全てを貪る白き雪

「さて、問題の栞ね」


「はい……!」


 藤宮君の試合が終わって後に幾つかの試合を挟んで、次は橘お姉様の番なのだが……。


「脳筋に当たらない事を祈りましょうか」


「神様どうかお願いします! 脳筋は嫌だ……! 脳筋は嫌だ……!」


「脳筋! なんちゃって」


「お姉様ぁ……」


「ふふ」


 橘お姉様の相手が脳筋じゃない事を祈ってると、お姉様に揶揄われてしまった。でもニタリと笑っているお姉様が超プリティー。あいてっ。でへへ。


 と、ともかく、橘お姉様が苦手とするのは、マッスルに代表される様な、相手の搦め手をそんな事知るかボケ! と正面から粉砕出来る脳筋達で、その手が相手だった場合、橘お姉様は非常に不利だ。


「彼女、中々極端だものね」


「はい……」


 反面、橘お姉様には得意なタイプが二通り存在しており、それに対してならほぼ一方的にぶっ殺すことが出来る。


 ともかく神様ー! どうかその二つのどちらかでお願いしますううう!


『呼んだかいマイサン! ところで大会の副音声が調整中なんだけど、どうしてなんだい!?』


『調整中とは調整中です』


『調整中とはどういう事なの!?』


『調整中という事です』


『パパ楽しみに!?』


 通話終了っと。この神様ネタ前にもやってるからもういいぞ親父。天丼とか許されざるよ。つうか俺が副音声してる事に気が付かれたか……まさかとは思うが、テンション上げて放送室に来ないだろうな……。


『選手入場!』


 いや今はそんなことどうでもいい。重要な事じゃない。


 入場してきたのはイギリスの男……多分霊力オンリーで、重心の使い方と歩き方は近接タイプ! マズいマズい! アーサーの事を考えると一気に脳筋の可能性が高まった!


 対する橘お姉様は、相変わらず超麗しいクールビューティ。はい橘お姉様の勝ち。そうなってくれええええ!


『試合開始!』


『不滅たる守りよ!』


 はい橘お姉様の勝ち。


「あらよかったわね。守勢のタイプじゃない」


「はい!」


 相手が掲げた金の盾から発生した霊力の力場は、今大会の出場者のレベルを考えても、頭一つ抜けた力を感じる。恐らくその防御で試合を有利に進めるのだろうが……。


 貴方の前にいる橘お姉様は、まさに天敵なんです。


「【貪降雪這どんこうせっしゃ】」


 決闘場に雪が降る。真っ白な真っ白な、全てを漂白するシロいユキが。


 シンシンと。


 全てを貪る雪が。


 その雪が相手の力場に触れた。着弾した。


『なに!?』


 相手選手が驚愕する。輝く力場は雪が触れた途端、水でふやけた紙切れのように頼りなく崩れると、ついには霧散してしまったのだ。


『不滅たる! 守りよ!』


 今度は更なる力を込めて力場を展開する相手選手。


『そ、そんな!?』


 しかし無駄だった。張り直した力場は、展開しながら雪に触れると、今度も全く同じように消え去ってしまう。


 橘お姉様の前で壁は、防御は意味をなさない。一切合切が雪に、完全なる白に侵され、蝕まれ、漂白され、ついには破れ、敗れてしまう。


 結論。橘お姉様が一方的に攻撃できる二つのうち一つ、防御タイプではあの人には勝てない。鉄壁が、無敵が、不動が無意味となるのだ。そしてそれは、ゾンビ達の大前提である、狭間君による壁の守りすら突破する。


 あの雪は、全てを貪るのだ。そこに例外はない。


 藤宮君の四力結界すら、狭間君の多重超力壁すら、そしてお姉様の多重障壁すら。まさに完全なる白、そして完全なるエラー。この三人の結界を、同じ人物が同じ方法で破れるなんて、恐らく世界でも橘お姉様ただ一人。


『はあ!』


 相手は、その雪に直接触れるのはマズいと思ったのだろう。頭上に降る粉雪を霊力の衝撃波で吹きとばそうとした。


『い、一体何が起こっている!?』


 しかし無駄だった。全てを貪る雪は、その霊力の衝撃波すらも貪り尽くし霧散させてしまったのだ。ならばと逃げる先を探す相手だが……手遅れだ。もう雪は決闘場全体に降り注いでいる。これに当たらないなど最早不可能。


 だからこそ、最初から突撃してくる脳筋が怖かったのだ。この業は雪が降るという過程をどうしても踏む必要がある為、いきなり突っ込んでくる連中に対処出来ない。


 しかし当たればどうなるか……。


『ち、力が!?』


 相手に着弾した雪は、その身に宿っている力すらも貪る。霊力という色を白く上書きする。もうそこにいるのは霊力者ではない。力を持っていないただの人だ。


「【氷柱よ貫け】」


『お、おおおおおおお!?』


 橘お姉様から複数の氷柱が発射された。それを避けようとする相手は、よく鍛えているため単なる人に比べたら素早かったが、異能者として見るなら遅すぎた。


『がはあ!?』


『勝負あり!』


 高速で発射された氷柱に貫かれ、相手は場外に叩き出された。


 つまり……


「いやったああああああ! チーム全員一回戦を突破したぞおおおおお! 橘お姉様あああああ!」


 我がチーム全員が優勝に一歩近づいたのだあああああああああ! あっはっはっはっはっはっはっはっは!


 チーム花弁の壁大勝利! ニュー白蜘蛛君を呼んで勝利のブイサインをして貰おうかな!

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