選抜1
学園全体がピリついている。ついに今日から、世界異能大会に出場するための選抜トーナメントが行われるのだ。
実はこの大会、賞金といったものは発生しない。勝者に栄光と名声が、敗者には称賛が送られるのみだ。だが副次的なものは大きい。超一流は国家の方針で参加出来ないが、それでも優勝を果たせば単独者の様な例外を除き、トップクラスの一流という評価を得るため、その後の仕事量に直結するだろう。
学生もそうだ。卒業後に事務所を立ち上げたばかりでも、仕事に困ることはないだろう。その上やたらと待遇のいいことで知られているが、一握りのエリートしか所属していない異能研究所にそのまま就職することも出来る。日本の異能者にとって、異の剣に所属しているというステータスは大きく、名家出身でも適性が無いと判断されれば弾かれるほどだ。
そしてそれは海外でも変わらない。例えばアメリカやロシアなどなら多くは卒業後に軍に入隊するが、大会で好成績を収めるか優勝すれば、出世スピードが全く違う事で有名だ。確か以前、アメリカ異能者のレジェンド、"一人師団"の息子が対人に特化しているロシアと、特異点日本の精鋭達をぶち破って学生部門で優勝したが、現在はまだギリ20歳代なのに佐官になったはず。
ともかくまあ、学生にとって将来を明るくする大会である以上、出場しようとするの当然だろう。そのためクラスの中でもピリピリとした空気を感じる。
「あら飛鳥、中々気合が入ってるわね」
例えば佐伯お姉様だ。その瞳はメラメラとやる気の炎に満ち溢れてドス黒く染まっている。あれ?
「ふ、当然さ。最近、行き遅れボルケーノだの、悪堕ち魔法少女だの散々言われてるからね。ここらでボクが出来る女だってことを証明し直さないといけないのさ」
そのドス黒い瞳が教室の中を見渡すと、四馬鹿達が逃走経路を確認するため一斉に窓を確認した。こいつらいっつも逃げ道確認してるな。
「そして世界に、佐伯飛鳥ここにありと示すのさ。ふひ、ふひひひひ」
「せい!」
「ぎゃば!?」
どう見たって悪堕ちしている佐伯お姉様を正気に戻すため、後ろに回ってぐいっと背中を押す。親父、あんたの生み出した邪神流柔術活法は世界平和に貢献しているぞ。
「はっ!? ボクは一体何を!?」
「ぷぷ。ぷふ」
よかった正気に戻られたようだが、我を忘れてしまうほど集中していたとは流石佐伯お姉様だ。
「なんだ、またあく……」
「がるるるる!」
「そいや!」
「ぐべあっ!?」
そこへ登校した藤宮君がやって来てつい口を滑らしそうになり、再び佐伯お姉様が狂気に飲まれかけたが正気に戻すことが出来た。
「はっ!? ふ、いつもすまないね爺さんや。危うくボクのキャラが崩れるところだったよ」
「なんのでごぜえますだ」
「ぷぷぷぷぷぷぷぷ」
やれやれと肩を竦めながら首を横に振る佐伯お姉様。
駄目ですよお姉様、もう手遅れだけどねって言うつもりでしょ。
しかし。
「仕上がってるね藤宮君!」
「ふっ。まあな」
しまった口が滑ったと教室の外に出ていた藤宮君だが、その体に流れる力の高まり具合は、選抜トーナメントに対する意気込みを感じさせる。
彼の出場理由は自分の為ではなく、実家である藤宮グループの名を上げるための様で、本人としての目的ではないのにこの仕上がり具合は、まさに家族思いの藤宮君らしいと言えるだろう。
「あら、皆早いのね」
「橘お姉様も完璧な仕上がりですね!」
「勿論」
いつも通りの時間にやって来たら、クラスのほぼ全員が揃っている事に驚いている橘お姉様だが、その身に流れる浄力はかつてない高まりを、いや、ゴキブリ野郎と対面した時ほどではないが、とにかく高まっていた。ご実家の再興を目指す橘お姉様にしてみれば、今回の大会というチャンスを絶対に逃す訳にはいかないのだろう。
チーム花弁の壁だけではない。異能の東西南北と言われる名家出身である、異能至上主義者西岡君も、一族至上主義者南條君も、自分と家の名誉のために気合が入っている。まあ、その内の残り、東の東郷さんは完全に後方支援しか出来ないし、北のマッスルに至っては1人じゃ3分も戦えないため、トーナメントにエントリーすらしてないが。
単純に5人選ぶとなれば、藤宮君、佐伯お姉様、橘お姉様、西岡君、南條君になるのだが、クラス内で藤宮君の四力結界をブチ破れる存在が、超攻勢浄力というある意味異端の力で、結界に誤作動を起こさせられる橘お姉様だけなため、組み合わせ次第ではとんでもない事になりかねない。そのためほぼ全員が藤宮君と当たらない様に祈っているだろう。
「諸君おはよう」
ゴリラがやって来たのでみんなが席に着く。
おはようございます学園長。今日はちょっと早くないですか?
「全員集まっているな。それなら少し早いが朝のホームルームを始める。戦闘会からの要請でトーナメント表を作るため、出席番号順にこのくじを引いてくれ」
どんと木の棒が入った缶を教壇の机に置くゴリラ、
流石ですね学園長、いや、半裸会長。トーナメントの透明性も確保出来てなにより手っ取り早い。
出来ればチーム花弁の壁同士で争わないのが望ましいのだが、俺は運営委員長なのだ。何かしらの工作をするわけにはいかない。だから何もしない。でも出来たら骨肉相食むなんて事態は勘弁してくれ神様!
『呼んだマイサン?』
呼んでねえよ帰れ!
『あれえ? おかしいな』
神は神でも大邪神と交信してしまった。大人しく来年の高校野球のトーナメント作りまで待ってろ。
って今はそれどころじゃない。くじが引かれトーナメント表に次々と名前が書かれていく。よし、佐伯お姉様はほぼ埋まっているところだ。橘お姉様は……一番端だ! これはいけるぞ! 後は藤宮君だけど、彼は出席番号はかなり後ろだから引く前に大体分かる。
いかん橘お姉様の隣が埋まらない! 頼む! そこに藤宮君が入る前に誰か引いてくれ!
「花山」
「はい」
藤宮君の前に座っている女子生徒の花山さんの番だ! ヤバイヤバイ! もうほとんど後がない!
「ああもう……」
なんだ!? 花山さんがガックリと項垂れているぞ!? 早く書き込めゴリラ!
「橘の隣なんて……」
いやったあああああああ! 橘お姉様の隣が埋まったあああああ! もう残りの枠はどう転んでも5人決めるのに、チーム同士で戦わない組み合わせだ! 藤宮君のみならず、佐伯お姉様と橘お姉様もどこかほっとしている!
ばんざーい! ばんざーい! 手に汗握る戦いだったが、チーム花弁の壁は勝利することが出来た!
チーム花弁の壁大勝利!
ばんざあああああああああい!
ってうん? その後もくじ引きは続いて空白は埋まったけど、なんか最後まで埋まらないペアが出来てるぞ? という事は……俺とお姉様は出ないから、自動的にその手前の二人という事になるが……。
「神は死んだ……」
藤宮君とナンパ野郎村上君の戦いか……ドンマイ村上君。彼がそれはもう項垂れているが、単なる霊力しかし使えないため、どうあがいても藤宮君の結界を突破することが出来ないのだ。
だがまあ、君は、そう、あれだ、集団戦になら出るじゃないか。だから頑張ろう。ね?
と、ともかくよかったよかった!
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