戦いは既に始まっている!
前書き。
皆さま、深淵じゃなかった。新年明けましておめでとうございます!
◆
『今日のニュースです。昨晩、世界異能大会個人の部に出場するノルウェー代表が日本に到着しました』
『アメリカ代表が』
『ロシア代表が』
『学生の部とルーキー部門は異能学園で行われ、一足先に大会前半に行われる個人部門の出場者が来日しました』
『大会は三日後に行われる予定で』
「ふふ。もうあと少しね」
「そうですねお姉様!」
つ、つ、ついに選手達が日本に来たああああ! お姉様が作ってくれた卵焼きを食べながらテレビを見ているが、どのチャンネルでも話題は大会の事一色で、それだけ注目を浴びているという事なのだろう。なにせ一昔前では考えられない様な、漫画の世界のような戦いが繰り広げられるのだ。世の中で異能はありきたりなものとなったが、それでも例年視聴率はなんと50%を超えるらしい。
まあルーキー部門は放送されないが、普通の学生の部と成人の部は放送されるため、この期間は皆テレビに釘付けとなるだろう。
「いえ、もう始まってると言うべきかしら?」
「確かに!」
そしてお姉様の言う通り、戦いは既に始まっているようなものだ。まず海外の選手は時差ボケを解消しなければならないが、こっちは俺ら運営委員会が関与出来ることじゃない。しかしもう一つ、彼らが戦うための場所の下見に訪れた際は、俺、マッスル、木村君が正式な通訳さんのサポートをするという事で、試合前の今日から頑張ることが決まっている。
勿論工作員もだ。
他国の次代の若手が出場する大会なんて、絶対に、ぜーったいに工作員が合法非合法問わず色々やるに決まってる。現に森林訓練場にはカメラが設置されてるしな。当日機能しないけど。
「それじゃあ行きましょうか」
「はい!」
朝食も食べ終わり学園に向かう。時間的には大分早いが、運営委員長として色々やらないといけないからな。
◆
◆
「白蜘蛛君どうだい?」
『異常なし!』
「ふふ。一番最初に来るだなんて、やっぱりお気に入りなんじゃない?」
「そ、それは……!?」
まず最初に向かったのは、森林訓練場の入り口に引かれている規制線の前で、安全第一装備を身に着け、関係者以外立ち入り禁止の看板を器用に足で持っているニュー白蜘蛛君の所だ。
表向きは本番まで立ち入り禁止となっているこの訓練場のため監視員が必要だった。そこで白羽の矢が立ったのが、比較的手の空いているニュー白蜘蛛君である。彼は絶対に誰も通さないぞと気合を入れて、この職務を全うしているのだ。
しかし、お姉様言う通りなのか無意識にここに最初に来てしまった。円らな赤い瞳が頑張りますとキラキラ光ってるニュー白蜘蛛君。やっぱり可愛い………。
「で、では引き続き頑張ってくれたまえ!」
『了解! むっふん!』
改めて気合を入れ直したニュー白蜘蛛君だが……すまない。警備員として頼んでおきながら、実はこれは選手に対するある種の謎かけなのだ。本気で立ち入り禁止にするなら蜘蛛君か猿君で威嚇する。それで大抵の奴は諦めて帰るだろう。しかし盤外戦術をある程度許容する事になっているため、こっそり出場選手が戦闘フィールドとなるこの森を事前に調査するため見に来たら、それは情報戦の一環として黙認することになっているのだ。だからこそ立ち入り禁止ではなく、関係者以外立ち入り禁止にしている。選手は思いっきり関係者だからな。
そのため蜘蛛君や猿君がガチで警備すると少し都合が悪いため、少鬼のニュー蜘蛛君に白羽の矢が立ったという訳だ。つまり彼の役割は、出場選手に対してここは立ち入り禁止だから、リスクとリターンを量ってどうするか決めてねという、無言のメッセージの為にいる様なものなのだ。頑張り屋さんの彼を騙している様で、凄い罪悪感を感じる……。
『絶対誰も通さないぞ!』
「ふふ。元気一杯ね」
ああああああああああ!? 可愛らしく頑張りますと宣言するニュー白蜘蛛君に罪悪感があああああああ!
と、とにかくよし!
◆
◆
き、気を取り直して第二屋外訓練場にやって来た。ここはまるでローマのコロシアムの様に、中央にドンと大きな訓練台があって、その周りを観客席がぐるりと囲っている、まさに一対一の試合を行うのにちょうどいい場所で、ルーキー部門の個人戦の試合もここで行われることとなっている。
「おっす」
「二人ともおはよう」
「おはよう狭間君、東郷さん!」
「ふふ。おはよう」
そこで最後のチェックをしているのは、掃除道具を持った狭間君と東郷さんが率いる清掃係の生徒達だ。本番の試合はまだ三日後だが、代表選手はその間ここで体の動きの確認もするため、汚れが無いよう最後の確認をしているのだ。
よし、この完璧なツッコミを披露する二人なら、どんな汚れも見逃すことはないだろうからよし。次行ってみよう!
◆
◆
「おーっほっほっほっほ! 全く予算の計算に狂いがないわ! まさに完璧! おーっほっほっほっほっほっほ!」
「ぷぷぷぷ」
この大会中真の支配者だった厚化粧の玉座、会計室には入らないでおこう。なんかとんでもない渦に巻き込まれそうだ。ま、まあお姉様が笑ってるからよし!
次は俺の仕事の番! いよいよ各国の選手団が下見にやって来るぞ!
◆
◆
「最終確認やけど、アメリカは友治、ギリシャはワイ、フランスは貴明やね?」
「そうだね木村君!」
学園の下見にやって来る選手団を迎えるため、俺、マッスル、木村君、ゴリラ、その他大勢の教職員が正門に集まっている。なおその選手団だが、こちらの対応能力と訓練場の都合上、各国の日と時間をある程度ばらばらにして割り当てている。そうしないと米露がバチバチやり出すしな。
「む、来たようだ。あれは……アメリカか?」
マッスルの呟き通り、やって来た複数の大型バスは、アメリカの国旗が貼られている特別仕様だ。そして正門前に停車すると、中から続々と選手とそのサポートをする人員が降りて来た。
「では行って来る」
「頑張ってね北大路君!」
「うーい」
アメリカ担当のマッスルがゴリラや教職員と一緒にアメリカ校の元へ歩き出し、俺は拳を上げて、チャラ男は気のない声援で彼を送った。
うーむ……どうやら蜘蛛君ブートキャンプのために学園にやって来た新兵さん達とは違うグループの生徒の様で、どいつもこいつも身に纏っている力が尋常じゃない。そして鋭い鷹のようなブラウンの瞳に短い赤毛の青年からとびっきりの力を感じる。間違いない。写真で見た事のあるアメリカ異能者のレジェンド、"一人師団"の若い頃にそっくりな彼こそ、ルーキー部門に出場するその次男だろう。皆、こりゃあ厳しい戦いになりそうだよ。
そして俺もこれから戦いに臨む。このぞろぞろやって来た団体の中から工作員を見つけ出し、情報収集以上の活動をやった瞬間無力化する必要があるのだ。しかし邪神の俺でもちょっとだけ見つけにくい。というのも国防の為、相手の戦力を測るために情報収集するという目的で動いている場合、立派な目的のためその行動と心理に邪気が入らないのだ。だから最初からマークするのは結構大変である。
俺一人なら。
「真ん中にいる眼鏡を掛けてる金髪の男、せや、今ペットボトルの水を飲んだ男についての選手団の噂やけど、いつの間にか参加してたのに上役も問題視しとらんから、ひょとしてって思われとる」
この男、俺と同じく盤外戦術にべらぼうに強い木村君がいたなら話は全く変わる。
実は運営委員会の中で、彼と俺だけで結成された特別委員が存在するのだ。
その名も盤外戦術管理委員会!
学生の領分を超えた破壊工作、直接的な妨害、明確なルール違反を取り締まるために俺が設立したこの委員会はその目的上、情報が漏れないよう少数で秘密裏に各選手団を監視する必要がある。そこで俺が頼ったのはチャラヒモナンパ男こと木村君だ。彼は海外の非戦闘系女神の権能を扱え、その中には噂の女神だって含まれており、盤外での活動がそれはもう強力なのだ。
そしてその力で選手団の噂を収集して貰い、怪しかったり浮いている奴をピックアップして、それを俺がマーク、直接的な制圧が必要な場合はゴリラにお願いしている。なおゴリラにこれを伝えた時は、木村君と一緒に称賛された。まあ当然ですよ学園長。
ふ、ふふふ。完璧だ。明文化されたルールはきっちりと守らせ、ルールの穴を突いた盤外戦術はある程度許容し、さりとて明確な違反と反則は対処する。
この邪神四葉貴明がいる限り! 安心安全かつ公正公平な大会の邪魔をする者は許さああああああん!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます