開催&初めまして。実況解説の四葉貴明、四葉小夜子、北大路友治です。

 こ、この時が来てしまった。俺ら学生運営委員会と、選手達の集大成である世界異能大会が、中央広場で開会式を迎えようとしている。


 中央広場は既に人で一杯で、校舎の教室から遠目で見ている生徒もいるほどだ。そして広場の一番奥では派遣されて来た政府関係者や、大会執行部などのお歴々が座っている。


 と言っても全員が見に来ている訳ではない。なにせマンモス校のうちが全員集合なんて事をしたら、人混みがとんでもないから、それを嫌ってこない生徒もいれば、小学校の校長の演説並のありがたいお言葉を聞かされるのはうんざりだと、試合だけ観戦すればいいやと考える生徒もいる。


 俺もその考えに近いのだが、学生運営委員長としてまさか開会式に出ない訳にはいかない。


「ただいまより世界異能大会を開催いたします!」


 なにせ俺は進行役としてマイクに向かって、この場にいる全ての人間に美声を聞かせないといけないのだ。


 学生運営委員長と言っても所詮は学生。学園に来ているお歴々の中に入ってふんぞり返ることが出来なかったため、仕方ないからこうやって放送係となることに甘んじているのだ。


「全選手入場です!」


 俺の声と共に、個人戦に出る各国選手が一斉に中央広場に足を踏み入れる。


 アメリカのフロンティアスピリッツを宿した戦士達が


 ロシアの極北の精神を宿した兵士達が


 イギリスの崇高なる精神を宿した騎士達が


 フランスの気高き自由の烈士達が


 ギリシャの恐るべき権能を宿した者達が


 ノルウェーの黄昏すら吹き飛ばす猛き者達が


 アイルランドの凄まじき強者達が


 バチカン選手団には絶対に視線を向けない。見た日には目が腐り落ちること間違いなし。げろげろ。


 そして我が祖国。


 日本の特異点で徹底的に鍛えぬかれた者達が


 別名、まーた日本で特鬼が発生したよ。あの国どうなってんだ? または、あーはいはい。また日本で非鬼ね。である。


 先頭は戦闘会、ぷぷ。戦闘会会長こと半裸会長だ。うーむ覇気が漲っているな。というかほぼ戦闘態勢だ。手を抜いてる教官状態とはいえ、蜘蛛君の突進に耐えてその牙を引っ掴み、呪詛を己の浄力で相殺しながら、しかも蜘蛛君の顎に強力な膝蹴りをかませる傑物。それが宮代半裸会長だ。ルーキー部門の選ばれた者達が次代の星と言うなら、半裸はまさしく世代最強の男。間違いなく優勝候補筆頭だろう。


 というか今の四年も大分ヤバい世代なんだよな。蜘蛛君が就任する前に、擬きとはいえ全員が非鬼の訓練符倒して、なんちゃって単独者名乗ってたとか、馬鹿にしている様に聞こえるけど無茶苦茶凄いぞ。そんな四年で最強の半裸なのだ。各国の代表選手が半裸と他の四年の圧に押されている。


 そしてその後ろにいるのが、次なる黄金世代の卵こと、我らが一年A組の代表である、藤宮君、佐伯お姉様、橘お姉様、西岡君、南條君だ。教室ではそわそわしていた西岡君も含めて、全員が決意溢れる表情で一歩一歩前に進む。皆ーがんばえー!


 っといかん。俺は仕事中だった。次は半裸の選手宣誓だ。


「選手代表、宮代君の宣誓!」


「宣誓。我々選手一同は異能者として、時に正面から迎え撃ち、時に横へいなし、時に後ろから不意打ちを仕掛け、人道の中での勝利を追い求めます」


 パチパチパチパチ!


 はっ!? つい無意識に拍手してしまった! 流石ですね半裸会長。妖異と命懸けで戦う異能者は、スポーツマンではなく、生きるために、そして市民を守るために勝たなければならない。しかしこれはあくまで競技。そのため人道の中で勝利と強調したのだろう。流石はゴリラの隠し子だ。来賓と一緒にいるゴリラも満足気に頷いている。いやあ、皆さん素晴らしい選手宣誓だと思いませんか?


 駄目みたいですね。


 我が校の生徒だけでなく、来賓も選手団もそれでいいのかって顔を見合わせている。いや、"一人師団"の次男だったり、軍人の匂いがする様な代表選手は非常に強く手を叩いて拍手しているな。こいつら全員要注意だよ皆。不意打ちを仕掛けて来るかもしれないし、こちらから仕掛けても効かない可能性が高い。


 えーっと次は。


「次は世界異能大会、国際執行部副会長からのお言葉」


 あーあ始まるよ。ここからそれこそ、校長先生からのありがたいお言葉コーナーだ。現に、はい解散って雰囲気で立ち去る生徒達がちらほらといる。俺もそうしてえなあ。大体誰だよ。大会では必ず一つ演説をしなきゃならんって決めた奴。聞く方の事をちっとも考えてねえな。まるでお袋ののろけ話だ。どこどこで親父とデートした話なんて求めてねえんだよ。


 ◆


「以上で開会式を終わります!」


 心を無にして全てのありがたいお話を乗り切った。以上! 終了!


「ふふ、あなたお疲れ様」


「頑張りました!」


「と言っても、次はすぐよね?」


「はいそうです!」


 一仕事終えた俺にお姉様が労ってくれる。しかし、次の仕事がすぐにあるのだ。ああ忙しい忙しい。だがこれぞ労働の喜び。俺っち今輝いてるよ蜘蛛君。あれ、蜘蛛君? もしもーし? おっかしいな……労働に対して喜んでいる同士、蜘蛛君に声を掛けたら繋がらない。もしもし猫君、あ、繋がった。労働最高だよね? うんそうだよね!


 いよっし。労働の素晴らしさを再確認したところで、早速次の仕事に取り掛かろう!


 その仕事とは!


 ◆


「初めまして全国の皆さん。現在、テレビの副音声で企画を行っており、一部試合のみですが、実況解説も学生で行うコーナーを担当させて頂いています。私含めて三名で行いますが、学生であることから名前の方は控えさせていただきます。なお、通常の学生部門は従来通りテレビ放送がございますが、ルーキー部門はテレビ放送がございません。予めご了承ください。それでは皆さんよろしくお願いします」


 そう! どうせ学生の企画と試合なんだから、解説実況もやってみれば? という発想で設けられたこのコーナーに、俺が立候補したのだ!


 そして残りの二名は!


「ふふ、よろしく」


 勿論お姉様と!


「よろしくお願いします」


 暇そうにしてたから誘った北大路友治ことマッスル!


 以上三名で、一部の試合だけだが、テレビの副音声で解説実況が放送されることとなったのだ! 匿名だけど全国デビューだああああ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る