運命の三女神

「うーん権能使いかあ……」


「むう……」


「……」


 さて困ったぞと呟いている佐伯お姉様、唸っている藤宮君、沈黙している橘お姉様。


 稀にだがいるのだ。基礎四系統で最強の能力である霊力、その中でも最強と言われる霊力の使い手が、神仏の力を借りるのではなく、ほぼそのままの力を行使することができる。それを異能者達は、同じ異能者ではなく権能者、または権能使いと呼んだりする。


 日本で一番有名なのは、ゴリラの前に日本最強と呼ばれていた、異能研究所所長、源道房だろう。そのご老体は、不動明王が不浄を焼き清める炎、迦楼羅炎をほぼオリジナルの物と遜色ないレベルで使いこなせて、最盛期は非鬼でも一発で焼き尽くしていたらしい。


 当然胃に剣で居候していた親父にも全力で食らわせていたのだが、親父曰く、その後で食べたかき氷が美味しかったと、訳の分からん感想を聞かされた。暑い日にはかき氷だって言いたかったのかあれ? お爺ちゃん可哀想に。全力の迦楼羅炎が、夏の暑い日程度に貶められたなんて、さぞかし胃に剣がぶっ刺さっただろう。


 そういやゴリラは権能使いって呼ばれてないな。まあ、ゴリラは阿修羅の権能って言うよりかは、その力を借りつつ自分の力で戦ってるからちょっと違うか。


 尤も、そのゴリラが担当しているクラスに権能使いがいるが。チャラ男って名前だが。あいつマジでやばいな。


「いよっし! 当たるところまで行った時に考えよう!」


「確かにそうね」


「ああ。まずは目先の勝利だ」


 佐伯お姉様が開き直ったが、確かに対戦相手一人一人が強敵なのだ。当たるところまで行く確証がないなら、すっぱりと考えるのをやめるのは一つの手だろう。


「そんじゃボクはイメトレしてるね」


「私もそうするわ」


「俺もだ」


「頑張ってね皆!」


「ふふ」


 次代の星だけではなく、次に当たる対戦相手も確認した皆は、どこか空いてる訓練場でイメージトレーニングを行う様だ。


「それじゃあ私は挨拶しに行きましょうか」


 お姉様の声に、俺も含めてチームの皆がぎくりとした……誰に挨拶とは聞くまでもないだろう……。


 ◆


「あら丁度良かった」


 選手団のいる控室にまで足を運んでいると、途中の自動販売機の前で、お姉様がお目当ての人物を見つけた。いや、人物達か。


「ねえあなた達、私と遊ばないかしら?」


 お姉様が、それはそれは素晴らしいニタニタ笑いでその人物達、ギリシャの選手である三人、モイラの力を宿した三人に、人類共通語である力ある者の言葉で話しかけた。


『お断りね』


『お断りするわ』


『お断りなの』


 金、黒、銀の髪をした女性達が即答した。まあ、そりゃ初対面の相手に遊びましょうと言われても、断るだろう。


『貴方は私達が』


『三人で出来る事を』


『一人で出来るもん』


 そ、そこまで分かるかよ……。でもその断り方はマズいですよ!


「へえ。分かるのね。うふ。うふふふふふふふふふ」


 お姉様の興味が最高潮に達している!


 ゴリラーーーーーー! 早く来てくれーーーーー! 間に合わなくなっても知らんぞーーーーーー!


 あわ、あわわわわわわわ。


「あわ、あわわわわわわわ」


 ん? 誰だ? 俺は声に出してないぞ?


「木村君?」


 曲がり角から身を乗り出してあわあわ言ってる不審者は、誰かと思えばチャラ男だった。うっ、なんかチャラ男の顔を見たら頭痛が……そういや放送席にいなかったことといい、チャラ男に関する記憶が一部無くなっているぞ!? まさかこの俺様に、記憶操作を施した奴がいるのか!?


『さあ行きましょう』


『行こう』


『行くの』


 行くって何処へ? つうかチャラ男……。


「ぷふ。ぷぷぷぷぷぷぷぷ」


 お姉様も俺と同じ事を思ったのか、ニタリと裂けそうだった口が、今度は引き締まって必死に笑みを我慢している。


「そのセーターとニット帽と手袋は?」


 なんか知らんがチャラ男の奴、毛糸で編まれた黄色のニット帽と、黒色のセーター、白の手袋をした、完全防寒態勢だったのだ。


「いやあ、あの拉致られた後、これは年貢の納め時やと思ってたら、これプレゼントされてね。ワイ寒がりやし、そろそろ寒くなるから大助かりですぐ着ちゃったんや」


 ふーん。モイライ三姉妹だから、編み物もお手のもんなんだろうなあ。ところでその防寒グッズ、邪神の俺だから分かるけど、女の情念がこれでもかと込められてるぞ。それ本当に脱げるの? 呪いの装備のお約束的に脱げないんじゃね?


「ぷうううふふふ」


 お姉様も、自分で呪いの装備を着たチャラ男に我慢が出来なくなって、固く結ばれた口から空気が漏れ出している。写真を撮って家宝として飾りたい。あいてててててててててっ。でへへ。


「しかも、この後手料理作ってくれるって言われてな。男の自炊なんていっつも代わり映えしないから楽しみなんや」


 あ、ふーん。衣食住の内二つも抑えられてるわ。直接的手段で既成事実を作るんじゃなくて、外堀から埋めることにしたんだな。残りの外堀は住だけで、もう大阪チャラ男城は陥落寸前だ。


「うぷ。うっぷう」


 そしてお姉様の腹筋も陥落寸前だ。まともにチャラ男を見られなくなっている。


「そ、そう言えば木村君と、そちらの三人はどう仲良くなったの?」


「それは、初めて会ったその日の晩の事やった」


 こいつ、ニュー白蜘蛛君にやったみたいに、ここでも紙芝居始めるつもりじゃないよな?


『素敵だったわ』


『素敵だった』


『素敵だったの』


 つうか、三人がほんのり頬を染めながら、チャラ男に身を寄せている。話に興味はあるけど、こいつ今すぐ呪いてえ。


「ぐーすか寝てる時に、ニュクスの姐さんに連れられて、三人の夢の中へ迷い込んだのじゃ」


 いきなりビッグネーム出すんじゃねえよ馬鹿! ギリシャ神話体系の祖、カオス直系の夜の女神じゃねえか! 殆ど陽炎になった現代の神に直接導かれるとか、こいつヤバすぎるだろ! しかもなんか語り部みたいになってるし!


 ツッコミどころが多すぎる……果たして、俺はこの話を全部聞き終えた時、正気を保っているのだろうか……。



後書き

手編みのセーターのネタは感想からいただきました!ありがとうございます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る