最強メンバー
「まず第一試合、日本の宮代選手とロシアのアダモフ選手の対決です。これはいきなり見逃せない一戦になります」
学園が準備した、屋外訓練場全体を見渡せる放送席から、俺、お姉様、マッスルで実況解説を行う。
そしてトップバッターはなんと半裸会長と、対人戦極振りのロシア代表だ。まさに見逃せない一戦だろう。
「大会を初めて見たという方もいらっしゃると思いますので、ここで両者の能力を簡単に解説します。宮代選手は霊力者で、霊力とは主に神仏の力を借りて自身を大幅に強化する異能です。一般的には最強の能力と言われていますが、その分扱いが非常に難しく、実力がはっきりと表れる力と言われています。一方アダモフ選手は超力、あるいは超能力と言われる力で、基本四系統の中で最も安定感があり、また攻撃の出の早さが特徴的で、対人戦に置いて最強と評される力です。再三最強と表現しておりますが、まさに最強同士のぶつかり合いなのです」
異能者にとって永遠の謎かけの一つが、高位の霊力者と超力者がぶつかるとどちらが強いのか。である。極稀に異能犯罪が起こった際、両者は激突することがあるが、結果はほぼ五分五分で、やはり結論が出ることはないのだろう。
「おっと、早速両選手が入場してきました。さて、この試合の見どころはどこになりますか?」
妙に似た感じの二人が入って来た。お互い黒と色素の薄い金の髪は刈り上げられ、制服の上からでも分かる逞しさだ。いや、若干逞しさはロシアの選手の方が上かな? なんたって川の上流の巨石を削り出したようなごつごつさを感じる。
そんな二人を見ながらマッスルに話を振る。
なお、お姉様は全くマッスルの方を見ない。お姉様の愛らしい笑い声を全国放送に流すのもありだと思うんだがあいてっ。でへへ。
「恐らく二秒以内ほどで決着がつくことでしょう。どうかテレビの前の皆さん、飲み物を取りにいかずそのまま見ていてください」
奇遇だなマッスル。俺も、まあ五秒は掛からんだろうと見ている。短い付き合いだが分かる。半裸の主義は、相手に何もさせずに押し切る速攻だ。
『宮代選手は異能社会において名家と呼ばれる宮代家出身で、宮代の神童や天才児と呼ばれ』
いかんな。参考にしようとちゃんとした通常放送を、マイクに音声が入らない音量で追っているが、半裸のプロフィールの紹介が始まっている。多分その調子じゃ、ロシアの選手の紹介が終わる頃には試合も終わるぞ。
「二秒以内に決着がつくと思われた根拠はなんですか?」
両選手が闘技場に上がるのを見ながら、再びマッスルに問う。
「宮代選手の筋肉が全て前に向かっています。一直線に相手に向かい、そのまま一気に決着を付けるつもりでしょう。となると、アダモフ選手が初撃で選ぶであろう超力砲、つまり超力で練られた念弾は当たっても、一発なら耐えられると踏んでいるのではないでしょうか。宮代選手の体が勝つか、アダモフ選手の超力砲が勝つか。勝負は一瞬です」
お前すげえな。俺には半裸が自然体にいるようにしか見えんのに、マッスルには全く違って見えるらしい。
「となると宿す力は韋駄天かしらね」
お姉様がぽつりと呟かれた。
「なるほど韋駄天。韋駄天の足が速いというのはかつて俗説だったようですが、その足が速いという人間の想いが影響したのか、霊力で宿す韋駄天の力は視聴者の皆様の想像通り、ひたすら速さに特化したものとなります。それを使うと?」
「ええ。まだ霊力は使ってないけど、韋駄天にコンタクトを取る気の念がちょっと出たわね。多分、最低限の力を手と足だけに宿して、それこそスピード勝負に出るんじゃないかしら」
「なるほど」
俺にはさっぱり分からないが、お姉様には半裸が韋駄天の力を宿すための準備が見えたようだ。流石ですお姉様。
「さて両者が闘技場、いや決闘場に相まみえました」
「今、宮代選手が若干右に重心を寄せるふりをしましたね。既に相手の力量を見切ってます。これはアダモフ選手が気付くギリギリのフェイクですが、アダモフ選手の視線が一瞬ぶれたという事は引っかかりましたね。恐らく向かって左から迂回する宮代選手を迎え撃つプランを組み立てたでしょう。これで宮代選手は正面から行きやすくなりました」
「つまり達人同士であるが故に、極々僅かな変化に騙されてしまったと?」
「そうなります」
お前マジでやべえな。俺には半裸が自然体に突っ立ってるようにしか見えないのに、マッスルには全く違って見えているらしい。一度マッスルの見てる世界を俺も見てみたい、いや、邪神の俺でも酔うかもしれんな。やっぱこいつマジのガチでやべえわ。
『それではこの試合の見どころは何でしょう?』
いかーん! 通常放送じゃようやく選手のプロフィールが終わったばかりだ! こりゃマズい! 審判もうちょっとだけ!?
『試合開始!』
始まっちまったあああ!
って実況しなければ!
「宮代選手一直線に突っ込んだ! アダモフ選手超力砲で迎撃するがもう超至近距離! いや間に合った! だが手で弾かれる! そのまま顔に拳がめり込む! アダモフ選手吹き飛んだ! 場外! 宮代選手の勝利です! 早い! あまりにも早すぎる!」
早えええええ! くっそ早ええええええ! 二秒どころか一秒くらいでケリ付いたんじゃねえのか!?
『い、い、一瞬! まさに一瞬の出来事です!』
『こ、これはなんという……』
通常放送もポカンとしているが、それだけあっという間の出来事だった!
「宮代選手が突撃する際、一瞬だけアダモフ選手の視線が定まってなかったですね。完全に不意を突かれています。しかし、詰め切られる前に超力砲を発動出来たのは流石の一言です」
マッスルが冷静に解説するが、お前あの一瞬でロシア選手の視線のブレ見えたの?
「向かって左からくると思い込んでいたのですね?」
「はい。それともう一点ですが、超至近距離でも宮代選手の視線に騙されています。宮代選手は態々アダモフ選手と視線を合わせた後に、胸の辺りに視線を向けたのです。ああ映像リプレイのここです。アダモフ選手は腕で胸を守るようとっさに動かしましたが、そのせいで顔をそのまま殴られてしまいました」
「アダモフ選手がこの一見では、見当違いの場所を守ろうとしたのは、フェイントに引っかかってしまったせいなのですか?」
「そうです」
そうですじゃねえよこの馬鹿。いや元々馬鹿だ。お前この放送席からその駆け引き見えたの? 視線ってなに? 目の動きってなに?
「ああっと! アダモフ選手、寝っ転がって足を組み、お手上げとばかりに手を振っています!」
「掌で踊らされた事を察したのでしょう。しかしそれは、裏を返せばアダモフ選手が、学生とは思えない達人だからこその結果です。非常に見応えのある試合でした」
いや、見応えってお前さん、観客席の異能者達でも訳分からんとざわついてるのに、お茶の間の皆様なんて何が起こったかもよく分からねえよ。
「ここでスロー映像です」
スロー映像が流れるが、運のいい事にアダモフ選手の顔を向いたカメラからの映像だ。
「ここです、一番最初のここ。アダモフ選手の目線がほんの一瞬だけ左を向きました」
ホントだよ。巨石のような体に似合わぬ円らなお目目が、一瞬だけ左を向いている。お前これ見えたの? 何なの一体?
「ふふ、本当に最低限しか韋駄天の力を使ってないわね。肩、肘、股、膝、足。その関節だけ。必要最小限の力で発動の時間を短くしたんでしょうけど、学生大会で一級の超力者相手にこれをやれるなら、そのまま優勝取っちゃうかもね」
「なるほど。他の事を全て捨てて早さを追求した結果ですが、それをするにはまず達人並の力の操作があってこそなのですね?」
「ええ」
邪神アイを発動していなかった俺には、さっぱりその霊力の動きは見えなかったが、半裸は本当に走る、殴る以外の全部を捨てて、超力砲の手数で押される前に決着を付けるプランだったようだ。思い切りが良すぎる。
『宮代選手の力、恐らく韋駄天だと思うのですが……』
一方で、通常の放送解説はうんうんと唸りながら、試合を振り返っている。
あれ? 肉体的な事は何一つ見逃さないマッスルと、術の操作や扱いが極まってるお姉様が解説。そんでもってある程度マッスルの言いたいことが分かって、お姉様とはツーカーな俺が実況とか、ひょっとして実況解説最強メンバーなんじゃ?
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