バトルロイヤル1

「佐伯お姉様かっこよかったね!」

「うん!」

「ほんとほんと!」


 会場から放送席へ向かっていると、顔を上気させたプラエトリアム共が、佐伯お姉様の雄姿を語っている。皇帝として奴等とは不倶戴天の間柄だが、連中の佐伯お姉様に対する献身だけは認めてやってもいい。


 しかしそんな奴らも知らない。


 佐伯お姉様が飛行魔法を使いこなすために流された血の涙を。そう、その途轍もない努力があってこそ、佐伯お姉様は勝利を掴むことが出来たのだ。


「失敗したわね。飛鳥の練習風景を録画してたらよかったわ」


「お、お姉様、それは、そのぉ……」


 お姉様が失敗したと呟いていたが、そんな事をしてしまった日には、佐伯お姉様の顔が炎のように真っ赤になるか、もしくは本当に燃え盛ってしまうだろう。


 なにせ練習中の佐伯お姉様は、縦横斜めに大股開きで大回転していたため、それはもう血涙を流していたのだ。羞恥心で。


 いや本当に惨かった。3回ほど練習が終わる度に佐伯お姉様は、ふひ、ふひひひ。ボクは飛鳥ちゃんじゃなくて飛鳥君なんだ。男なら大股開いて大回転しても恥ずかしくないさ。ふひひひ。と闇堕ちしてしまっていたため、俺が活法を使えなかったら本当にヤバかった。


『見つけたわ』


「ひょえ!?」


 どわっ!? びっくりした! びっくりした! いつの間にかチャラ男の後ろに、確かギリシャのルーキーである、明らかに何らかの権能を持っていると思わしき三人の女性の内、一番大人びた金色の髪を持った女性がいた。


 うーんしかし美人さん。グラマラスって体型はこんな感じを言うんだろうな。しかし、なんでチャラ男はひょえっとか言ってるんだ?


『見つけたのね』


『見つけた』


「あわ、あわわわわ!?」


 続いてやって来たのは、同じくギリシャの黒髪の美少女と、銀色の髪の美幼女。しかし、なんでチャラ男はあわわとか言ってるんだ? お前が言っても全く可愛らしくないんだけど。


『さあ行きましょう』


「い、行くって何処へ!?」


 金髪美女の言葉にチャラ男が慌てる。


 新鮮な驚きだ。チャラ男の奴、テンパったらすっげえ標準語になるんだな。しかし、なんでチャラ男はテンパってるんだ?


『勿論ギリシャへよ』


「お、俺、日本が好きかなーって」


 黒髪美少女の言葉にチャラ男が慌てる。


 耳を疑った。チャラ男の奴、一人称がワイじゃなくて俺とか言ってるし。しかし、なんで。


『じゃあ私達が日本にいるわ』


「ええええええ!?」


 銀髪美幼女の言葉に


 しかししししなななんでででででで


 チャララララララ。


『私達を』


『俺のもんだと言った責任』


『取って頂戴ね』


「あの時はそうするしかなかったんだ! 友治! 貴明! 助けてえええええ!?」


「あら私は? ぷぷぷぷぷぷ」


「俺のマッスルが乗り気ではない」


 チャチャチャチャチャ


 ししししししししし



 ぐべらが!?


 ◆


 ◆


 ◆


「皆様お待たせしました。続いては森林訓練場を用いて行われる、バトルロイヤル形式の試合を実況解説していきたいと思います」


 再びお茶の間の皆さんに俺の美声を届けているが、実況という言葉に少しだけ語弊がある。しかし、はて? チャラ男はどこ行ったんだ? なんか思い出そうとすると……うっ……頭が……。


「なお、この試合に関しましては、リアルタイムでの映像が試合に影響を及ぼす可能性があるため、既に終えている試合の映像を、改めて実況解説する形となることをご了承ください」


 まあいいや。


 実はこのバトルロイヤル形式、大会執行部が中継映像から、森林訓練場にいる選手達に外部から何かしらの手段で情報伝達されることを危惧して、既に終わった試合の録画を使う事となっている。まあ、俺が妨害工作をしていないことを知らない執行部からすれば当然の対処だ。なにせ試合の放送を見たら、どこに誰がいるのか筒抜けとなってしまう。そのため、手札バレを防ぐためのデジタルカードゲームの大会実況の様な形式となったのだ。


「ルール説明といたしまして、制限時間30分以内で最も多くの選手を撃破した者が勝者となります。つまり、ただ時間制限まで隠れたり閉じ籠ったりなどでは勝てないのです。では今回の見所はどこになりますか?」


「第一に、超力者が扱える透視能力。これをどう対処するかです」


「なるほど。確かに見通しの悪い森の中で透視が出来るなら、圧倒的に優位になりますね」


 マッスルの言う通り、超力者が扱える透視能力は、森の中での情報戦に置いてキー能力となるだろう。


 しかしウォールハックとか許されざる能力だ。あのチーターめ、キル画面見たらなんで壁越しにピッタリ俺に照準合ってんだよ。態々ボイスチャット使って俺の声を聞かせて、チート使うたびに下痢になるようしてやったが、ちゃんと反省したかな?


「次に隠蔽、または遮蔽能力の高さでしょう。霊力、または浄力にはその系統の技がある為、いかに超力者を欺き隠れるかがキーポイントとなるでしょう」


 確かに天照大神が天岩戸に隠れた逸話や、他の神も変装したり姿を変えたりと言った逸話に事欠かないし、浄力は結界をうまく使えば、相手に察知されずにいろいろできる。


「それに漁夫の利ね。ふふ、楽しくなりそう」


「なるほど。隙を伺うような直接的な戦い以外でも見所はあると」


 お姉様がニタニタ笑いをされている。こういったバトルロイヤルで警戒しないといけないのは、いかに素早く相手を倒して、第三者からの介入を防ぐかという事だ。相手に集中していて、横やりを入れられたら堪ったもんじゃない。俺も気が付いたら挟まれてるとかざらにあるし。ありがとう昨日のパーティーメンバー。君が警告してくれなかったら我がチームは壊滅してた。


『試合開始!』


 試合が始まった。これは流石に長丁場になるぞ。


「宮代選手が飛び出した!?」


 で、ですよね半裸会長?

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