世界異能大会初日

世界異能大会

『今日から開催される世界異能大会ですが、学生部門は異能学園で行われます』


 ついにこの日がやって来たああああ!


 テレビは選手団が来た時と同じくらい、いやそれ以上に世界異能大会の事で大盛り上がりだ。どれくらい大盛り上がりかというと、新聞のテレビ欄は全部大会の放送だ。まあ残念ながら、ルーキー部門は放送が無い為、チームの皆の雄姿が全国に流れることはない。


 うん? 邪神通信に着信だ。これは親父だな。


『マイサンどうしてルーキーの試合がないんだい!? パパ楽しみに』


『ないもんはないんだよ。じゃ』


『ちょ!?』


 邪神間通信を切る。


 親父は猫ちゃんズの応援だけじゃなく、若者が頑張ってる高校野球も割と好きだから、それと同じ感じでルーキー部門も楽しみにしてたんだろう。が、そんなものは米露の都合でなくなったし、なんなら出場者自身が、面子やら色々気を使わなくて済むからそれを望んでいるのだ。なら俺からどうこうすることはない。


「じゃあ行きましょうかお姉様!」


「ふふ、ええそうね」


 それに俺は運営委員長として忙しいのだ。若者の頑張りが好きな大邪神に構ってられない。


 しかしよかったというかある意味残念というか、昨日マッスルの訳分からん筋肉言語を見てから、お姉様は家に帰ってもほっぺたが痙攣していたのだが、今日はもう普段通りだ。超可愛かったあいてっ。でへへ。


「もう。冗談じゃなく死ぬかと思ったんだから。ぷふ」


 いかんお姉様が思い出し笑いされている! でもやっぱり可愛いあいててっ。でへへ。



 ◆


 ◆



「よーしそろそろ終わるぞー」


「皆ご苦労様ー」


 狭間君と東郷さんの声が辺りに響き渡る。


 まずは当然、大会で使われる施設周辺の清掃だ。これは狭間君と東郷さんに全部任せていたため、俺がしたのは最後のチェックだけ。うん、流石は突っ込み役の二人。完璧だ。


 そして飾りつけは最低限で、大会後に清掃委員に必要以上に負担を強いない様になっている。精々国旗が所々にあるだけだ。


 外の事はよし!


 次はゴリラ、半裸会長と一緒に大会執行部に挨拶だ!


 ◆


「失礼します」


「失礼します!」


 大会執行部の人達がいる控室に入ると、そこには国際色豊かな様々な人達がいた。皆さまようこそ我がブラックタール帝国に。帝国は皆さんのことを歓迎します。


『ああ竹崎学園長。貴方方のお陰で今日という日を迎えられました。ありがとうございます』


「なんの、ここは学生が学ぶ場所です。その機会を逃す訳にはいきませんからな」


『はっはっは。そう言って頂けるとありがたいです』


 年配の白人男性、執行部の副会長がゴリラとシェイクハンドした。大丈夫ですか? ゴリラの握力って500㎏くらいあるらしいですよ?


 まあ後は適当に話を聞いてるだけでよし!


 ◆


 よし!


 ◆


 よし!


 ◆


 よし!


 全部よおおおおおし!


 ◆


 ◆


「諸君おはよう」


 改めましておはようございます学園長。ところでクラスの雰囲気どう思います? すっげえ重苦しくないですか?


 ほら、藤宮君は腕を組んで目を瞑ってますし、橘お姉様は薄っすらと目を開いて座禅の様に集中してますよ? それに西岡君はそわそわして落ち着きがいないですし、南條君は普段以上に眉間にしわを寄せてるじゃないですか。しかも、あのお姉様までじっと壁を見て普段と違うと来た。まあこれはマッスルの顔を見ないようにするためなんだけど。普段通りなのは余裕たっぷりな佐伯お姉様だけだ。流石です佐伯お姉様。


『いいこと考えた! 直接見に行ったら』


『お掛けになった邪神間通信は現在使われておりません』


『そん!?』


 また親父から通信だ。

 普段通りじゃないのは親父も一緒だな。猫ちゃんズがクライマックスシリーズ進出は間違いないと、テンションアゲアゲになってるのだろう。無茶苦茶アクティブになってる。


 ペンギンズが優勝? うっ頭が……。


いや、よく分からん電波を拾ったが、マジで来るんじゃないぞ。そんなことすりゃ次代の星達同士の戦いが、大邪神に挑む勇者パーティーに早変わりする。


「今日から個人戦が行われる。普段なら言う必要がないが、今回は敢えて言おう。積み重ねて来た物を信じなさい」


 ゴリラの言葉に出場選手の大半が頷いている。


 流石ですね学園長。てっきり、それこそ言う必要がないから、いきなりホームルームが終わると思ってました。


「それと初見殺しを使ったら、新しいものを作ることを忘れないように。読んで字の如く、初めて見る者を殺すから初見殺しなのだ」


 ゴリラの言葉に、出場選手どころかクラスの大半がやっぱりねと引いている。


 流石ですね学園長。青少年の爽やかな大会が、途端に血生臭くなりましたよ。


「それでは開会式に遅れないように」


 出席だけ取って教室を後にするゴリラ。


 大会開催中はほぼ授業なんてないから、朝一でいきなり放課後の様なものだ。しかし、誰も帰る訳がない。観戦に、応援に、未来のライバルを見に、それぞれの意思を秘めて一歩踏み出すのだ。


「それじゃあ行きましょうか」


「はいお姉様!」


 まだ壁の方を向いているお姉様に返事をする。集中しているチームの皆には敢えて声を掛けない。精々親指を立ててサムズアップするだけだ。


 それに対して藤宮君はふっと笑い、まあ見てろといった感じの雰囲気を漂わせている。


 橘お姉様は頷いた後、再び集中してゆっくりと歩きだす。


 佐伯お姉様は余裕たっぷりだったから


「貴明マネあれやってあれ。背中をぐっと押すやつ」


「はい!」


 いや、佐伯お姉様も緊張しているのだろう。俺の方に近づいて、あれこと邪神流柔術活法を求めて来た。


「とりゃ!」


「ぐぎゃら!?」


 俺が佐伯お姉様の背中をグイっと押し込むと、佐伯お姉様もまたグイっと仰け反る。手ごたえあり。完璧に決まった。


「いよっし! そんじゃあいっちょ行ってくるよ!」


「頑張ってください!」


「ふふ」


 佐伯お姉様が、パンパンと自分の頬を叩いて気合を入れて、開会式に出場する選手控室へ向かい、俺と、教室からマッスルがいなくなったことで、壁から視線を外したお姉様でその後ろ姿を見送った。


 俺達も開会式が行われる中央広場へ行かないと。


 いよいよ世界異能大会が開催されようとしていた。

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