異端花

「それでは後は戦闘会に引き継ぐ」


 そう言いながら教室を去るゴリラ。


 流石ですね学園長。健闘を祈るとか、ベストを尽くせとも言わない。そんな事は当たり前だから言う必要ありませんか。でもそれはそれで情緒というか味が無いというか……まあゴリラには無理な相談か。なにせゴリラなんだから。


「戦闘会会長の宮代だ。それでは選抜トーナメントを開始する。一回戦は全て同時に行うので、第一訓練場に集合してくれ」


 ゴリラと入れ違いで教室に入って来る半裸会長。


 そうだ名前は宮代会長だ。流石ですね半裸会長。あ、まあもう半裸会長でいいわ。ゴリラの隠し子疑惑があるだけあってまさに単刀直入。そう、俺が小耳に挟んだゴリラの隠し子は、やたらと実践的なところが似ているらしい。まさに半裸会長の事だろう。


「なお参加しない者の応援や観戦等は許可出来ない。単に観戦でも別の学年が押し掛ける事になるからな」


 ちっ。先に釘を刺されてしまった。しゃあない。俺は運営委員長なのだ。大会に関係するルールには素直に従うか。


 ◆


「それでは選抜試合を開始する」


 なんて言うと思いましたか半裸会長?


 運営委員長四葉貴明としても、主席四葉貴明としても、クラス内での選抜試合なら特定の誰かを応援してはいけない。が、ここにいるのは単なる邪神四葉貴明だ。つまりこっそり見たら問題なし。証明完了。ってなわけでおなじみ第一形態ボンレスハムの能力で、観戦席にお姉様と堂々と座る。


 クラスの皆は、馬鹿広い第一訓練場の闘技場にそれぞれ上って相手と対峙している。凄い、皆の気がどんどんと高まっている! 村上君以外。


「チームの皆はどうなると思いますかお姉様!?」


「そうねえ。なるようになるんじゃないかしら」


「そうですよね!」


 俺の隣で世界の刀剣集を見ていたお姉様に、チームの皆が勝ち残れるかどうか尋ねたが、まさにお姉様の言う通りだ! 日頃の皆の動きを考えたら、なるようになる、つまり勝ち残れるのは決まったも同然! 現に藤宮君と戦う村上君は、始まる前から自分の運を嘆いているくらいだ。まあ、その気持ちも分からんでもない。なにせ彼も藤宮君もくじを引いてないのに、自動的に戦いが決まったのだからそりゃ嘆くよね。


 まあとにかく、俺は皆を信じてどっしりと構えていよう!


「試合開始!」


 はわ!? はわわわわ!? は、は、始まった!


「やってやりゃあああああ! 【不動明王剣】!」


 全クラスメイトの中で様子見も全くなし、いの一番に突っ込んだのは村上君だ! 一見考えなしの行動に思えるが、藤宮君の無敵防御、実は結構穴がある四力結界を抜けない村上君は、結界展開前に速攻を仕掛けるしかない! だからこれは最善!


「【四力結界】」


「ちくしょおおおおおお!」


 が、駄目! 作戦失敗! 最善だろうが意味なし! 結界の展開はそもそも遅くもなんともない! 村上君の不動明王剣は、藤宮君の結界に阻まれ止まってしまった!


「【四力砲】」


「バラああああ!?」


 そして藤宮君の四力砲をまともに食らって、訓練場から吹き飛ぶ村上君。しかし、なんだいその断末魔は!? 馬鹿なって言おうとしたのかい!? それともまさか俺の薔薇色の未来がって感じ!? 言っとくけどそんなものは、君がナンパに全部失敗した時点でないからね!


 ま、まあとにかく、藤宮君やったね!


「【不動明王炎】!」


 もう一人速攻を仕掛けた生徒がいた。クラスの出席番号一番、伊集院君だ。彼は得意な不動明王の炎を相手に、佐伯お姉様相手に繰り出したのだが、これも本来なら正解だろう。詠唱が必要で瞬発力に欠ける魔法使いを打ち倒すなら、速攻で仕留めに掛かるのはセオリーだ。


「【ボルケーノ】! もういっちょ【ボルケーノ】!」


「んぐぐぐぐぐぐ!?」


 しかし、相手が悪かった。佐伯お姉様の対単体最強技であるボルケーノと、不動明王炎が空中でぶつかったが、圧倒的火力に押され不動明王炎が突き抜けられる寸前だ。何故かよく分からないが、そう、分からないが、佐伯お姉様は魔法使いとして一つの指標である、無詠唱で魔法を唱えられる領域に達したため、そのセオリーが通用しないどころか、逆に伊集院君は防ぐのが精一杯になっている。


「ぷぷ。これが、ぷ、悪堕ちしたからなのね。ぷぷぷぷぷ」


 お姉様が刀剣集に目を落としながら微笑まれている。ど、どうするべきか……悪堕ちでパワーアップしているならそのまま……いや、悪堕ちしたというのなら、邪神として再び佐伯お姉様を正気に戻さないと。


「もういっちょ【ボルケーノォォ!】」


「な、なんだと!? ぬああああああ!?」


 ほげ!? 三連ボルケーノ!? 死ぬ気で不動明王炎の発動に集中していた伊集院君は、それを飲み込みながら襲い掛かって来た炎の奔流に巻き込まれ、そのまま訓練場から吹っ飛ばされてしまった。


「きゃああああ佐伯お姉様あああ!」


「ぷぷ。ぷふ。ぷふふふふふふふふふ」


 ついつい佐伯お姉様親衛隊のような歓声をあげて、観客席から立ち上がってしまう。お姉様も佐伯お姉様の勝利が嬉しいらしく、刀剣集を畳んでお腹を押さえている。うん。きっと喜んでいるのだ。間違いない。


「ぷふっふぷううう。い、嫁き遅れぷふふボルケーノぷうううう三連発。も、もうだめ……ぷふふふふふふ」


 多分。


 ま、まあとにかく、これで佐伯お姉様も勝ったから、後は橘お姉様だけだ!


 その橘お姉様だが……。


「【深々侵雪しんしん】」


「【ふすま二つ間重ねふたつまかさね】!」


 相手は同じ浄力使いの東雲さんだ。彼女は同じクラスの氷室さんとキャットファイトを繰り広げ、いつの間にか仲良くなっていたという、色物クラスの例に漏れない女性で、今は浄力で編まれた襖を二つ組ませて、橘お姉様の超攻勢浄力を防ごうとしている。


 浄力者同士の戦いは、よく陣取り合戦と言われる。お互い強力な結界を展開して、その結界がぶつかり合った地点で主導権を争い合い、隙あらばデバフを叩きこんで一気に押し込む。それが通常の戦いだ。


 だが橘お姉様の力は異端中の異端とも言っていい。


「ああもう! あんたのその力どうなってんのよ!?」


 東雲さんが悲鳴を上げるのも無理はない。俺の目から見て十分な効果を持っている彼女の襖による結界はしかし、その襖に霜がびっしりと覆っていた。


「ふんぬぬぬぬぬ!」


 必死に結界に力を籠める東雲さんだが、一つ目の襖は完全に凍り付き、最後の襖にも霜が侵食し始める。


「ちょっとだけ貴方の第一形態の力に似てるわよね」


「そうですよね!」


 お姉様の言う通り、それは俺の第一形態ボンレスハムの力に少し似ている。橘お姉様はともかく境界線やラインの維持、または突破に対して強い。その力を他にどう表現したものか。楔を打つのが得意、か? 自陣に打った楔は綻びない。敵陣に打った楔はそのまま根を張るように相手を侵食する。


「【雪崩崩しなだれくずし】」


「んきゃあああ!?」


 完全に凍り付いた襖を確認した橘お姉様は、その浄力を最大まで圧縮して雪崩として解き放ち、その襖ごと東雲さんは雪に飲み込まれて訓練場から叩き出された。


「やったああああああ!」


 これでチームの皆が一回戦を突破したぞ! ばんざーい! ばんざーい! クラッカーがあったら撃ちまくりたい気分だ!


「なるようになったわね」


 再び刀剣集に目を落としているお姉様が評した。そう、皆の実力を考えたらまさになるようになった! いや、落ち着け。まだ決まったわけじゃない。もう1戦、もう1戦あるんだ。落ち着け俺。ひっひっふー。


 ◆


 ◆


 ◆


「それでは世界異能大会ルーキー部門出場者、佐伯、橘、南條、西岡、藤宮。学園を代表して臨んで欲しい。以上だ」


 くふ、くふふ。


 ははははははあはははははは!


 ふうっ!


 いぃやったああああああああああああああああああああはははははははははははは!

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