決勝戦 藤宮雄一vsアーサー

前書き

本日投稿2話目です。ご注意ください。


なお3話目を今日中、かなり早い段階でまた投稿できそうです。


 学園中がそわそわしている。なにせ今日はついに訪れた異能大会個人の部決勝戦。通常の学生の部は当然のように半裸が勝ち進み、ルーキー部門は藤宮君なのだ。まさかの両部門で日本人が快挙を達成となれば、そのホームである異能学園全体の落ち着きがないのも当然だろう。しかも藤宮君の相手は世界に名高い最強の一角、アーサー一門ともなれば注目度はとてつもない。


「それなりの使い手が結構来てるみたいね」


「力士君達と朱雀ちゃんが忙しいみたいです」


「異の剣かしら?」


「伝手でやって来てるっぽいですし多分そうじゃないですかね」


 そのためお姉様と学園の中を歩いていると、ちらほら異の剣所属の職員と思わしき使い手がやって来ているようで、目的は間違いなく半裸と藤宮君だろう。藤宮君、胃に剣に注目されてピックアップされてるとか大分ヤバいよ。あそこは一種の治外法権で名家の横やりはほぼ入らず、政府どころか世界からも別格の立場として扱われ、しかも完全実力主義ときた。まさにエリート中のエリート。


 まあ……名家の横槍が入らないのは、親父ともう二度と関わりたくないというのが理由の一つのようだが。よせばいいのにあの馬鹿親父、胃に剣宿泊中に名家連合に挑まれたとき、狂気と狂器、そして泥で編まれた邪神形態だけじゃなく、その上の大邪神形態までなって、全身を覆う兆なんて軽く超える真っ黒な瞳で見つめたらしい。やだなあ、ちゃんと発狂しないようにしてたよとか言ってたが、そういう問題じゃねえよ。それで平気なのはゴリラとかだけだ。というか親父の体を割って、もっと本質的な目を見たのに平気だったゴリラってマジゴリラ。


「おはよう」


「おはよう栞」


「おはようございます橘お姉様! 体調は大丈夫ですか?」


「大丈夫よ」


 どうやらほんの少しだけ先に学園に来ていたらしい橘お姉様と合流する。昨日藤宮君との戦いで力を使い果たしたから少し不安だったが、どうやら特に問題はないらしい。


「これで藤宮君が私に勝ったのに、アーサーには負けたら悪くなるけど」


「は、ははは」


 つい乾いた笑いを返してしまう。クールな外見とは裏腹に、負けん気の強い橘お姉様らしい言葉だ。しかし、こういったことを言えるなら、やせ我慢をしているのでもないか。


「やあやあ皆さんお揃いで」


「おはようございます佐伯お姉様!」


 そうしていると佐伯お姉様ともたまたま会い、これで会場に入る前に藤宮君以外のチームメンバーが揃うことになった。


「やっぱ初手から死力かね? 四力結界の展開じゃ間に合わないでしょ?」


「どうかしら。もう2回も見せたのだから、対策されているかもしれないわ。そうなると最初から力を使い果たしてどうしようもないことになる」


 佐伯お姉様と橘お姉様が試合の展開を予想している。


 四力結界の発動すら間に合わない相手に対して、自分の体から即座に爆発的な力の奔流を解き放ち、辺り一帯を薙ぎ払う自爆技が死力解放だが大前提がある。それは確実に相手を仕留めることだ。当たり前も当たり前の前提だが、完全に尽き果てる死力を防がれると、そのまま敗れることが確定する以上、絶対に失敗するわけにはいかないのだ。だが、既に死力は大会中に2度使っている。見せている。もし何らかの手段で対策を立てられていた場合、即座に決着がついてしまうだろう。


「なんとか四力結界を張れさえすればいいんだけど」


「ええ」


 佐伯お姉様達も俺達と同じ結論のようだ。初見ではなくなった死力はリスクが高すぎるため、それなら四力結界をなんとか発動して有利に戦いを進めた方が勝算がある。そう、なんとか発動。そのために……。


「あら、現役の単独者もいるわね。見覚えがあるわ」


 あのプランのことについて考え込んでいると、いつの間にか決闘場、いや、決戦場に到着していた。お姉様がいつもの素晴らしい笑顔の先には、学園の職員ではない外部の単独者も混じっているらしい。こっちは撮影が禁止されてるから、どうしても直接見に来る必要があるからな。


「ちょっと前座として盛り上げようかしら?」


「お、お姉様、それはそのぉ」


「ふふ、冗談よ。でもまあ、この大会見ていて面白かったから、出場するのもありだったわね」


 悪戯っぽく笑うお姉様だが、危うく会場にいる手練れ対お姉様のエキシビションマッチが行われるところだった。止めるためにゴリラも乱入するだろうから、盛り上がるは盛り上がるだろうけど。


「ま、主役は藤宮君だから大人しく待って応援しよう」


「確かに」


「ふふ、そうね」


「藤宮君頑張れえええええ!」


 佐伯お姉様の言う通りだ。もう俺には応援することしかできない!


 ◆


 ◆


 ◆


 そしてついに……。


『選手入場!』


 ここのトップがゴリラだけあり、無駄な脚色や賛美がされることはない。ただ淡々と司会が二人の選手を、激戦を潜り抜けてきた両雄に入場を促す。


 1人はなんの因果か本当に本名アーサー。誰もが知る世界最強の一角。アーサー一門の次代にして、並み居る強豪を、未来と現在すらも一刀のもとに切り捨てた、最強を決する場に相応しい男。


 1人はこの日本出身。驚くべきことに、入学当初は基礎四系統全てに適性があると、物珍しい程度しか注目されず、異能に本格的に関わったのもこの学園に入学してから。しかし天に愛されたとしか言いようのないその才。基礎四系統を完全に一致させ至ったのは、全てを防ぐ虹の極致。名を藤宮雄一。


「最初だ。最初が肝心だよ藤宮君……」


 佐伯お姉様の呟き通り、恐らく試合開始と同時に飛び出し、四力結界が張られる前に切り捨てるつもりのアーサーをどうするか。それが最も問題であり肝心だ。


 そして闘志溢れるアーサーと、な藤宮君が相対する。


『聞きたいことがある。技らしい技を使わないのは、ひょっとして師から見せないようにと禁じられているからか?』


 藤宮君が


『え、えーっとそれは……』


 釣れた!


『そうか。アーサー流剣術を見てみたかったが、師から禁じられているのなら仕方ないな』


『あ、あはは』


 そして嵌めれた!


『もう一つ聞きたい』


『はい?』


『試合開始!』


「【四力結界】!」


『しまっ!?』


 あはははははは! あっはっはっはっはっは! 試合開始と同時に藤宮君が四力結界を発動した!


「発動できた!?」


「これは……!」


「ぷぷぷぷ。頭が柔らかくなったわね。ぷぷ」


 藤宮君の言葉を引き継ごう! 彼が散々コンスタンティンさんに言われたことでもあるけど、真面目過ぎると言われたことがないかい! 少なくとも、これから相手をする奴の話を大真面目に聞き、出鼻をくじかれる程度には! 大会執行部は生徒同士の話をずっと続けさせたら、試合開始なんていつになるか分からないと、話をしていようが構わず試合を宣言するとも!


 予兆というかそうなることは大いに考えられた! なにせ前の試合でラケシスから、アトロポスじゃなくてよかったでしょうと聞かれて、真面目に言葉を濁していたものな! 技は見せなくとも人柄は見せてしまった! 藤宮君は技と同じくらい、その人柄も観察していたのだ!


 あとは簡単だ! 昨日藤宮君は橘お姉様と戦う前に、まさか準決勝で戦うとはと言葉を投げかけ、人間の行動として返事が返ってくるかを試し、俺に渡した紙にはさっきまで話していた英語の文法が書かれ、俺はそれが間違っていないかを確認した! そして今日、戦う前なのに闘志を押さえ話しやすいようにして足を止め、これは単に予想だったのだが、師から技か太刀筋を隠すように言われていたことを再確認させた! 全ては勝つために!


「【四力砲】!」


『くううっ!?』


 アーサーが自分の迂闊さに歯ぎしりせんばかりに顔を顰めて、展開された四力結界から放たれた四力砲を避ける。恐らく今の状況は、アーサーが想定していた中で最悪のものだろう! 破る方法のない無敵の結界を前に攻めあぐね手数で圧倒される!


『おおおおおおお!』


 いや! アーサーが四力砲を躱しながら突っ込んだ! ま、まさか!?


『しいっ!』


 ……見てますかコンスタンティンさん。近接戦で戦うものは総じて目がいい。だから結界のムラを斬ればこれも破れると言いましたね。だがそれは極一握りの目だ。アーサーの目だ。なら貴方のひ孫弟子も間違いなくアーサーですよ。


 なぜなら


 アーサーが大上段から振り下ろした剣。


「そんな!? 藤宮君の四力結界が!?」


「コンスタンティンさんの様に……」


 それが無敵の筈の藤宮君の四力結界を切り裂いた。


『はあああああ!』


 止めを刺さんと藤宮君に肉薄するアーサー。


 そう。確かに彼は切り裂いた。


「【四力大結界】!」


『なっ!?』


 だが続いて藤宮君が間髪入れずに発動したのは、コンスタンティンさんとの修行で生み出した、一面の密度を上げてそのムラをなくした四力大結界だ。つまり。


 餌だった。罠だった。藤宮君は試しておく必要があった。知っておく必要があった。それはアーサーがコンスタンティンさんと同じ目を持っているかだ。もし持っていたなら、薄いいくつかの場所に回られて振り回される可能性があった。


 なら敢えてムラを作り誘導したらどうなるか。


「【四力砲】!」


『ぐっ!?』


 答えは真正面から近づき、再びその剣を振り下ろしながら、防がれて一瞬だけでも足が止まり、ほぼ同じタイミングで放たれた四力砲に被弾したアーサーだ。


「【四力連射砲】!」


『しいっ!』


 だが浅かった。続けて四力連射砲が放たれる前に、なんとかその場から離脱したアーサーが、飛来する虹の小口径弾を避け、時には剣で弾いて受け流す。


 マズいぞ……


「あら、まずいわね」


「え? 何言ってるんだい小夜子。藤宮君が圧倒してるじゃないか」


 お姉様の一言に佐伯お姉様が首を傾げる。

 確かに一見、藤宮君が完全に主導権を取っているようだ……しかし……あの一連の罠で仕留めきれなかったのは痛すぎる!


「アーサーがムラを見抜く目を持ってるなら、あの密度を上げた大結界に頼るしかないけど、あれは他の部分を薄くしてるでしょ? ならどこかで他を突かれるわね。でも単なる結界の方はムラがある。ジリ貧ね」


 コンスタンティンさんの声が聞こえてくるようだ。時間内に教えられることは教えたし詰め込んだ。これで接近戦タイプに圧倒されるなら、そいつと同世代に生まれて運が悪かったと諦めろとは言っていたが……。だが、きっと言っていないことがある。弟子だろうがアーサーならそのレベルだろうがな、と。


『おお!』


「ぐっ!?」


 ああ!? その一部の密度を上げた分、薄くなった箇所にアーサーが回り込み斬りかかったが、藤宮君は間一髪でそこの密度を上げることに成功して防げた! しかし、このままではお姉様の言う通りジリ貧で圧し負ける!


『はあ!』


 また回り込まれた! 今度は間に合わな!?


『くっ!?』


 だがアーサーが飛び退いた!


「ぷぷ。頭も柔らかくなって、思い切りもよくなってるわね」


「今……能力を全部切った?」


「ええ。あのアーサー、手玉に取られて疑心暗鬼になってるんじゃない?」


 橘お姉様が訝しみ、お姉様が面白そうにしている。


 藤宮君……なんてセンスなんだ。結界の密度を上げるのが間に合わないと悟った彼は、寧ろ自分の力を全て切ったのだ……。間違いなく自殺行為。しかし、常に裏をかかれ続けたアーサーは、今度も何かの術中に嵌っているのではないかと疑って踏み込めなかった。


「まあでも一回やり直せただけね」


 しかしお姉様の言う通りだ。あれは半裸が試合中に見せた、異能を全て切って行う居合の溜めのようなものではなく、本当にアーサーに疑念を抱かせてやり直すためだけの行い。あの半裸のように素早く動けず、先手は必ずアーサーが取ってしまうため、実際そのようなリスクのある力溜めもできない……。


 これがアーサー……その本来の太刀筋と技を封じてなお、藤宮君を自力で圧倒している……。


『はっ!』


 さっきのが何かの企みだろうとブラフだろうともう関係ない。自分にできるのは近づいて斬るだけだと再確認したアーサーが、再び藤宮君の結界の脆い場所を突くため!?


「【死力解放】おおおお!」


 藤宮君が最後の切り札を切ったが、裏を返せばそうするしかない状況に追い詰められている! その身が虹に包まれ、決戦場全体を虹で圧し潰すつもりだ!


『はああああああああああああああ!』


 それに対してアーサーは術の発動前に、藤宮君を切り捨てるつもりだ! 恐ろしい速さで大上段から振り下ろした剣は、藤宮君が全身から虹を放射する前に!?


「【死力結界】!」


『ぐうう!』


 また間一髪だ! 死力解放による虹の放射が間に合わないと判断した藤宮君は、それを無理矢理抑え込んで橘お姉様の攻撃を防いだように、自分の体を結界として虹色に光輝く! だがあれはあくまで耐えるための業だ! 確かにアーサーの剣は藤宮君の頭で止まっているが、死力が尽きればもうどうしようもない!


『おおおおお!』


 そして再び振り下ろされるアーサー渾身の一撃!


「藤宮くううううううん!」


 それがもう一度彼の頭に……


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 な、なんだあああああああ!? 藤宮君を中心にして眩い虹色の光が爆発した! これは死力解放による全周囲放射攻撃じゃないぞ!?


「決着をつけるぞ!」


 一瞬のうちに光が収まり、その中心にいた藤宮君は、珍しく自分を鼓舞するために声を出していた。


 自身から輝く虹を纏いながら。


 し、し、知らないぞ。誰も知らない初見殺しを発動したのかもしれない。だが、今まで藤宮君が死力を纏ったまましっかりと立っているような状況を俺は知らない。


「おおおおおお!」


『があっ!?』


 は、速い!? しかも藤宮君はアーサーにすら劣らぬ速さで接近すると、なんと彼の顔を殴りつけ、その衝撃でアーサーが吹き飛ぶ!


『ぜああっ!』


「おおおおおおお!」


 だがアーサーはアーサー! 殴られようが剣を離すそぶりは微塵も見せず、再び驚くべき速さで接近してきた藤宮君に斬りかかり、その剣と藤宮君の拳が激突した!


「一瞬で死力を攻撃から防御に回してコツをつかんだかしら?」


「事前に準備したのではなく……土壇場で?」


「ひょっとしたらね」


 唖然とする橘お姉様に肩を竦めながら予想を話すお姉様。


 まさか、あの虹色に輝きながら戦う状態は、事前に準備した初見殺しではなく、この戦いの中で至ったのか? な、なんて……なんて凄いんだ……。


「おおお!」


『はああ!』


 またしても藤宮君の拳とアーサーの剣がぶつかり合い、観客席まで衝撃波が押し寄せる。だが死力は元々、藤宮君の全エネルギーを使う業だ! 長くはもたない! ならば恐らく決着は次の一手で決まる!


『おおおおおおおおおおおおおお!』


 その時間制限を知る由もないアーサーは、打ち倒して決着をつけるため、今日見せていなかった突きを藤宮君の胸に放つ!


「ぐっ!」


 藤宮君はその切っ先を両手で包み込むように掴んだ! あの虹はアーサーの剣を手で受け止められるほどの強度をもたらすのか! とにかくアーサーの剣を捕まえられたのは大きい! ここから剣を奪えば!?


 馬鹿な!? 藤宮君その腕の流れは!?


「そらあ!」


『なああ!?』


 じ、人体は……末端からの捻じれに対処できない……それが例え剣でも、体の一部とも言えるなら例外ではなかった……。


 気を整え相手の動きを読み、横方向からの捻じれによって相手を打ち倒す……。


 アーサーが横回転して頭から地面に叩きつけられた。


 あ、あれこそ……あれこそまさに邪神流柔術……【捻じれ】


「とどめだあああああああ!」


『お、おおおおおおおおおおお!』


 もう気力だけで動いているのだろう。自分を奮い立たせるために腹の底から声を出した藤宮君の拳は更に虹色に輝き、例え地面に倒れようが反撃しようとするアーサーの顔にめり込むと……。


 決戦場が再び、いや、かつてないほど虹色の光で輝いた。


 光が収まるとそこには……


 決戦場の外に倒れ伏すアーサーと……


 その中心でがっくりと膝をつきながらも、拳を掲げる藤宮君の姿があった。


『しょ、勝負ありいいぃ!』


 8か国5名ずつ。総勢40名。霊力者が、超力者が、浄力者が、魔法使いが、権能使いが、モイライ三姉妹が、ジャンヌダルクの妹が、マーズの子弟が、一人師団の次男が、そしてなによりアーサーが。


 かつてないほどの、まさしく黄金世代が集まった本大会。


 ルーキー部門個人戦


 優勝者


 藤宮雄一

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