黄金世代4

「【ボルケーノ】!」


『ぐああああああ!?』


 佐伯お姉様が勝った。敗北を知りたくない。


「完成したわね。残酷魔法少女飛鳥ちゃんが。ぷぷ」


 呆気ない決着だった。試合開始と同時に空に飛びあがった佐伯お姉様に、相手の霊力者は何もできず焼き払われたのだ。ひょっとしてこの大会、佐伯お姉様に有利なのか?


「霊力者が多いからやりやすそうね。あとは超力者と早撃ち勝負しなかったら結構いいところまで行けるかしら」


「ですよね!」


 お姉様の言う通りだ。この大会はどうも、対ロシアの超力者を念頭に置いて、耐久力の高い接近戦が得意な者が多く、超力砲が一発二発当たってもそのまま近づいて切り捨てたり、これまた一撃を貰ってもどっしりと構えてじわじわと責める違いはあれど、前評判のように超力者が圧倒する展開にはなっていない。尤も、念頭に置いてなおその初撃の出の速さに押され、そのまま負けてしまうこともある当たり、ロシアの超力者は底が知れない。


 ともかくまあ、そんな霊力者と超力者がバチバチやっている環境に突如現れたのが基礎四系統が通じない四力を使う藤宮君であり、どっしり構える者達の天敵である橘お姉様であり、そして佐伯お姉様だ。


「やっぱり空を飛ぶってすごいアドバンテージなんですね」


「ええそうね」


 先程佐伯お姉様と対戦したノルウェーの選手もまた霊力者だったのだが、佐伯お姉様が空を飛んだ瞬間完全に詰んだようで、上空をジャンプして何とか手に持っていた斧を当てようとしたのだが、空中故に回避が出来ず、もろに溶岩の波に呑まれて負けてしまった。


 つまり佐伯お姉様は、環境における片方の霊力者に対して完全にメタとなっており、超力者と当ると早撃ち勝負を仕掛けられて飛ぶ前に被弾したり、飛んだ後も狙い撃ちにされるためかなり不利だが、対霊力者においては、アーサーのようにとんでもない速さを持っているような例外を除いて非常に有利なのだ。トーナメントの当たり方次第だが、運が良ければ行けるところまで行くかもしれない!


 いや! 佐伯お姉様だけではなく藤宮君と橘お姉様もだ! チーム花弁の壁で表彰台独占間違いなし!


 ◆


 ◆


 ◆



「……」


「……」


「ダメみたいね」


「ふ、藤宮くーん! 橘お姉様ー!」


「完全にグロッキーだねこりゃ」


 大会中はほぼチームの専用場所と化している小さな訓練場では、完全にダウンしてベンチに寝転がっている藤宮君と橘お姉様の姿があった! 無事なのは肩を竦めている佐伯お姉様だけ! 死力を使った藤宮君も、食事をしたがやはりガス欠している橘お姉様も本調子には程遠かった!


「これで夕方のバトルロイヤルに出るの?」


「……当たり前でしょ……突っつくの止めて小夜子」


 倒れ伏している橘お姉様の腕を、お姉様がツンツンと突っついている。当然橘お姉様は嫌がりながらも、午後からのバトルロイヤルに対して意気込みを見せていた。


 ぬおおおおお! 許されることなら俺の暗黒パワーを分けてあげたい! だが学生運営委員長として肩入れは許されない!


 だがチーム花弁の壁は必ずやバトルロイヤルでも勝利を掴み取るだろう! ガハハ!


 ◆


 ◆


 ◆


 ◆


「……」


「……」


「……」


「ダメだったわね」


「ぐすん……」


 お姉様が肩を竦め、俺は鼻水をすすってしまう。


 バトルロイヤルが終わり、再び小さな訓練場に戻っていたが、今度は藤宮君と橘お姉様だけでなく、佐伯お姉様もベンチに転がっている。


「くそっ。普通放置するか? おかしいだろ」


 寝転がって対戦相手達に文句を言う藤宮君だが仕方ないだろう。何せ彼は完全に放置されて誰にも会えず、気が付けば試合が終わっていたのだ。文句の一つも言いたくなる。だが相手は相手で文句を言うだろう。基礎四系統を完全に防ぐバリアを持っているとか反則だろうと。なら当然彼に対する扱いと作戦は決まり切ってる。完全に関わらないことだ。残念ながら機動力と索敵手段に乏しい藤宮君はそれに対処できずバトルロイヤルから脱落した。


「……」


 ちょっと生きているか心配になる程ぐったりしている橘お姉様はむしろ逆。袋叩きにされて敗退した。だがまあ、相手の出方はちょっと過剰だとは思うけどこれも仕方ない。橘お姉様は【貪降雪這】を森一帯に降らせるような事ができないのに、それを恐れた他の選手全員が橘お姉様を第一の標的として襲い掛かり、結果として全方位から攻撃されて敗退したのだ。


「酷くない? ボクが何をしたって言うんだ。ちょっと空から一方的に攻撃しただけじゃないか」


 不貞腐れている佐伯お姉様も似た様なものだ。通常の試合では空中から一方的に攻撃して勝ち上がった佐伯お姉様だが、対戦相手の中によりにもよって一回戦と二回戦で打ち破った者が混じっていたため、目の敵にされて両者が協力。上空に飛び上がっていたが木が邪魔で相手を見つけられず、仕方なく下降した佐伯お姉様に木を足場にして襲いかかり、そのまま打ち倒してしまったのだ。FPSで長距離狙撃されて顔を真っ赤にしながらやり返そうとした俺かな? やっぱり一方的な攻撃は恨みを買いやすいんだなって。


「バトルロイヤル自体は、アーサーか一人師団の次男かしら?」


「ですねえ……」


 残念ながらチーム花弁の壁が敗退したバトルロイヤルだが、この優勝はアーサーか一人師団の次男かになるだろう。アーサーは半裸スタイルで目に付く奴全てをなぎ倒しているのだが……。


「やっぱり相手が悪かったですね」


「ふふ。初見でアトロポスとやりあったらねえ」


 大会最大のダークホースであるアトロポスに初戦で負けて、波乱の大会を演出してしまった一人師団の次男だが、こいつやっぱり対人において強すぎる。透視で森の中が丸見えだったのだろう。その全てで先手を取り、最速必殺の超力砲で一方的に相手を戦闘不能にして、これまた時間制限のあるバトルロイヤルなのに全員をぶっとばしやがった。やっぱこの世代おかしい。


 見るだけならセーフだと思って猫君と観戦していたが、彼から猫君式基礎森林戦闘術の合格を貰っているほどだ。接触式で爆発する超力の地雷とか初めて見たぞ。聞いた話、彼が所属するアメリカ東海岸校はお坊ちゃま校と揶揄されることがあるようだが、父親にしごかれたのかお坊ちゃまの戦い方じゃなかった。そういや半裸が妙にシビアな選手宣誓したときも拍手してたな。やっぱりアトロポスが相手だったからあれだけど、優勝候補筆頭の名に相応しい奴だ。


 ともかくまあ、残念ながらバトルロイヤルに敗退した皆だが、一番目立つ一対一では揃って3回戦に進出したのだ。これは快挙だ! こっちはまさに優勝間違いなし!


 明日からも頑張ってね皆! えいえいおー!


 ◆


 ◆


 ◆


 ◆


 ◆


『勝負あり!』


「ふううう……」


 かかかか勝ったあああああああああ! 藤宮君が勝った! 相手はマーズの真似をして持久戦を仕掛けてきたが、一瞬のミスで【四力連射砲】に捕まって、そのまま連射に耐えきれず場外に吹き飛ばされた! やっぱりあの戦法はマーズのメンタルあってこそ!


 そしてえええええええ!


 西岡君と南條君は敗れたものの!


 チーム花弁の壁、藤宮君、佐伯お姉様、橘お姉様は勝ち上がってなんとベストエイトオオオオオオオオ!


 ばんざーい! ばんざーい! ばんざあああああああああああああああああああい!


「となると次の対戦相手、飛鳥はジャンヌダルクの妹、栞はアトロポスね」


 あああああああああああああああ! 神様お願いなんとかしてええええええええ!

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