骨肉竜虎
前書き
ひょっとしたら夕方か夜にもう一話上げられるかもしれません。上げられなかったら力尽きてます……。
◆
「いやあ引き分けだったかあ。まあ引き分けなら仕方ないよね。そうでしょ小夜子? ジャンヌダルクの妹と引き分けだよ」
「ぷぷ。ええそうね。引き分けだもの」
「佐伯お姉様お疲れ様です!」
準々決勝が終わって一息ついた頃に、気絶していた佐伯お姉様が目を覚まされて、お姉様に念を押していた。結果は引き分けで両者共倒れとなったが、からりとした性格の佐伯お姉様は、特に悔しがることなく結果を受け入れている。まあ若干のコンプレックスを刺激されてプッツンしていたが……。
「どっちが勝つかねえ?」
「どっちもおおおおおおお!」
「違いないや」
佐伯お姉様の言葉に、自分でもよくわからない返事をしてしまったが通じた様だ。そう、準決勝でまさかのチームメンバー同士による戦いが発生することになり、俺としては出来れば両方勝ってもらいたいのだ!
って言うかもうそれでよくね? 佐伯お姉様とジャンヌが引き分けたから、準決勝は橘お姉様、藤宮君、アーサーの3人だ。はい多数決で日本の勝ち。じゃあ2人のダブル優勝ということで。これぞ民主主義。民主主義の総本山イギリス出身なら従ってくれたまえアーサー君。
『選手入場!』
ああ止めてえええええ!
だが俺の嘆きをよそに、入場してくる藤宮君も橘お姉様も無言。ただ闘志だけが溢れている!
「あの二人が戦ったら大体五分五分だったかしら?」
「んだね」
お姉様の言葉に佐伯お姉様が頷く。
そう。藤宮君と橘お姉様だが、二人が訓練や授業で戦った際の勝率は五分五分だ。なにせ藤宮君の四力結界は、基礎四系統から逸脱しすぎている攻撃に誤作動を起こすのだが、橘お姉様の浄力はまさにそれで、時に氷柱に貫かれた藤宮君が破れ、時に四力連射砲の手数に押された橘お姉様が破れるという様な力関係なのだ。まさにライバル!
「……まさか会うとはな。しかも準決勝で」
「……ええそうね。決勝でもよかったんだけど」
「ふっ違いない……勝たせてもらう」
「こちらのセリフよ」
か、かっけええええええ! 二人ともかっけえええええ! 骨肉相食むではなく竜虎相搏するだったのだ! ならもう事ここに至ったなら俺は応援するだけだ!
「二人とも頑張れええええええええ!」
『試合開始!』
始まった! 先手はどっちだ!?
「【貫きつら】!?」
橘お姉様が発射する浄力で作られた氷柱はあまりに異質なため、藤宮君の四力結界を貫くのが常だった。だから橘お姉様は初手で攻撃を選んだのだが……!
「【超力砲】!」
ちょ、超力砲!?
「くっ!?」
それが放たれるよりも早く藤宮君が打ち出したのは虹色に輝く四力ではなく、なんと超能力で編まれた念力の砲弾! 意表を突かれた橘お姉様は、防ぐのは間に合わないと間一髪で回避を選んで、転がるようにしてそれを避けた。
「忘れてた。そういや四力って基礎四系統が完全に一致して使えるんだったよね?」
「はい佐伯お姉様! 藤宮君は四系統をそれぞれ使えます!」
あまりにも強力すぎる虹の力を使う藤宮君だが、それは四系統一致して初めて至れる境地。つまり彼は、やろうと思えば浄力、霊力、魔力……そして対人において最強と言われる初撃最速の超力すらも扱えるのだ!
「完全に虚を突かれたわね。まあ、四力なんてものを使う相手が、態々グレードを下げるなんて思いもしてなかったんでしょう」
「代名詞みたいなもんだし、四力を使うようになってから、他の基礎を使ってるとこ見たことないね」
「……多分ですけど、大会のことが視野に入ってから、意識的に使わないようにしていたのかもしれません……」
「それは……ボクか栞を念頭に?」
「はい……」
愕然とする佐伯お姉様だがそうとしか考えられない。それなら練習しているところを誰も見ていないことの説明が付く。佐伯お姉様も橘お姉様も、苦手なのは超力者に速攻を掛けられることだ。藤宮君はどこかで思ったはず。もし二人と戦うならこれだ、と。そうすれば意表も突けて一石二鳥。だから訓練でもそれを秘して……今それを使っている。全ては勝つために。まさしく戦いは始まる前から始まっていたのだ。
なんと逞しい。ゴリラも先々代アーサーも、藤宮君が素直すぎると評したが、それは藤宮君の一面だけだったようだ。遠目からゴリラの姿が見えたが、この時のために我慢を重ねた彼に満足そうに頷いている。
「【超力砲】!」
「【氷結界】!」
だが、秘してきたが故に練習不足で一歩足りなかったようだ。橘お姉様が転がりながらもなんとか氷の壁を作り出し超力砲を防いだ。
「もうちょっとだったわね」
「やっぱり専門職の超力者よりは出が遅いね」
対橘お姉様と佐伯お姉様のことだけ考える訳にいかず、四力の自力も上げる必要があったためだろう。藤宮君の超力砲は、純粋な超力者の超力砲よりも若干遅く、橘お姉様に立ち直る隙を与えた。
「【貫き氷柱】!」
今度こそ橘お姉様の氷柱が藤宮君を襲う。四力結界ではこれを素通りさせてしまう。が。
「【超力壁】!」
「っ!?」
藤宮君の前面の空間が断たれた。
「まあそりゃ使えるよねえ……超力砲が使えるなら壁の方も」
「ええそうね」
四力結界では防げない。ならば超力壁。あまりにも当然の考えだろう。だが、果たして絶対の防御壁を持つ相手が、一段も二段も劣るものを使うと想像できる者がどれだけいるか……橘お姉様の驚愕がありありと伝わってくる。
「【超力砲】!」
「【貪降】ぐうっ!?」
かつてロシアの超力者は、超力砲と超力壁だけで我々は完成しているのだと言ったことがあるらしい。この光景を見れば一つの答えなのだと実感させられる。起死回生のために何とか相手の異能を剥ぎ取る貪降雪這を発動させようとする橘お姉様だが、壁としていた氷結界がみるみるうちに崩れ、発動するための集中力を維持できない。
これは……勝負あったか?
いや……。
「【超力砲】!」
まさに基礎基本にして奥義。超力砲が氷の壁を粉砕し、その超力の砲弾が橘お姉様に……。
「【
「藤宮君もこうなる前に倒したかったんでしょうけど」
「だね」
使った。
藤宮君と佐伯お姉様が、それぞれ死力、イグニッションという自爆ともいえる様なブースト技を生み出したのは理由があった。それこそがかつて相対したベルゼブブ。特鬼すらはるかに超える様な超越者と出会った皆は力不足を実感したが、出した結論は今現在の自力ではあのレベルと戦うのは無理。だから死ななければいいというは発想の元で、それぞれが新たな力を手にしたのだが、それは橘お姉様も同じだ。
決闘場に雪女が降臨した。
白い肌とそれよりも真っ白な長い髪には霜がびっしりと付き、全身からとてつもない冷気が漂っている。
だが決闘場の変化はそんな生易しいものではない。その地面全てが瞬時に凍り付いた。あの氷室恐悉は橘お姉様の異端ともいえる浄力全てを全開放して、周囲を無差別に氷獄の氷室と化し、その憐れな犠牲者の顔を悉く恐れに変えて凍り、そして氷漬けにする。
勿論藤宮君も例外では
「【死力解放】おおおおおおお!」
いや目には目を。歯には歯を。自爆のブースト技には同じくだ。超力壁では耐えられず、壁として展開した四力結界では素通りしてしまうことを恐れて、自分の力全てを攻勢なものとして放ち相殺しようと!?
いや違うぞ!
「ぎゅっと抑えつけて密度を上げたわね」
自分の力全てを放つのではなく、それを無理矢理抑えつけて耐え凌ぐつもりだ! 勝算があるのか!?
いや待てなにか覚えがある! そうだ! 戦闘会で戦う相手の敵情視察を藤宮君と終えた帰り、ゴリラとばったり会った時だ! あの時ゴリラは確か、そう! 四系統一致の結界は、密度を上げれば上げるほど誤作動がなくなると言った! つまり!
「【死力結界】!」
藤宮君の体が七色に輝く! 密度を上げるため結界張るのではなく、自分そのものを一つの結界として、虹と成ったのだ!
その瞬間、虹は白に覆われ……そして……。
「……私を倒した以上優勝しなさい」
「ああ」
それだけを言って……溶けた氷のように倒れたのは……橘お姉様。
『勝負あり!』
そしてふらふらになりながらもたっている勝者こそ……藤宮君だった。
決勝戦
アーサー対藤宮君
◆
あっはっはっはっはっはっはっは! 凄いもの見ちゃったなあ! いやほんと凄かったなあ! 明日の決勝はどうなるんだろうなあ! 力と力のぶつかり合いかな! 技と技の応酬かな! それともそれとも!
「貴明、ちょっといいか?」
「はっ!? なんだい藤宮君!」
ついテンションを上げて体を左右に振っていたら、我らが代表として決勝に進んだ藤宮君に声を掛けられた。
「これ、どうだ?」
言葉少ないそう言って藤宮君が渡してきた紙には……
あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは! 見てますかコンスタンティンさん! 貴方が素直すぎる真っすぐすぎる、頭が固いと言った藤宮君ですけど、ちゃんとあなたの教えを受け継いでますよ! あまりにも単純だがこれは効く! 間違いない! ゴリラもこれを知れば喜ぶだろう!
ああそうか! 橘お姉様にああしたのは、これの確認の意味もあったのか!
「それじゃあちょっと確認する?」
「ああ頼む」
いやあどうなるかなあ! あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!
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