無動無敵

 いよいよ藤宮君の番がやって来た。俺は必勝と書かれた日の丸鉢巻きを装着し、応援する準備は万全なのだが、まあ、藤宮君に関してはそれほど心配していない。彼の結界をぶち抜けるのはよっぽど変な奴だけで、恐らくだが一人師団の次男の様に、どれだけ強かろうが超力オンリーとかなら、結界が発動するとそれだけで詰む。


「藤宮君頑張れー!」


 まだ彼は入場していないため、俺の声は聞こえていないだろうが、観客席から何もできない俺は、ただ彼を応援する事しか出来ない。


「彼はまず大丈夫でしょう」


「そうですよねお姉様!」


 実際お姉様と同じく、俺も藤宮君の事はそれほど心配していない。なんといっても天から愛されているとしか思えない能力、四力を使いこなせる彼は、よっぽど変な異能者に当たらない限り大丈夫だ。


『選手入場!』


「藤宮君頑張れー!」


 アナウンスの声に促されて、藤宮君が試合会場にやって来た。もう一度声援を送るがきっと大丈夫。今から風呂に行っても余裕だろう。勝ったなガハハ!


 そういや相手は誰だ? 待て、俺がそんな事すら知らないだなんて、それはつまり無意識に忘れようとしている国の選手……。


 げっ!?


 あ、あの浄力は!?


「お姉様見ちゃだめです!」


「あら、何も見えないわ」


 バ、バチカンだあああああああ! ゲロゲロゲロゲロ!


 慌ててお姉様の可愛らしいお目目を両手で塞ぐ。お姉様にあんな清らかな存在を見せられない。ここ公共の場なの分かって……てめえよく見たらなんだその霊力! 関わりたくないから完全にノーマークだった! その霊力というか天使の力に覚えがあるぞ、蛇君と戦ったミカエルの力を感じる! どう考えてもルーキーの力じゃねえよ、成人の部に行け成人の部に! 聖人だけに。ぷぷ。


「うん? 急に何も見えなくなった」


「あらあらうふふふふふふふふ」


 とんでもないダークホースに集中していると、急に視界が真っ暗になった。少し頭を動かすと、お姉様の可愛らしい手で目を塞がれていたらしい。どうやらお返しを去れたようなのだが……そのお姉様はダークホースを見てニタニタと笑っている。


 や、ヤバい……このままでは乱入マッチが開始されるかもしれない……。


「まあでも、カバラの方と比べたら物足りないわね」


「そ、そうですね!」


 ふう。幾らルーキー離れしていようと、お姉様と一緒に見た、ミカエルの力を持ったカバラの聖人の方が何倍も強い。そのためお姉様は興味をなくしたようだ。


 でもマズいよ藤宮君。そいつルーキーだけどルーキーじゃないトンデモ野郎だ。今まで一人師団とかマーズに注目してたけど、多分そいつ今大会でトップレベルにマジでヤバくてマズい。バチカンめ、大々的に宣伝せず油断させて一気に優勝をもぎ取るつもりだ。こんなのと戦ったらいくら藤宮君でも……


『試合開始!』


「【四力結界】」


『ミカエルよ!』


 はい藤宮くんの勝ち。どうして負けたか明日まで考える必要ありませんよ。彼に結界の発動を許した。ただその一点。


『なんだ!?』


「虹色の結界!?」

「なんだありゃ」

「は? 四系統全部の力を感じるんだけど」


 相手だけではなく会場全体が混乱している。それはそうだろう。ごく最近論文に載っただけで、その論文でも机上の空論だがと注釈をつけていた、基礎四系統を完璧に一致させて辿り着ける境地、【虹】は誰にも破れない不動無敵の結界を作り、そして造り出せる。


 ここに世界が知らなったダークホースが、大会優勝候補の筆頭が、そのベールを脱ぎ去った。


「【四力砲】」


『剣よ!』


 ドーム状に展開した結界の全面から、人の半分程の、同じく虹色に輝く弾丸が高速で発射された。しかし相手も恐るべき使い手。すぐに混乱から立ち直ると、ルーキーとしてはあり得ないほどの霊力で、真っ赤に光り輝く剣を、ミカエルの剣を作り出し、四力砲を避けながら藤宮君に、虹色の結界に肉薄する。


『はあ!』


 そして剣を振り下ろした。


 分かりますよ。相手が全く未知の技を使ったんですから、術中に嵌る前に短期決着を狙ったんですよね。ゴリラや半裸、マッスルもその考えを支持するでしょう。やはりパワーこそパワー。マッスルこそマッスル。


 でも、その三人が絶対にしない事をしましたね?


 今、殺ったと思いましたね? 自分の、ミカエルの剣に絶てぬ者は、断てぬ物は無いと、そう思いましたね? 多分ですけど、今までそれで全部解決したからこその自信なんでしょう。ならここはアメリカの教官殿の言葉を借りよう。バラして灰にして川に流すまで油断する奴があるか! と。


 バキン


『ば、馬鹿な!?』


 なら、その結界を破り、藤宮君を切り捨てるどころか、剣が折れた時あなたはどうします?


「【四力大砲】!」


『【神よまも】!?』


 答え。藤宮君渾身の一撃、人間よりも大きな虹色の大砲に、守ることを選択してしまった。


 誰にも破れない硬さを持った結界と、同じ硬さを持った弾丸なのだ。その硬さに相手の結界はほんの一瞬だけ抵抗するも、結局はガラスの様に粉々に割れ、最後は……。


『試合終了!』


 彼自身も吹き飛ばして試合が終了した。


「藤宮くーん!」


「実戦は経験してても、温室育ちだったみたいね。カバラのミカエルは百戦錬磨だったけど」


「ですね!」


 藤宮君を称えながらお姉様に同意する。多分だが相手は、次代の宝として万全の態勢の下でしか戦ったことがないのだろう。必殺の一撃が防がれるどころか、自分の剣を粉々にされたことで、一瞬だけ反応が遅れてしまった。その一瞬だけの違いが、ウチの脳筋三人との違いだろう。思想が同じでも感性が違う。


『馬鹿な……』


 相手選手が呆然としている。


 まあ気を落とさないでください。藤宮君はゾンビ共の火力担当である、東郷さんからバフされたマッスルの拳と、厚化粧のスーパー火力を防げるんですから。いやこれマジで凄いんですよ?


 藤宮君を打倒する手段は本当に限られている。結界が誤作動を起こしてしまう様な、訳の分からない能力を用いるか、彼が結界を張る前に超スピードで倒すかしかない。バフを受けるための時間がいる、カーボアップ状態ではない普段のマッスルと、チャージに時間が掛かる厚化粧では、これを満たせないのだ。


 が、唯一狭間君だけは勝てなくても対抗出来る。彼が生み出す壁は最近更に磨きがかかり、藤宮君の四力大砲ですら貫けない、全てを拒絶するかのような物と化しているため、彼らが一対一で勝負すると永遠に決着が付かないのだ。尤も、チーム花弁の壁として挑めばその限りではない。はっきり言ってうちのチームは、ゾンビ共の天敵のような構成だ。


「残りは栞だけね」


「はい!」


 これで残すは橘お姉様だけだ! もしあれかあのタイプなら橘お姉様の敵ではないのだが……頼むううううあのタイプであってくれえええええ!

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