世界異能大会2

「諸君、世界異能大会だが、ルーキー部門が今年度より行われる事の確認が取れた。これは異能養成校の一年生限定であり、普通科も合わせて個人戦では5名が出場することが出来る」


 いきなりですね学園長。という訳ではないか。ゴリラが確認のため伝家の宝刀、生徒の自主性に任せた自習時間を間に挟み、その後で再び集まった俺達に、世界異能大会にルーキー部門が設立されたと説明した。


 しかし5名が出場か。普通科も合わせてとはいえ、実質は推薦組の中からだろう。それならお姉様、佐伯お姉様、橘お姉様、藤宮君、それとマッスルに無理矢理にプロテインと炭水化物をぶち込んで出場させれば、我がブラックタール帝国が世界最強の称号を手に入れられることは間違いないだろう。


 ん? そういやなんで態々個人戦って言った? 大会は個人戦オンリーだろ? まさか……。


「その上更に、今年度から新項目が追加された。10名を上限としたチーム戦が行われるため、こちらの参加者も1チーム分10人を募る。構成については戦闘会執行部が考えているが、まあ基本四系統2人ずつの8人で、それにプラス自由枠で、前衛と後衛に1人ずつと言ったところだとは思う」


 ああああ臭う! どこの国カとは言わんけど、最強メンバーを集めて叩き潰すのが大好きな国の陰謀の臭いだ! 理由もよく分からないけど、多分去年、タイマンの対人戦でくそ強い超力者達にボコられたから、今年はチーム戦にして、そいつらが苦手なチームでの持久戦に持ち込む気だ! 現に日本の勇者パーティー式の5人とかじゃなくて、10人っていうちょっとした部隊なのがその証拠! いや、どこの国カ全く分からんけど!


 うん? なんか異能至上主義者の西岡君を筆頭にクラスの大勢が、俺とは仲悪い南條君まで俺の方を凝視しているぞ? なんだよ言いたいことははっきり言ってくれ。


「うーん、一年限定はどうかしら。ここのクラスに面白いのが多いのは確かだけど、母数が少ないからあんまり期待できないわね……やっぱり面倒、補欠での出場もなしね」


 お姉様が一年生限定の出場に興味をなくして、補欠の出場でも止める様だ。気分屋のお姉様にはよくある事なのだが、俺をガン見していた奴らが全員ほっとしたような雰囲気を出している。あ、分かったぞ。俺にお姉様がどうするか聞けって視線だったな? まあ確かに、お姉様が個人戦に出るなら枠が一つ潰れた様なものだし、団体戦に至っては10人どころかお姉様だけで33-0の完封勝ちだから、その動向が気になって仕方なかったのだろう。


「それに伴い、学園の一部を世界異能大会の為に開放することになった。その為戦闘会とは別に、運営委員を立ち上げる。立候補者はいるか」


「はい!」


 ゴリラの言葉にすぐ手を上げる。ブラックタール帝国皇帝として、帝国内の催し物に俺が参加しない筈がない。最近おざなりだった内政の時間だ!


「うむ。大会中は海外の者が多く訪れる。語学が堪能な貴明が参加してくれるなら、委員会にとっても心強いだろう」


 そう、俺は語学チートを持ち合わせており、更に地球の声を聞こうと思えば聞けるため、環境に配慮してゴミの分別にも手を抜くつもりはない。まさに運営委員にとって喉から手が出る人材だろう。いや、寧ろ俺が運営委員を乗っ取っちゃうか? 皇帝親政しちゃうか?


「それでは本日は、大会への準備の為に充てる。立候補を考えている者は戦闘会の執行委員会へ、大会の運営に参加する者は、この後に校内放送するのでそれに従うように」


 おっと、今日はもう全部、世界異能大会のあれこれに時間を使っていいみたいだな。まあ尤も、ゴリラとしても急に分かった学生のイベントだから、色々打ち合わせをしなきゃならんのだろう。


「以上、解散」


 ゴリラの解散指示に、クラスの皆が続々と席に立つ。これから戦闘会執行部に行くのだろう。俺も大会運営委員会の校内放送に気を付けておかないと。


「これはチャンスだね」


「ええそうね」


「一年限定なら大会でも勝機がある」


「皆ファイト!」


「ふふ。ま、頑張ってね」


 自然と集結するチーム花弁の壁。佐伯お姉様、橘お姉様、藤宮君は出場枠を掛けて、当然エントリーする様だ。


「団体戦はどうするんです?」


「いやあ、ボク若干名家と折り合い悪いし」


「同じく」


「俺も同じく」


「ぷ」


 どうやら皆の出場は個人戦オンリーの様だ。まあ確かに、実家が新興企業の佐伯お姉様と藤宮君は、名家出身のクラスメイトと、若干折り合いというか相性が悪い。それはご両親がおらず、色々と余所の名家からちょっかいを受けている橘お姉様も同じだ。そのため10人という大所帯では、必ず名家が参加するだろうから連携が効かず、碌な結果を残せないと思ったのだろう。


「しかし運営委員に参加するなんて、貴明マネも中々勤勉だねえ。パンクしないようにね」


「無理はしないでね」


「橘の言う通りだ。お前は出来ることが多いから1人で何でもしようとする」


「み、皆!」


「ふふ」


 俺が運営委員に参加することに対して、皆から心配と労わりの言葉を投げかけられた。こ、これが友情……! 今俺は猛烈に感動している!


「さて、トレーニングエリアでダンベルを上げなければならない」

「俺は、どうするかな。急にぽっかり時間が空いたら困るな」

「ワイはゲーム」

「私は昼寝」

「優子、太一君。休みじゃないんだけど分かってる……?」


 そんな感動している俺の近くで、馬鹿達が思い思いの発言をしている。こいつら戦力的に考えたら、10人どころか5人でも優勝出来るだろうに、残り入って来る5人が名家なら面倒と思って参加しないようだ。


 ピンポンパンポーン


 お、校内放送だ。大会運営委員の件かな?


『お知らせします。世界異能大会学生運営委員会を立ち上げます。立候補者はこの後すぐ、第一会議室まで集合してください』


 やっぱりそうだ。しかし今思ったけど、皆大会を見たいだろうから、運営委員に参加する奴なんているのか? 最悪強制招集されるんじゃなかろうか。


『なお参加者には、今学期における成績に、ボランティアの参加として若干の内申点が追加されます』


 いきなり最終兵器ぶち込みやがったああああああああ! 学生がそんな面倒に参加しない事を完璧に理解してやがる!


「!?」

「!?」


 反応すると思ったんだよなあ……。


 ◆


 ◆


「1、2、3、4、5、6」

「なんで俺らまで参加する羽目になってるんだ?」

「まあまあええやん」

「これで今学期は乗り切れるわね」

「目先の人参に飛びつく馬そのものなんだけど……」


 案の定、内申点に釣られた木村君と如月さんというキングオブ馬鹿2人が、その上更に他の馬鹿達を引き連れて、運営員会が行う説明会にやって来ていた。


「これは大変な事になったかもしれない……」


「ぷふ。ぷぷぷぷぷぷ」


 ダンベルを上げ下げするマッスル、首を傾げる突っ込み役、それを宥めるチャラ男、既に今学期は乗り切ったつもりの厚化粧、頭を抑える東郷さんを見て、俺は今後の大会運営について頭を抱えてしまう。


 お姉様はそれを見て笑っているけど、超可愛い。あいてっ。でへへ。


 いや本当にどうするんだよこれ……。

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