宮代戦闘会会長
「宮代選手、駆け出したまま一向に隠れる様子がない! 一体これは!?」
「むう……筋肉が前を向いているとは思いましたが、てっきり有利なポジションに隠れるためかと……」
とんでもない事が起こっている。普通バトルロイヤルは目立つことを避けて、有利な状況から相手を倒していく事がセオリーの筈。それなのに半裸会長は、試合開始の合図とともに走り出したまま、その正反対の行動を取っている。
「まさかとは思いますがこの男、逃げも隠れもしない! 先手はくれてやるから掛かって来いと言っているのか!?」
「むむむ……!」
霊力を全く隠さずに走り回っているのだ。他の選手からすれば半裸の位置はすぐに分かるだろう。そうなるとどう考えても、半裸の脳みそはその隅から隅まで筋肉だ! なにせマッスルが腕を組んで唸るほどのお墨付き!
「うぷぷぷぷぷぷ」
そしてお姉様は、マイクから離れて放送席の隅に蹲っている! 半裸めなんて奴だ。まさか録画の映像でお姉様を打ち倒すだなんて……あ、スタッフの皆さんどうかご心配なさらず。ちょっと笑いのツボに嵌ってるだけですので。
でもお姉様、僕は例え世間が放送事故扱いしようが、お姉様の可愛らしい笑い声をお茶の間に流すのはありだと思うんですけどあいてっ。でへへ。
おっといかん実況しなければ。
「暴挙と言うしかない! 果たしてこんな事が許されるのか!?」
こんなプレイヤーの覚えは確かにある。まどろっこしい駆け引きはつまらんと、敢えて敵のいそうな場所に突っ込み、撃ち合いを楽しむスタイルとかだ。しかし、それを世界的な名誉がかかった試合でやるだなんて、一体誰が想像できる!
『超力砲! 超力砲!』
「ノルウェーのニルセン選手が宮代選手に、お得意の超力砲を放った!」
「完全にプランを崩されましたね。ニルセン選手は超力者であるため、透視能力が使える自分が探す側と思い込んでいたのでしょう。連発していますが、狙いが甘くあれでは当たらないでしょう」
マッスルの解説通り、さあ他の選手は何処にいるとばかりに悠長にしていた選手が半裸と出くわしたが、自分は見つける側という、意識の切り替えが出来なかったのだろう。森の中なのに決闘のような形で正面切って超力砲を連発するが、そのどれもが半裸を捉えることが出来ない。
「宮代選手構わず突っ込む! そのスピードが乗った拳が……ニルセン選手の顔に突き刺さったああ! ニルセン選手が戦闘不能と結界が判断して、彼は森の外に転移させた! ニルセン選手脱落! これで宮代選手が早くも一歩リード! このまま隠れて優位を保た、ない!? またしても森を疾駆する! 一体どうなっているんだこの男!?」
お茶の間には詳しく言えないが、訓練結界が作動したという事は、実戦ならニルセン選手の頭部は粉砕されていただろう。そしてその相手選手を脱落させた半裸は、早くも1ポイント優位に立ったため、後は隠れて様子を見ながら立ち回ればいい筈なのに、そんな事考えてもないとばかりに、再び森の中を走り始めた。
『神よ!』
「宮代選手、今度はイギリスのアボット選手を発見して襲い掛かる!」
「アボット選手に迷いがありますね。視線が宮代選手に定まっていません。恐らく、馬鹿正直に突っ込んできた宮代選手は実は幻影で、どこかから不意打ちを仕掛けて来るのではないかと思っているのでしょう」
「確かにあまりにも堂々とし過ぎています!」
アボット選手が光り輝く剣を構え半裸を迎え撃とうとするがキレがない。間違いなく動揺して、今の状況に疑心暗鬼となっている。
「ああ! またしても宮代選手、アボット選手の顔面に拳を叩きつけました! アボット選手脱落!」
「完全に反応が遅れていましたね。最後の最後まで幻術を疑って、今、宮代選手の後ろの地面がへこみました。透明になっている者が仕掛けてきますね」
「はい!?」
実況としてあってはならんことに、マッスルの言葉に二の句が継げなかった。枝が折れたとかなら分かるが、地面がへこんだだって? 確かに今半裸達の映像は、近くの木に張り付けてる札からのもので、ちょうど周囲を見やすい位置ではある。しかし、それに気が付くか普通? お前ガチのマジでヤベーな。
『しっ!』
「宮代選手の後ろから、突如現れた人が剣で切り掛かった! あれはギリシャのアーティー選手だ!」
「漁夫の利を狙ったのでしょうが、あまりにも早い決着に焦ってしまいましたね。宮代選手は既に事を終えています」
トリックスター、ヘルメスの権能を使い透明になれるアーティー選手が仕掛けたが、半裸の手は既に空いている!
『【阿修羅塵壊尽】!』
『ながっ!?』
「なんということだあああ! アーティー選手の剣対宮代選手の拳! 読み方は同じ"けん"でも拮抗せず! 宮代選手の拳が剣を粉々に粉砕し、そのままアーティー選手の顔に突き刺さった! 勝負あり! アーティー選手脱落!」
「学園長が得意とする阿修羅塵壊尽は、阿修羅の力を纏いながら霊力を超振動させて、相手を粉砕する技です。それを食らえばひとたまりもないでしょう」
まさかの光景を見てしまった。アーティー選手の光り輝く剣は、半裸の拳に当たるとガラスの様に弾け散ってしまったのだ。多分、込められた霊力に段違いの差があったのだろうが、学生とはいえ相手は国の代表なんだぞ!?
しかし、あの技はゴリラの得意技だ。やはり隠し子とは半裸に間違いなし。Q.E.D.
「おおっと!? ここで森のあちこちから、隠れていた、または探そうとしていた選手が、宮代選手の所に集まっている!」
「選手10人でのバトルロイヤルですから、既に3人を落とした宮代選手を時間切れまで放っておくと、取り返しがつかなくなると思ったのでしょう。筋肉の付き方が待ち伏せに向いている者もいますね。もうプランもなにもなくなりました」
「なんてことだ! 策謀渦巻く森の筈が、宮代選手という個の力が全てをひっくり返してしまいました!」
もう誰も彼ものプランがご破算になった。森の中に響いたアナウンスから、半裸を止めないと勝てないと判断した残りの全選手が、半裸の力を感じた場所に向かっている。
「あれほど派手に戦ったのです! 宮代選手はこの場から、去らない! いや! 去らないどころか隠れもしない! 構えている! 迎え撃つつもりだああああ!」
「なんというマッスル……!」
半裸は森の少し開けた場所で構えを取り、全方向からやって来る全ての選手とやり合うつもりだ! こんなのマッスルとしか言いようが無い!
うん? マッスルとは?
って半裸の所に続々とやって来た!
「一人また一人と、宮代選手が待つ決闘場にやって来た! これはお互い牽制しあって動けなくなるのでは!? だが動いたのは宮代選手だ! 一番最初に来たフランスの選手に襲い掛かる!」
「最早間違いありません。宮代選手は全ての選手を打ち倒すつもりです」
「そして一気に大混戦に陥った! もう無茶苦茶だ!」
半裸の行動が爆薬を着火させてしまった。一瞬だけ牽制し合っていた他の選手は、もう少しだけ時間があれば、半裸を倒すために一時共闘と言った関係を結べたかもしれないが、最早どうしようもない。全員が半裸に挑みかかりながら、他の選手も隙あらば倒そうとする、超大混戦となってしまったのだ。
そして……
「最後に立っていたのはやはりこの男! 宮代選手の勝利です! 宮代の天才児、麒麟児ここにあり! 御見それしました! 恐れ入りました! 公正でなければならないのですが、これだけは皆様に言わせて頂きたい! うちの会長凄いだろ!」
「まさに理想の筋肉試合でした」
混戦の中、誰にやられたか分からない選手もいたが、最後の最後に残っていたのは半裸会長その人。彼は雄叫びもガッツポーズもせず、ただ残心の構えを解いただけだった。
これぞまさに筋肉試合。
うん、筋肉試合? いかんマッスルに精神汚染食らってる! いやでも仕方ない。マジで脳みそ筋肉としか言いようが無い試合展開だった。
「ぷううぷぷぷぷぷ」
それは放送席の外で蹲っているお姉様が証明していた。可愛い。あいてっ。でへへ。
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