次代の星達

「チームは勝ったから、後は気になる連中だけね」


「そうですねお姉様!」


 チームの皆が一回戦を突破したから、俺もリラックスして他のヤバい連中を見ることが……今日のところは出来る。


「いやあ、やっぱり二人とも勝つよね! あっはっは!」


「ええそうね飛鳥」


 藤宮君と橘お姉様が勝ったのは当然だと笑っている佐伯お姉様だが……真実は違う……。


「ところで今までどこにいたのかしら?」


「なに言ってるんだい小夜子。ずっとここにいたじゃないか」


「ああ。そうだったわね。ぐるぐる歩いてたように見えちゃって」


「見間違いだね。ははは」


 チームの仲間である藤宮君と、特に親友である橘お姉様の試合に、居ても立っても居られなくなった佐伯お姉様は、席を立ちあがって観客席全体をグルグルと回りながら応援していたのだ。


「さて、一番試合が近いのはマーズの子弟かな?」


「そ、そうですね!」


「ええそうね」


 お姉様のニタニタ笑いから目を逸らした佐伯お姉様が、幾分圧のある顔で俺に迫って来た。そのお顔には、はっきりと話を変えろと書かれてあったため、慌てて同意する。


 しかし、ギリシャ代表のチームでマーズの子弟なのだ。一人師団の次男と同じく、テレビで散々やってた時代の星であるため、ある程度は分かってる。問題は他だ……。


 ◆


『アレスの力よあれ!』


 やっぱりね。


 マーズの、えーっと、どんな子弟だっけ。次男だの妹だのが色々いて、どんな関係者なのか忘れちまった。まあいいや。面倒だからアレスと呼ぼう。そう、火星と結びついたギリシャの戦神アレス。


 見よあのアレスの力を扱う男を。


 真っ赤に燃える炎の槍を携えるその姿は、全身から貧乏臭さと損な役割の雰囲気を漂わせ、まさに疫病神アレスの力を扱うに相応しい。


 あれ?


『ぜあああ!』


『ぐ、おおおおお!』


 そんな男が、アイルランドの烈士が扱う剣と切り結んでいるが、圧倒に優位に立っている。


「これはまた……」


「ええ。戦士とは彼の事を言うのね」


「むう……」


 試合が終わり観客席に戻っているチームの皆がアレスに唸っている。な、なんか認識に齟齬があるぞ。


「ぷぷ。中々アンバランスな人間ね。ぷぷ」


 お姉様は俺と同じ意見の様で笑っている。そうか、やる時はやるタイプの人間か。確かに覚えがあるアンバランスさだ。普段は貧相な気苦労性の癖に、一旦スイッチが入ると首が胴と別れても戦える奴だ。凄い奴だ。凄い馬鹿だ。


 多分、チームの皆は単に力量に感嘆しているのだろうが、こいつの、こいつ等の恐ろしさはその精神、覚悟、信念。


「真っ正面からリスクと弱点なしで戦える馬鹿、見てみたかったのよね。まあ、ピーキーさでは負けてるけど」


「はい」


 俺の知ってる馬鹿共と一緒だ。間違いなくメンタル100、不朽不屈の精神。しかし、違うところがある。その能力にピーキーさと尖りがない代わりに、常時最大の戦闘力を発揮出来る。


『おお!』


『ぐあああ!?』


 アレスの槍が相手を撃ち抜き勝敗が決した。


「技ではアーサーに劣ってるけど、これは面白いわね」


 お姉様がにたりと笑っている。


『勝負あり!』


『……ふう』


 決着がついた途端、元に戻ったのだろう。一気に貧乏臭さが増した。


 あんなどんよりとした陰気は、見る者が見ればわかるだろに、それでも送り出したのは知っているからだろう。奴は、奴等は、死んでも事をなせる


 人間なのだ。


 あは


 あははは


 あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!


 そうだよなあアレス神! お前もとことん人間臭いもんなあ! 分かるよその気持ち! 偶にギリシャ神話の中では珍しく、まあ仲良くなれる、のか? とは思う事があるけど、案外話が合いそうだ! そうとも! 貧乏性だろうが気苦労性だとか、そんなこたぁ関係ない! 輝きの無さにアテナは振り向きもしないだろうが、お前さんは分かってる!


 あっはっはっはっはっはっはvtj◆asn■clka□gtafjiwqoich□a!


「貴明マネどうしたんだい?」


「義父様も、野球の応援で興奮したら体を左右に振るのよ」


「へー」


 はっ!? 佐伯お姉様とお姉様の声で正気に戻った! しかしなんて事だ……ちょっとだけ興奮して、親父の様に体を左右に振ってしまうなんて……似たもの親子とか死んでも思われたくないぞ。


「さて、残りはジャンヌダルク、永久凍土、一人師団の子弟だね」


「有名どころはね」


「うん? なんか含みのある言い方だね」


「そうかしら? ふふ」


 残った有名どころの名をあげる佐伯お姉様だが、お姉様の意味あり気な笑いに訝しんでる。


「でもそうね。一人師団の次男は要チェックね」


「あ、やっぱり?」


 お姉様が告げた名前に、佐伯お姉様が頷く。そう、対人戦最強の超力者、その中でもトップクラスに有名なアメリカのレジェンドの次男は、誰もが優勝候補筆頭だと答えるだろう。


 相手の名前が、名でなければ。



 ◆


 ◆


 ◆



『【チョッキン】』


『は?』


 会場にいる全ての人間が、呆然とした声を出している。


 それもその筈。大会優勝候補筆頭であった、最強の超力者の息子が、試合開始と同時に場外にいたのだ。


 やっぱり間違いない。最初に見た時より明らかに力が上がっている。一体何があったらこうも……あの権能を使いこなせる? たった数日見かけず、今日会ったときに感じた力は天と地も違う。


 手に持ったハサミを閉じただけ。


 試合会場にいる銀の髪をした外見幼女は、ただそれをしただけで……


 運命を切り取り……死を押し付けた。


 もし訓練用の結界がなく、彼女が力を落としていなかったのなら、一人師団の次男は即死していただろう。


 断言する。最初に会った時にそんな事は出来ない。しかし、今日、チャラ男を拉致した時に現れた彼女はまさしく別人だった。


 そう、今試合会場に、未だ審判が決着の宣言をしないためぼーっと立っているのは、チャラ男を拉致した三人の女性の内の一人、その美幼女だった。


「ふふふふふふふふふふふふふ」


 お姉様がかなり危険な程の笑みを浮かべて美幼女を見ている。そのせいか、チームの皆の腰は椅子から浮いていた。いや、お姉様もだ。それとなーくお姉様の指を掴んで引き留める。このままでは乱入デスマッチが開始されてしまうだろう。っていうかお姉様の指が柔らかあいてっ。でへへ。


「た、貴明マネ、あれは一体?」


 佐伯お姉様が、お姉様から視線を外さず俺に問うてきた。


「あれは」


 推測を、いや、この期に及んで間違い様がない。


「運命の三女神、アトロポスの権能です」


 ギリシャ神話に名高きモイラ、運命の三女神の三女アトロポス。彼女は姉妹が紡ぎ割り当てた糸を、運命を、生を切り落とし、死を与えるのだ。


 運命を切り落とすなど一体誰が抗える? そんなものをまともに相手出来るのは、お姉様くらいのものだろう。それと……。


 今この時、今大会最大のダークホースが現われたのだ。


 ◆


『ちょっとだけ【カワルミライ】』


 ◆


『当たったと【カクテイシタイマ】』


 ◆


 それが残り二人。


 長女と次女が。


 モイライが。

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