黄金世代
再び実況解説
前書き
話進めないといけないのは分かってるんですけど、前回書いた実況解説無双が評判よかったもので……
◆
うっなんだか時空の乱れを感じたぞ……お姉様との新婚旅行は昨日の話じゃない筈なのに……まあいいか。
「今日の大会も楽しみね」
「そうですねお姉様!」
今日は国際異能大会の二日目なのだ。気合い入れていくぞ!
◆
「諸君おはよう。今日は大会二日目だ。出場者全員が二回戦に進出したのは実に喜ばしい。他の者もしっかり自分の糧にするように。以上だ」
流石ですね学園長。本当に必要最低限の事しか喋らないとは、そこらの校長の30分演説とは無縁だろう。しかしそうか、色々予定が重なって見に行けなかったが、西岡君と南條君も初戦を突破していたか。流石は異能の東西南北の出身。つまりルーキー部門は全員が初戦を突破したことになる。これでまた、日本やべえという話が海外コミュニティで話題になるな。
そしてその選手である藤宮君達全員が集中して瞑想している。これは二回戦も貰ったなガハハ! だがそうなると、安易に声を掛けられないな。ってあら?
「いよっし貴明マネまたよろしく!」
「はい!」
佐伯お姉様が気合を入れながら立ち上がり近づいてきた。どうやらあれをご所望のようだ。
「でりゃ!」
「ぐげら!?」
邪神流柔術活法を使って、佐伯お姉様の背中を押し込んでリフレッシュさせた。
「じゃあ行ってくるよ!」
「頑張ってください!」
教室を出ていく佐伯お姉様を目で追っていると、見覚えのある男性、間違いない。昨日試合の解説実況をした時に一緒に仕事したテレビ局のベテランスタッフだ。向こうも俺を見つけたようで、少し頭を下げながら手を上げている。
「おはようございます!」
「おはよう。ちょっと今いいかな?」
「はい! どうしました?」
はて、教室までやって来るとは一体何があったんだ?
「昨日の副音声なんだけど、反響が大分、すっごく、超良くてね。事前にどの時間帯にやってくれそうか確認しておきたいんだよ」
な、なんだって!? それほど気にしていなかったから、視聴者の反応は調べてなかったが、態々スタッフが教室までやって来て、事前に打ち合わせが必要なほど反響があったのか! ふは。あーっはっはっはっは! よかろう! この四葉貴明の美声を再びお茶の間に聞かせてくれるわ! あーっはっはっはっはっは!
◆
◆
「皆様お待たせしました。国際異能大会学生の部2日目を、再び学生達で実況解説するコーナをお送りいたします。よろしくお願いします」
「ふふ。よろしく」
「よろしくお願いします」
メンバーは相変わらず最強の布陣である俺、お姉様、マッスルなのだがチャラ男はいない。
「なお昨日の途中から参加していた助っ人は、彼女の応援に行くと言って来ていません。一応言っておきますが、呪術師への依頼は犯罪なのでご注意ください」
あの野郎、ふざけたことに交際しているモイライ三姉妹の応援に行くとか抜かしてここにはいない。お茶の間に向けてジョークを交えたが、俺が直接呪ってやろうかな。
まあそれはいい。代わりに他のゾンビ達に声を掛けたが、狭間君は面倒だからとパス。東郷さんからは、そんなテレビだなんて無理無理! と強く拒否されたため、しゃあないから残りを引っ張ってきた。
「ですので代わりの助っ人を呼んでいます。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
普段とは全く違う殊勝な声でマイクに話しかけているのは、ゾンビ共の元紅一点こと厚化粧だ。うむ、今日も見事な厚化粧。口紅とか塗りすぎて層になってるし。
「本日の見どころはやはり宮代選手ですかね?」
「そうなるでしょう。昨日あれほど見事なマッスルを全ての選手に見せつけましたから、全員が最も警戒しているはずです」
マッスルに話を振ったが言わんとすることは分かる。あの半裸会長は確かに見事なマッスル、そしてマッスル試合だった。脳筋ともいうが。
「最初の試合はその宮代選手の試合となりますが、前の試合は一瞬で決着がつきましたので、テレビの前の皆様はどうかお気をつけください。対戦相手はイギリスのルイス選手となります」
やはりというかイギリスは強く、かなり二回戦まで上がっているようだ。なにせ弟子ではないがアーサーの薫陶を受けたものが多く、白兵戦においてかなり侮れない国となっている。だがこのルイス選手が戦った試合は見ていないので、どんな試合になるか分からない。
『選手入場!』
「早速両選手が入場してくるようです」
ひがーしー、はんらー。
にーしー、るい!?
「むう……こちらも見事なマッスル……」
「あら、ふふふ」
やはり! マッスルが唸りお姉様が笑っている!
「このルイスという男、かなりとんでもないのでは!?」
半裸の対面から入場してきたのは、長い金髪を腰に提げた剣まで届くほど伸ばした、一見女性と見間違えてしまうような優男だが、こいつ歩き方からしてクッソ強いぞ! ルーキー部門のアーサーの弟子といい人材多すぎるだろ! 流石は大英帝国!
「これはどちらが勝つと見ますか!?」
「ほぼほぼ互角と見ましたが……」
腕を組みながらマッスルが再び唸る。マッスルですら断言できないほどあの優男は強いのか!
……そしてマッスルがちらりと厚化粧を見た。
「宮代選手が総合的に優位ですね」
それに気が付いたわけではないだろうが、望遠鏡を使って二人の選手を見ていた厚化粧が断言した。
「なるほど宮代選手が優位!」
「ふむ」
「ふふ」
それに一つ頷いたマッスルと、面白そうに厚化粧を見ているお姉様。その根拠のない断言を全員が否定しない。
如月優子。
自分で弾を込められない完璧な銃身は、夢魔であるがゆえに精神力を吸収する以外、もう一つ特殊な能力を持っていた。
それは、相手の能力を完全に把握する力……なのだが。
嫌な予感がしたので厚化粧のマイクを切る。
「両方修行馬鹿。どっちも結婚相手にはボツね」
切っておいて正解だった! こんなのお茶の間に流せる訳がねえ!
そう! この女はやたらと男に対する評価が正しく、それはお姉様やマッスルですら認める【眼】を持っているのだが、まず大前提として自分が玉の輿に乗るために磨かれた力だったのだ! しかも競争相手を蹴落とすため、女に対しても能力を把握することができるまさに馬鹿! ついでに言うと、以前ロシア校が持ってきたダイアモンドに食いついたように、宝石に対する審美眼もかなりのものである!
なおクラスの男子生徒に対する評価は、マッスル、狭間君、チャラ男は纏めて馬鹿。藤宮君は金はあるけど息が詰まる。ナンパ師村上君、アホ。など散々だ。なお俺に対しては、面倒に巻き込まれるのが目に見えてると言われた。解せん。
ついでに昨日ちらっと見たらしいアーサーの弟子も修行馬鹿、一人師団の次男はお坊ちゃんと評していた。まあなんとなく分かる。
「今両選手の間で、視線、筋肉の動き、果ては気配まで使って非常に高度な読みあいが発生しています。しかも両者ともにそれが全てフェイクだと看破しているようです」
「やはり既に戦いは始まっているのですね」
「はい」
おっと、マッスルの声に我に帰る。どうやら達人同士の読みあいが発生しているらしいが俺にはさっぱり分からん。
「お互いの筋肉が判断に困っていますね。速攻を掛けるか時間を掛けるのか……」
筋肉が判断に困る? 駄目だ頭がおかしくなりそうだ。とにかく両者とも、作戦プランを悩んでいるらしいことは分かった。だが、半裸の今までの戦いぶりを考えると、やはり速攻を掛けるんじゃないかね。
「二人とも拮抗した状態ならゆっくり距離を詰めると思います。そういうタイプの男でしょう」
「なるほど」
厚化粧が男がどういったタイプかで結論付けた。ほんまかいな。
「筋肉の意思が定まりました。相手の必殺圏内を探りながら、隙あらば仕掛けるようです」
「持久戦になると?」
「ただの持久戦ではなく、一撃必殺の持久戦となるでしょう」
ダメだ、本当にマッスルと話してると頭がおかしくなる。普通考えるのは脳みそだろ!
『両選手とも速攻を仕掛けて一回戦を終えています。これは一瞬の勝負になるかもしれません』
今日も追っている通常放送は速攻の掛け合いと見たらしい。俺もそう見てたんだが、マッスルは筋肉を、厚化粧は人間を見るのが得意だからな……さてどうなるか。
『試合開始!』
始まった!
「試合が始まりました! が! 両者動かない! 宮代選手もルイス選手も構えはすれど一歩も動きません!」
マッスルと厚化粧の言う通り、二人とも動かず睨み合っている!
「二人とも足先の霊力を動かしてるわね。止まってる振りをしながらほんの少しずつ前に動いてるわ」
「間合いを詰めていると!?」
「ええ」
お姉様が言うには二人とも霊力を使って、僅かながら前に進んでいるらしい。
『止まってるぞ』
『いったい何が』
観客席が騒めく。俺も含めて観客席の学生達には止まっているようにしか見えない。こ、この邪神流柔術後継者でも分からない歩法だと!?
「霊力、切るかもね」
お姉様がニタニタ笑いながら選手を見ている。
「完全に霊力を切った後、再び発動すると一瞬の爆発力が上がることが知られていますが、それを使うと?」
「ええ」
霊力は完全に発動を停止した後、もう一度使うことにより緩みからの緊張で、ほんの一瞬だが高い爆発力を獲得することができる。お姉様は選手二人がそれをやるのではないかといったが、一瞬の隙も見せることができない実力者前にして、果たして命綱といえる霊力を切ることができのか?
「戦いで腹を括る事ができるタイプですからやるでしょうね」
それを厚化粧が肯定した。
「切りましたね」
「なんということでしょう! 宮代選手もルイス選手も高密度に圧縮していた自分の霊力を全て切りました! 今の彼らは単に鍛えられた人とほぼ変わりません! 全てを一瞬で終わらせるつもりだ!」
マッスルの言う通り、二人とも霊力を完全に切った!
『これは……恐ろしいことになりました。一瞬の瞬発勝負を掛けるつもりなのでしょう。しかし、普段戦車と例えられる霊力者が、今はカッターナイフでも傷つくような状態です』
通常放送も同じ結論を下したのだろう。ドン引きした声が聞こえてきた。そう、霊力を切るということは、身を守る力も全て切るということだ。つまり日本刀の前で半裸のような状況!
「そして気が付けば、いつの間にか両者が接近している! 全く動いた様子はなかったのに!」
二人の立ち位置は決闘場中央からやや離れた位置にいたはずなのに、気が付けば両腕を広げた程度の距離しかない!
「あそこがお互いの必殺圏内から爪先一つ分の距離です。それにしてもなんというマッスル神経……」
マッスルが言うには、もうお互い必死必殺の線上から目前のようだ。し、心臓に毛が生えてやがる。
そしてその間合いが……かさ、重な、かさ……か、か
『っ!』
「……っ!」
「ルイス選手、爆発したかのような霊力とともに最短最速の突き! だが宮代選手それを躱し!? そんな馬鹿な! 今! 霊力を発動! 拳を放つ! 早すぎる! ルイス選手の顔に着弾! ルイス選手そのまま決闘場から叩き出された! 決着! 西部劇ですら起こりえないような早撃ち勝負の勝者は宮代選手! 残心を解かない勝者の姿を見よ!」
はええええええ! ほんの一瞬の勝負だった! しかも色々とおかしいだろ!
「先ほどの宮代選手、まさか敢えて霊力の発動を遅らせませんでしたか!?」
「ええそうね。ぎりぎりまで待ってたみたい」
「ほぼ勘でタイミングを計ったのでしょう。恐ろしい勝負強さです」
「でも博打が好きってタイプではありません。自分の中で確固たる勝算があったんでしょう」
なんとあの半裸は、相手が動いてもなお霊力を発動させずにぎりぎりまで我慢したのだ。つまり初激を避けたのは素の集中力と勘によるもの。まさに脳筋オブ脳筋!
「おおっと! 場外に叩き出されたルイス選手ですが、再び決闘場に上がると宮代選手とがっちり握手しました! これぞ男同士の友情! テレビの前の皆様も、ぜひこの選手達に拍手をお願いいたします!」
ゴリラ二世のような半裸と、女性のような優男が、夕日をバッグに砂浜で殴り合った後のように握手をしていた。やたらと暑苦しいが、とにかく通常の学生の部は、半裸が優勝したようなもんだなガハハ!
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