戦闘会と裏運営委員会

何故か分からんが、運営委員長に選ばれたからには仕方がない。この四葉貴明、全力で大会を盛り上げる所存だが、当然この仕事は忙しい。運営委員会の中だけではなく、大会の主役を務める選手を選抜している、戦闘会執行部にも顔を出さなければならない。


「選抜は総当たりではなくトーナメント形式で行う。勿論相性というものがあるから総当たりが望ましいのだが、エントリーしている者は現時点で200人を超えているからな」


「総当たりにしたら来年度の選抜になりますものね」


「ああ」


俺が話しているゴリマッチョの戦闘会会長こと……誰だっけ。半裸会長としか呼んでないから名前忘れちまった。まあともかく半裸会長の言う通り、ルーキー部門がない為2、3、4年生は全部一緒の括りなのだが、それが選抜で総当たりなんかした日には来年まで掛かる事だろう。


しかし、ゴリラとマッスルといい、そしてこの半裸といい我が帝国には碌な奴がいないな。まともなのはチーム花弁の壁だけだ。


「ルーキー部門の方はどうします?」


「それも同じにする。そうでないと他の学年から不満が出かねないから」


「分かりました」


どうやら1年生の選抜も同じで、我がチームメンバーは一発勝負を潜り抜けないといけないらしい。だがこの情報は俺の胸に留めておく必要がある。それほど大した情報ではないが、出来るだけこういったことは公平にしておかねば。


「集団戦の方もトーナメントですか?」


「ああ。その予定だ」


「ふむふむ。これ単なる世間話なんですけど、この集団戦の10人って数、中々嫌らしいですよね」


「君もそう思うか。流石は1年の主席だな」


俺の世間話に、半裸会長が座っている椅子の背もたれに体重を預ける。いやあ、主席なのは本当のこととはいえ面と向かって言われると照れるな。


「10対10のノウハウってあります?」


「これが困ったことに全くない」


そのままの体勢で天井を見上げる半裸会長。そうなのだ。実は10対10という集団戦は、日本の異能者にとってある意味盲点だった。日本は勇者パーティーに習い、基本は5人ほどの人員でチームを組むのだが、10人以上増えるとなると相手はほぼ妖異オンリーで、対人戦をそれほどの人数で行う事をまず想定していない。


そもそも異能犯罪者が何十人も徒党を組むことがない上、きちんと訓練されている善良な異能者は個の力が強い為、制圧するのにそれほど数が必要ないのだ。


だがそれは、裏を返せば必要でないからノウハウがないという事で、無理矢理その状況に持ち込まれる10対10の集団戦というのは、実は日本にとって結構厄介なルールだったのだ。


「どうせルール自体はアメリカが考えたんだろうが」


「絶対その事までは考えてないと思います」


「だな」


誓ってもいい。集団戦なんて思いついたのはアメリカだし、そのアメリカにしたって日本に勝つための策という考えは今もないだろう。あるのは超力者で固めざるを得ない、バランスの悪いロシアをぶっ倒すという意思だけだ。


「ああそうだ、ルーキー部門のエントリーだが……まあ言ってもいいだろう。普通科からは無かったため、個人戦は実質推薦組でのトーナメント、集団戦はエントリーした組がそのまま出場だな」


「やっぱりそうなりましたか」


そんな気はしていた。まだ入学してから半年も経っておらず、ようやく異能のいの字を学び始めた普通科の一年生が、エントリーする事はなかったらしい。そのためクラス内での戦いになる様で、集団戦は……多分異能至上主義者西岡君を筆頭とした、比較的協調性のあるメンバーが出場するのだろう。南條君のように一族至上主義者達が出て来る事はまずないしな。


「そういえば補欠ってありますか?」


補欠についても聞いておかなければならない。既に大会には興味が無くなっているお姉様だが、考えを変えるかもしれないから聞いておく必要がある。


「それを聞こうと思っていた。個人は5人出るため考えていないのだが、集団戦は1組という都合上何かあったときの為に補欠がいる。が、エントリー自体が1組で困っていたのだ。1年の中で他にエントリーする者はいないか?普通科は少々酷だからな」


「ははあ」


個人戦の補欠制度はないようだが、確かに半裸の言う通り集団戦の補欠は必要だな。本番の為に集団行動をしている以上、異能者にはまずないが食中毒や病気で纏めてダウンする可能性がある。それを考えたら補欠は必要なのだろうが、普通科がその万が一で補欠として出場した場合、単なる蹂躙される側となり、半裸の言う通り酷な目に会うだろう。しかし……。


「個人戦に出る人達は個人戦に集中したいでしょうし、南條家の人達とかがまああれでして……」


「ああ……」


顔を顰めながら納得したと頷く半裸会長。1年A組は30人なのだが、その内10人が既に集団戦にエントリーして、個人戦に出場する5人の事も考えると、残りの15人の中にチーム戦で協調出来る人員は残っていないのだ。


「なら仕方ない。万が一が起こらないことを祈ろう」


「そうですね」


まあ任せて下さいよ半裸会長。俺っちが運営委員長である限り、この学園で下剤やら盛ってその万が一を起こそうとする奴なんて、即見つけ出してしょっ引きますから。


なんたって自分、しゅ!せ!き!で、い!い!ん!ちょ!う!なんですからね!


そう! 学園の平和を乱す者は、この邪神四葉貴明が許さん!


しかしこの半裸会長、言動がゴリラにそっくりだ。ちらっとだけ耳にしたゴリラの隠し子が学園にいるってのはこの人の事かな?






「えー皆さん。本学園で世界異能大会が開催されることになり、各国から多数の選手並びに関係者がやって来ます」


「ふふ」


草木も眠る丑三つ時。学園に忍び込んだ俺とお姉様の前には、蜘蛛君、猿君、猫君、犬君、お姉様謹製の青龍ちゃん、白虎ちゃん、玄武ちゃん、朱雀ちゃん、金剛力士像、その他多数の関係者が集まっている。


冗談でも何でもなく、下手すりゃバチカンでも陥落させられる面子だが、彼らの役割は我が帝国の防衛だ。


「それに伴い工作員、スパイの類が侵入してくる可能性がありますが、単なる相手チームの情報収集程度なら黙認で構いません。がしかし、それが下剤の使用、何らかの武器や機材の破壊活動に及ぶようでしたら、即座に制圧してください。俺が記憶処理して路上に転がしておきます」


バチバチメンチ切り合ってる米露は勿論、イギリスが情報収集に手を抜くとは思えない。そしてそれはれっきとした勝つための作戦だから構わないが、当日の試合に直接影響が出る工作は看過することは出来ない。だが蜘蛛君を筆頭に、人間に直接害を与えられることが出来ると知られてはいけないため、皆が制圧した後に、最終的に俺が工作員の記憶処理をしておく必要がある。


「という訳で、この学園のみならず、他の国からやって来た学生さん達も気持ちよく試合が出来るよう、全員一丸となって頑張っていきましょう! えいえいおー!」


『オオオオオオオオオオ!』


うーむ。なんと頼もしき我が配下達。これで試合中の安全は100%守られたも同然だ。そう、例え最後の審判が起ころうとも!


「ぷぷ。ちょ、ちょっと過剰だったかしら? ぷぷ」


お姉様もその光景に満足気だ。


ようし、とりあえず現時点でやらないといけない事は全部終わったな。後は実際に出場する選手を決めるトーナメントが終わってからだ。


佐伯お姉様! 橘お姉様! 藤宮君! 立場上、選抜トーナメントは応援出来なくなったけど、ファイトー!

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