもニコニコだろう。


『戦闘会会長宮代君、大会学生運営委員長四葉貴明君。至急大会本部まで来てください。繰り返します』


「なんか呼ばれてるね貴明マネ」


「ですね佐伯お姉様。なんかあったのかな?」


 うんんん? 俺を呼ぶってことはそのゴリラだよな? 半裸まで呼ぶってことは大会のことでなんかトラブルでもあったんか?


 ◆


 ◆


「申し訳ありません!」


 大会本部に行くと、既にいた教員や事務員に土下座している男がいたが誰だ? しかもなんか大分切羽詰まっているようで雰囲気が重い。ほんとに何があった?


 一緒に本部に来た半裸、いや、世界異能大会学生の部優勝者、半裸チャンピオンに視線で問いかけるが、向こうも心当たりがない様で首を横に振られた。


「来たか」


「学園長、これは?」


 本部の一番奥で珍しく困った顔をしていたゴリラが、俺たちに気づいて歩み寄ってきた。


「それがだな……」


 あのゴリラが言い淀むとはマジで珍しいな。この土下座している男のせいでなんかの世鬼でも復活したか? なら切羽詰まるどころか修羅場か。


「団体戦の枠が2チームだったらしくてな。大会執行部から異能研究所に連絡が行って、まあ彼がだが、学園の方に伝え忘れていたらしい」


「はいいいいいいいいい!?」


 ◆


 事の発端は単純明快。米露のメンチ切りだ。元々団体戦自体が今大会から急に設立されたもので、その目的は個人戦ではロシアに押されているアメリカが、なんとか勝つための思惑が絡んでいた。というのも団体戦なら超力者ばかりのロシアは非常にバランスの悪い構成とならざる得ず、アメリカは最初の一撃さえ凌げるタフな壁役を前に設置するだけで、後は持久戦でそのまま押し切れると踏んで、集団戦が設立された経緯があった。


 それに対してロシアは当初、いや、対人最強なのは超力者で変わりないんだから、それで固めた俺らのチームに、バランス云々と言って浄力者とか入れたアメリカのチームが勝てる訳ないだろと高を括っていたらしい。


 が、どうも模擬戦をして結果が良くなかったようだ。


 超力者だけで固めたロシアのチームが。


 そこで焦ったロシアは、同じように浄力者などがいるバランスのいいチームを作ろうとしたのだが、ここで超力に力を注ぎこみすぎている弊害が出て、大会で勝てると思うだけの浄力、魔力、霊力の人材がいなかったらしく、苦肉の策で何とかもう一チームねじ込んで、少しでも勝つ確率を増やそうとしたようだ。


 結果的にロシアが色々と工作した結果、なんと急に各国それぞれ2チームが出場することとなったのが事の経緯である。


 そ。


 れ。


 で。


 だ。


 大問題が起こった。大会を直接管理運営している執行部は国外の機関だが、そこから出場枠が2チームになったとの連絡が、日本異能界における総本山である異能研究所に伝えられ、異の剣の下に位置するような形の異能学園にはそちらから伝えてくれと、ある意味で異の剣の面子を立てる様な、余計な配慮を執行部がしたから話がややこしくなった


 そう。何らかの理由で、ここで話が止まってしまったのだ。


 結果的に2チームが出場することを知らなかった学園は、各国が団体戦のために呼び寄せた人員の多さを不審に思い話を聞いてみるとあら不思議。は? 2チーム? ちょっと執行部さんどういうこと? え? 異の剣に確かに話はした? となり、学園に飛んできて土下座しているのが、その連絡を受けたはずの男という訳だ。


 ふざけんじゃねええええええええ! 何をどうしたらそんな重要な情報が途中で止まるんだよゴラア!


「申し訳ありません!」


 なあにが申し訳ありませんだ! 大方、優勝候補の日本チームを一枠削って、自国が優勝する確率を増やしたかった米露かそこらに金でも貰って、態と2枠になった事を黙ってたんだろ! 許さあああああん! ちょっと記憶見せてみろや!


『はい分かりました。学生部門のチーム戦は2枠ですね。はい。伝えておきます。はいでは……チームはふた』


 pipipipi


『はいこちら異能研究所です。いえ、閻魔大王についてはまだなんの進展もありません。はい、新しいことが分かり次第、すぐに連絡しますので。はい……えーっと、チームはふ』


 pipipipi


『はいこちら異能研究所です。いえ、世鬼の訓練符については最厳重封印がなされており、使用は政府と研究所所長の許可が必要です。はい。では……えーっと』


 pipipipi


『はいこちら異能研究所です。いえ、奇跡の日に関しては変わらず進展がありません。はい。はい失礼します……えーっと』


 pipipipi


『はいこちら異能研究所です。ちょ、ちょっと待ってください! 主任すいません! イタリア語? だと思うんですけど、多分バチカンから電話です!』


 pipipipi

 pipipipipipipi

 pipipipipipipipipipi

 pipipipipipipipipipipipipipi


『ああああああ電話が鳴りやまないいいいいい!』


 邪神アイ終了! 被告人は無罪! 閉廷!


【祝福あれ】!


 あれ? 事務員さんどうしました? なんか神様から祝福受けてますね。具体的には運気が向いて、ここ数日で失敗したことを、皆が優しくフォローしてくれるような、そんな神様からの祝福を感じますよ。


 いやあ、きっと日ごろの行いがいい人なんだなあ。うんうん。大丈夫ですよ。人間なんですから皆ミスの一つや二つくらいしますとも。それに今まで他に誰も気が付かなかったのも問題ですよね。きっと皆が、誰かがやってるって思ってたんでしょう。あなた一人の責任じゃないですよ。それは組織にも問題あるんですから。具体的には人員の少なさのしわ寄せとか。


 そうそれですよ。電話が起こった原因は仕方ないんですから、電話係の少なさが問題なんです。1000人くらいでコールセンターしてたら余裕だったんですからね。


「まあここ数か月、異能研究所はとんでもない忙しさとは聞いていたが……」

「ああ」


 ほら見てください周りの人を。まあ忙しかったみたいだし、しゃあないかって雰囲気になってるでしょ?


 まあゴリラが、今なんかしたかって目で俺を見てるけど、人助けをしたんだから疚しいことなんて一つもない。ないったらない。


「しかしどうしたものか……」


 それについてはまあいいいかと、ゴリラが顎をさすりながら唸っている。マジでゴリラだ。いや、本物のゴリラが顎をさするかは知らんけど。


「通常の学生部門は大丈夫でしょう。4年は日頃から連携が取れている者達がいますから、彼らに話をしたら出ると思います」


 半裸曰く、通常の学生部門は問題ないらしい。問題はルーキーだ。


 まあ、不手際でチームを用意できませんでしたは、ちょっと出場国に外聞が悪いわな。いきなり不戦勝が発生するし。だが、急にルーキーでチームを作れないのも事実。一般組はこの大会のレベルの高さを見て、出場しても恥を掻くだけだからと出ないだろうし、かといって推薦組の30人中10人は元々出る者達で、残り10人は一族主義者達だから、別の奴とチームプレイなんて絶対しないだろう。


 ふむ。ゴリラがちらっと俺を見たな。そんな期待を込めた目で見るなよ。分かったよ残り10人に聞いてやるよ。うん? 期待の目だったよな? うんそうに違いない。間違いない。


 ◆


 ◆


 ◆


 ◆


 ◆


 ◆


 ◆◆◆


 -------------------------


『チーム入場!』




「呼ばれたぞ」


「化粧は完璧よ」


「ちょっと、いえ大分後悔してきたわ……」


「まあまあ気楽にいこうや」


「ぷぷぷぷぷ」


「初動でまともな攻撃できるのボク達だけ?」


「ああ」


「俺の壁いらんだろ」


「ああ緊張する……」


「皆がんばろー!」


 入場する10。


 あまりにも急造だったためチーム名すらない。


 だが後年、こう恐れ、怖れ、畏れられた。


「プロテインの準備も完璧だ」


 肉体的到達者【物質主義10i.キムラヌート】北大路友治


「石油王の王子はどこ?」


 弾を込められない完璧な銃身【不安定9i.アィーアツブス】如月優子


「私抜けるから……」


 神威を貪る雪【貪欲8i.ケムダー】橘栞


「ワイと同じ常識人がおらんなるのは困るで!」


 色褪せない色【色欲7i.ツァーカム】木村太一


「ぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ」


 その中心にして自らを含め九の座【醜悪6i.カイツール】四葉小夜子


「連携とか確認してないけど、まあ訓練でお互い動き方は分かってるか」


 空飛ぶ【残酷5i.アクゼリュス】佐伯飛鳥


「俺達が壁担当だ。昨日まで一人で戦っていたから、役割分担できるのは楽だな」


 無動無敵【無感動4i.アディシェス】藤宮雄一


「だからお前が四力結界張るなら俺いらないって」


 捻じ曲げる【拒絶3i.シェリダー】狭間勇気


「私、ゾンビーズの皆にはバフかけ続けられても、花弁の壁の皆には普通の浄力者なんだけど……胃が……」


 かつての【愚鈍2i.エーイーリー】東郷小百合


「えいえいおー! あ、東郷さん、僕には浄力掛けないでね!」


 頂点にして底辺【無神論1i.バチカル】四葉貴明


 元々実在するせいで、侮蔑となりうるため公には呼称されなかったし、彼らも名乗ることはなかった。


 しかし。


 それでもこのチーム名は彼らを指す。


 後年世界に轟かせたその名こそ


 チーム【クリフォト】


 その恐るべき存在が、世界の表舞台に立った最初の瞬間であった。




あとがき


やり切りました……副題、別ゲーの始まり。あるいはムリゲー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る