幕間 ダークホース
前書き
ちょい短いですが……
◆
「いよいよだなカルロ」
「ああ」
バチカンの選手に与えられた控室で、彼、カルロがチームメイトから声を掛けられていた。
日に焼けた肌を持つその青年は、特段偉丈夫という訳ではなかったが、見る者が見れば思わず唸っただろう。
ルーキーとは思えぬその身に宿った恐るべき霊力に。
「しかし、まさかテレビ中継が中止になるとはな」
「確かに」
そんなカルロを含め、バチカンのルーキー達が苦笑している。彼らがこの大会に派遣されたのは、国元の強硬派がかなり絡んでいた。カバラの聖人達は世界の敵の訓練符に敗れ、ミカエルは逆カバラの悪徳であるリリスに実質敗北した現在、一神教は奇跡の日が起ころうとも、武力面において少々侮りを受けていたのだ。
「米露はいっつもこれだ」
「違いない」
それを打ち消すため強硬派は、世界異能大会に秘蔵っ子ともいえる様な者達を選抜して大会に送り出したのだが、ここで思わぬ横やりが入った。大人げないメンチの切り合いの果てに、マジになった各国の精鋭達を相手に、自国のルーキー達が惨敗して、それを世界に放送されることを恐れた米露が、ルーキー部門の放送を止めるよう圧力をかけたのだ。
これにはほぼ全ての国がほっとした。自信を持って送り出したも者達だが、各国の面子が面子なため、絶対に勝てると断言できず、米露と同じく恥を世界に放送されないならそれに越したことはなかったからだ。尤も、それなら最初からこんな事にならないようにしろと思っても、出来ないのが国家の面倒臭いところだろう。時として国家としての面子は命より重いのだ。
「いいチャンスだったんだがな」
「ああ」
しかしバチカンだけは例外だった。ルーキー部門では絶対に勝てると踏んでいた強硬派は、各国が大人げなく本気のメンバーをそろえたことに対して、そいつらも絶対に倒せるんだから、より強くアピールできるとむしろ喜んでいた。
それだけルーキー部門に対して、いや、カルロに対して絶対の自信があった。
ところがである。まさかの米露の変節によってテレビ中継が中止され、その目的は殆ど破綻していた。これでは優勝出来るのに、インパクトが減少してしまうと強硬派は怒っていたが、幾ら異能の権威があろうとも、米露同盟と言うパワーワードの前に屈してしまったのだ。
まあ、そもそもの発端はこの二国のメンチの切り合いだし、すぐにまた喧嘩し始めるが、それが米露という国だから仕方ない。
閑話休題。
ともかく、重要な事はカルロがバチカンやチームメイト達に、優勝を確信させるほどの存在という事だ。バチカンだった故に、貴明は関わりたくないとカルロの事を完全にノーチェックだったが、もし見れば思いっきり顔を顰めて、てめえのその霊力でルーキー部門に出ていいと思ってんのかコラ! 成人の方へ行け成人の方へ! と罵り、小夜子もあらあらと言いながら、ニタリと笑みを向けるほどの強者なのだ。
それもその筈。カルロはカバラの聖人でないにも関わらず、ミカエルの力を用いて戦える、次代のカバラの聖人候補筆頭なのだ。大鬼とすら一対一で戦える彼が、ルーキー部門で出るのは過剰ですらあった。
『選手入場!』
「行ってこいカルロ」
「ああ」
入場する様に告げられたカルロが、仲間と拳を打ち付け合って、試合会場へと進撃する。
ここに世界が知らなったダークホースが、大会優勝候補の筆頭が、そのベールを脱ぎ去ろうとしていた。
悲惨としか言いようが無かった。
勝負の行方なんて決まり切っていた。
カルロの対面に立つ男
ルーキー部門日本代表
異能学園一年A組所属
名を
藤宮雄一といった。
ここに世界が知らなったダークホースが、大会優勝候補の筆頭が、そのベールを脱ぎ去ろうとしていた。
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