反応
「では明日までに情報を集めて、一年生にそのデータを渡します」
「分かった」
半裸の言葉に頷くゴリラ。
どうやら戦闘会が、ルーキーだけどルーキーじゃない連中の情報を集めてくれるみたいだ。しかし、情報集まるかな……国内ならまだしも海外の秘蔵っ子だし、あったとしてもかなり限定的だろう。
「学園長、この事は皆に伝えますか?」
「ふむ、各国が発表した事だから伝えてもいいだろう。貴明、恐らく出場するだろうと、選手に伝えてくれるか? 間違いないとなったら、戦闘会執行部から正式に伝えて貰おう」
「分かりました! 伝えてきます!」
各国出場者の名前が書かれた紙を受け取り、行儀よく、されど素早くゴリラ園から飛び出して、タールで伝令と書かれた小さな旗を造り出して駆け出す。
まず一番近いのは、集団戦の特訓をしているはずの西岡君達!
「伝れーい! 退いてくださーい!」
「うお!?」
廊下を猛ダッシュしながら道行く人を掻き分ける。主席として廊下を走るのはよくないが今回は事が事だ。古来から戦場では、伝令係は特権的な立場だったことを考えると、今回だけは許されるだろう。
「伝令でーす!」
西岡君達の気配を感じる訓練場の扉を叩く。出場選手達は自分の技を知られない様、人目に付かない場所を選ぶが、ここもそんな訓練場の一つだ。
「うん? 貴明の声じゃなかったか?」
「伝令って聞こえたな」
俺の邪神イヤーに西岡君達の声が聞こえた。ある意味で秘密の訓練中の訓練場に無作法に乗り込む訳にはいかないから、誰かが来るまでは待機だ。
「ああやっぱり貴明だ。どうしたんだ?」
「学園長から伝令があるんだ。集団戦の出場メンバーは全員いるかな?」
「ああいるぞ。しかし伝令?」
扉から出て来たのはナンパ野郎村上君だ。不動明王の力を使える彼も、前衛としての役割を担っている。その彼も含めて、全員にショッキングな情報を伝えないといけない……。
「これ……各国の出場者……」
「うん? げええええええええええええ!?」
困惑気に紙を受け取った村上君が、心底ぶったまげた悲鳴を上げる。
「なんだ?」
「村上の奴、ついに頭が……」
その悲鳴に釣られて他のメンバーも集まって来た。いや、2年生もいるな。多分だけど名家の伝手で呼んで、仮想敵をして貰っているのだろう。
「学園長からの伝言を伝えるね。確定ではないけれど、各国が発表した選手になる。心構えをしておくように。以上です」
「事前に発表された奴がいるのか? どれどれええええええええええええ!?」
困惑気な西岡君。それもそうだろう。今までの大会で、事前に選手が発表されたことはないのに、今回だけ何故か、そう、何故か発表されたのだ。ド級の連中が。そして案の定彼も、顎を外しそうな村上君の隣で、目ん玉が飛び出そうになっている。
「はいいいいい!?」
「な、なによこれ!?」
「なんじゃあこりゃあ!?」
「ど、どうしてこんな事になってしまったんだ……!」
そして続々と同じような表情になっていくクラスメイト達。そりゃそうだろう。俺らの代での世界的な有名どころで、高校生くらいの時から時代の新星として、海外ニュースの特集を組まれるような奴等ばっかりなのだ。
「あーあ……」
「こりゃご愁傷様」
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
2年の先輩達もそのメンバーを見て、主に西岡君にお悔やみを申し上げていた。そりゃそうだろう。集団戦なら役割分担やチームワークが重要になるが、個人戦は西岡君が一人でほぼプロ連中と戦わないといけないのだ。手を合わせて念仏くらい唱えるというもの。
pipipipipipi
「お、俺の携帯か……」
む、着信音だ。どうやら西岡君の携帯らしい。
「親父? もしもし?」
『各国の出場者を知っているか!?』
俺の邪神イヤーが、携帯の向こうから聞こえてくる野太い声、恐らく西岡君のお父さんの声を捉えた。大分切羽詰まっている様で、かなり色々端折っているが、用件はまあ……これだろう。
「ああ今知ったよ……」
『どうする!? 出るのか!?』
また大分端折っているパパさんの言いたいことがまたしても分かった。そんなプロ連中と当たったら下手すりゃぼろ負けで、名家西岡の名に傷が付くが、それでも出場するのかと言いたいのだろう。
「逃げ出す方がよっぽどダセえだろ! 西岡の嫡男としてやる事は決まってる! 普段通り全力でやって、そんでもって勝つ! それ以上ねえ! だから果報を寝て待ってろ!」
『む、むう! それでこそ西岡の男だ! やって見せろ!』
「応!」
うーむ、パパさんの喜びが伝わって来るな。息子からまさに武闘派名家の嫡男として相応しい言葉で反論され、流石は我が息子と喜んでいるだろう。
だがまあ、このカラッとした感じの西岡家だが、異能者以外にはとことん冷たいので一般の人は関り厳禁なのだが。
「ともかく今は訓練あるのみ!」
「おう!」
「じゃあ僕は他の出場者にも伝えに行くね!」
やる気を出した一同を見届けて訓練場を後にする。次は南條君のところだな。
◆
うっわいるよ……訓練を覗き見されない様、態々外に門番的な人が……多分南條の分家の生まれの先輩だな。中にはこれまた同じような気配が複数。いずれも南條の生まれだろうなあ。気が進まないが、仕事は仕事でやらねばなるまい。それに俺には、何処でもオープンキーこと出場者名簿がある。これの威力は抜群中の抜群。
「学園長からの伝令で来ました! これがその伝令です!」
「は? はああああああああああああああああ!?」
ほら効果は抜群。面倒だから初手で名簿を渡すと、鼻水垂れる寸前の顔でぶったまげている。
「おま!? これ!?」
「学園長曰く、ほぼほぼ決定しているらしいです!」
「はあああああああ!?」
会話になっていないようでなってる俺と先輩。そうですよね。はあ? 以外の感想出てこないですよね。
「なにがあった?」
「と、俊哉さんこれ! これ!」
「うん? はあああああああ!?」
大声を不審に思ったのだろう。多分三年の南條家の先輩が出て来たのだが、その彼も渡された名簿に目を剥いて驚いていた。
「これ!?」
「学園長曰く、ほぼほぼ決定しているらしいです!」
「か、一成様あ!」
全く同じやり取りをしたのだが、三年だけあって南條家嫡男の南條一成、つまり南條君に声を掛けることは出来るらしい。
「……なんだ騒々しい」
やって来た目つきの鋭い南條君が俺の方を見ずに、自分を呼んだ三年の先輩だけに問いかける。
「こ、これ! 出場者の名簿のようです!」
「なに? 出場者の名簿?」
「学園長曰く、ほぼほぼ決定しているそうです!」
西岡君と同じように、今の段階で出場者の名簿が出ない事を知っているのだろう、俺をガン無視しながら訝し気に名簿を見た南條君の顔は……。
「はああああああああ!?」
よく目ん玉こぼれなかったなと思える様な、絵に描きたいほどほれぼれとするびっくり顔だった。それにしても、南條っておんなじ驚き方で笑える。ぷぷ。
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