大会裏方の被害者達の電話
前書き
大会初日の最後に書く予定だったんですけどすっかり忘れてました!
◆
pipipipipipi
むう!? 電話!? あ、相手は……なんだ異能研究所の源所長か……要件はまさか……。
「もしもし竹崎です」
『大会で忙しいところにすまんな。手短に聞くが、宮代の倅の進路はどうなっている?』
なんだそっちだったか。どうやら戦闘会会長をしている宮代の大会での戦いぶりをテレビで見たのだろう。態々電話を掛けてくるとは、余程気になっているらしい。
「実家に戻って嫡男として宮代家を継ぐと聞いています。そちらに行く意思はないかと」
『無理を言うがなんとかならんか?』
どうやら余程気になるどころか、かなり入れ込んでいるらしい。自分でも無茶を言っている自覚はあるようだが、それでも何とか異能研究所に宮代を迎え入れたいようだ。まあ古強者程、宮代の戦い方は気に入るだろう。源所長もかつては不動明王の迦楼羅炎を纏い、正面から非鬼や特鬼と相対していたと聞く。
「さて、宮代は他に兄弟はいませんから難しいでしょう。ですが条件は伝えておきましょう」
『幹部候補として迎え入れ、経験を積むか、もしくは非鬼が現れた時に討伐隊に編成して、貢献があればそれを実績に、初年度からでもそのまま幹部に昇格させる』
「思い切りましたな。それなら宮代家から出向という形で可能性があるかもしれません」
『そうか。話を聞いてみてくれ』
「分かりました」
これは大分入れ込んでるな。国家の霊的防衛を担う唯一の国家機関として、異能研究所に勤めている者達は選び抜かれた精鋭であり、そこに所属するのは大変な名誉であると同時に非常に狭き門だ。それをいきなり幹部候補として迎え入れ、非鬼を討伐したという功績が発生したとしても、いきなり研究所の幹部に抜擢するのは前代未聞だろう。だが、宮代がこの学園創立以来の傑物だと思えば、関係の深い異能研究所でエスカレート式に昇進するのもそれほど変ではないか。まあ追い越される周りの方はそうはいかんだろうが。
『いい加減私も歳だからな。お前がこの席に就かんのなら他の者を見つけるしかない』
「私にその能力がないのは分かっているでしょうに」
『まあそうだが……』
おっといかんこちらに飛び火した。政府や源所長から、異能研究所の所長への就任を何度か打診されたことがあるが、そうなると畑違いの政治に深く関わることになる。はっきり言って自分にその適正がないのは明らかなため拒否していた。源所長も私に期待しているのはあくまで看板で、政治的な能力がないのを分かっているから言葉を濁している。
『あの馬鹿弟が仕事をしていれば。急に逃げよ……』
源所長の愚痴を溢したが急に止まった。恐らく自分の周りを確認しているのだろう。聞こえていないかを恐れている。
30年近く前になるが、当時の異能研究所本部には源所長の弟も所属していた。その人物は組織内の雰囲気を和らげるのに中々長け、だが現場では厳しい戦士であったため職員の信頼も厚く、当時次期所長と見られていた源所長の最も信頼のおける右腕になる。筈だった。源所長曰く……裏切って逃げるまでは。
聞いた話だがその弟がある日突然、九州にある異能研究所支部の支部長になると強烈に自己主張してとんずらするまでは。
当時の九州は大陸から定期的に強力な妖異が襲来していたため、源所長の弟が支部長になるのは歓迎されていたし、所長自身も頼りになる弟が前線の重要拠点にいてくれるなら国防的に安心だと思っていた。実際その後、現場にも出て九州を守り切ったから優秀さが分かるというものだ。が、本部から九州に旅立ったのは、貴明の父、唯一名もなき神の一柱がこの世界に帰ってくる前日の話だ。
そう……どうもその男、唯一名もなき神に対してだけ危機察知に関する力が半端ではないようで、貴明の父に関しては徹底的に避けることに成功しているのだ。だが他のことについては限定されているようで、一度幼いころの小夜子に会って酷い目にあったとぼやいていたと聞いたことがある。
ともかくまあ、貴明の父に対して殆ど専門の係官と化した源所長はいい面の皮だ。自分の胃は爆散しそうだったのに、弟は何らかの予感を感じて逃げ出したのだから。だがそれに対して文句を言おうにも、まさか唯一名もなき神の一柱のことを言葉にする訳にはいかない。そのためその弟は完全な護身を成し遂げ、唯一名もなき神の一柱を認識していないし、されてもいなかった。
羨ましいことだ。私も源所長もその能力がなかったゆえに関わる羽目になった。源所長はよりにもよって、まだ誰も気が付いていなかった唯一名もなき神に声をかけて異能研究所まで連れて行き、自分はどうしても対処できない存在がいると言われて、のこのこと異能研究所に出向いたらあれだ。この世に存在する深淵に手を突っ込み、その隙間から覗く万を超えるであろうぎょろりとした目を見る羽目になった。あれは今でも夢に見る。
『そう言えば聞いた話だが、学生の副音声が好評らしいな。後進が育っているようでなによりだ。政府もお前に学園長を任せて正解だったと喜んでいた』
「そうですか」
来た。最初この件かと思っていた。どうも学生の実況解説が好評のようで、それとなく探りを入れてくる者がいるようなのだ。特に人気というか気になっているのは木村のようで、厄介な初見殺しを持っていることが多い妖異を相手にする日本の異能者にとって、事前に相手を丸裸にできる能力者は是が非でも欲しいのだろう。源所長はそれに唾を付けるつもりで電話を掛けてきたと思っていた。
だが大問題はその面子の中に貴明がいることだ。散々彼の父に振り回された源所長が聞けば卒倒するだろう。絶対に言う訳にはいかない。
『桔梗の鬼子も大人しいしな。あれを御せるのはやはりお前しかない。だが油断するな。あれは完全に人間を超えている。特鬼よりよほど恐ろしい』
源所長は霊的国防を担っているトップの一人である以上、自分の楽しみを優先する超越者といえる小夜子を危険視するのは当然だ。どうも小夜子の方は知らないようだが、源所長は以前に見かけたことがあるらしい。それ以来小夜子の動向にはかなり気を使っているようだ。しかし、学園に入ってから小夜子は大人しい。貴明が原因で、だ。当然これも言えない。よりにもよって心底恐れている相手の息子と、危険視している超越者が夫婦なのだ。下手をすれば源所長は知ったその日のうちに隠居しかねない。
『いかんな。結局話を長くした。忙しいところ悪かった』
「いえ。そちらも成人の部でお忙しいでしょう」
『まあな。それでは』
「はい」
異能研究所の方では、異能大会成人の部が行われているため多忙なのだろう。特に余韻もなく電話が切れた。
だが……なにか急に思い出したような……。
そうだ大会後の貴明の研修先だ! 大会後に一年生の研修があり、生徒はそれぞれ日本各地の研修先に向かうが、新入生の主席は代々、九州にある異能研究所支部に決まっていた! どうする変えるか? いや、歴代がやって来たことを急に変えると不自然だ。貴明にその能力がないと侮りを受けることに繋がりかねない……訳ありだからと伝えて、通常の生徒とは少し違うと念を押すしかないか。
いや待てよ? そう言えば今の九州支部の支部長は誰だ?
ひょっとしてまだ源所長の弟が?
◆
◆
◆
「ほっほっほ! 仕事中に見る大会の試合は最高じゃの! って学生の副音声をまたやっとるんか。桔梗の鬼子の声を聴いたらおしっこちびるから聞かんわい! それよりえーっと、仕事してる振りして大会見てるけど質問ある? っと。兄者の目も届かんしまさに天国! ほっほっほっほ!」
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