運営委員会

「諸君よく集まってくれた」


 また貴方ですか学園長。って当然か。学園でデカいイベントを行うなら、運営委員会のトップもまた学園長であるゴリラだろう。


「本学園で行われるのはルーキー部門だけで、他の部門は異能研究所の近くで行われる。そのルーキー部門は8ヶ国がエントリーしており、個人戦が5名、団体戦が10名に加えて若干の補欠と引率の教師が訪れる。大体1ヵ国20名程だと思ってくれ」


 いつも通り要点だけ淡々と述べるゴリラだが、慣れていない普通科の生徒さん達は若干戸惑っている。皆さん、これが合理的阿修羅、略してゴリラなんですよ。


「観客と撮影のメディアだが、我々の対処能力を超えるため観客は無し。メディアも日本の選ばれたテレビ局に限定している。そのため全部でおおよそ200余名が学園に訪れる試算だ」


 ふむ。大体100人ほどの生徒が集まっているが、それに教員も加えた上で来るのが関係者だけならうまく回るかな? これが観客ありにしたら、難易度も人員ももう100倍に跳ねあがるが、流石はゴリラ。観客が来たら収益も跳ね上がるけれど、対処出来ないなら元も子もないと最初から切り捨ててるな。


 しかし、この100人だが大体普通科の1、2年生だな。上級生と推薦組は、出場するために全振りなのだろう。この場にはいなかった。


「委員会の仕事だが、一先ずは学園内で行われるもの限定と考えてくれ。出場者の宿泊先などは気を回さなくていい。諸君達に行って欲しいのは、会計、関係者の案内、校内の清掃、世界異能大会実行部から送られた人員の補佐と補助になる」


 流石に世界異能大会実行部からも人が来るか。なら大丈夫だろうが、それはそれで思ったより好き勝手出来なさそうだな。


 いや待てよ、まだ業務はあるぞ。聞いてみるか。


「学園長質問があります!」


「うむ」


 端的に頷くゴリラ。ふ、ゴリラとの仲の良さを、普通科どころか他の教員もいるのに見せちまった。


「下剤の使用や情報妨害の阻害、買収など、出場チームが行う妨害活動に対する監視と対処は必要でしょうか!」


「ぷぷ」


 俺の元気いい質問に対して、お姉様が笑われた。超チャーミング。あいてっ。でへへ。


 一方会議室だが……馬鹿達以外何言ってるんだこいつと言った雰囲気だ。いや、皆さん大事な事じゃないですか。


「うむ。いいところに気が付いた」


 ほらね、ゴリラも大事な事だと頷いている。


「今回はあくまでスポーツマンシップに則っての行事だ。その手の物は完全に排除される必要がある。よってその類は、発見次第すぐに教員に報告するように」


 至極尤もだと頷くゴリラだが、会議場に集まっている皆さんは困惑気味だ。皆さん、正々堂々という言葉は、スポーツですら時に反されるんだから、国家の面子が掛かっている異能者同士の戦いなんて、あの手この手で勝とうとするに決まってますよ。


 しかし正々堂々か。俺と真逆の言葉だな。はっはっは!


「さて、ある程度班分けをしないといけないが、貴明、木村、北大路」


「はい!」


「はい」


「はい!」


 名指しで指名された俺とマッスル、それにチャラ男だが、チャラ男の返事は気合に満ち溢れている。どうも本当に今学期は、このボランティアに賭けているようだ。


「三人は案内係を務めてくれ。語学な堪能な君達が必要なのだ」


「分かりました!」


 俺は元からそうするつもりだったのだが、実はマッスルはボディービルダーの本場、アメリカの筋トレ方法や栄養剤を調べているうちに、いつの間にか英語が話せるようになっていた馬鹿なのだ。まあ、英語を話せなくても、アメリカならサイドチェストしただけで何人かとは話せそうだが。


「もうこれで、今期は補習なしなのに間違いないで」


 んで、一番問題なのはチャラ男こと木村君で、この男、世界中の女神の力を借りられるという事は、話せるという事でもあるのだ。が、ふざけた事に面倒臭がって、アメリカ校とロシア校が来た時もそのことを黙っており、この前行われたテストで、唯一英語だけやたらと点数が良かったため発覚したのだ。


 まあともかくとして、案内をするだけなら全く問題ない能力を持った二人と組むのだが、はっきり言って不安だ。脳細胞まで筋肉と、ナンパするために話せるような男の二人なんだぞ。明らかに俺だけ浮いてるじゃん。


「じゃあ私は会計の方に回ろうかしら」


 呟いたのは元紅一点の厚化粧だ。実はこの女性、金の遣り繰りが非常に上手い。マジで上手い。バーベキューの時も必要な予算を試算すると、ピタリとそれに収まり全く無駄な金が存在しなかったくらいだ。そのせいか若干数学だけは得意らしい。


「じゃ俺は清掃かな」


「私もそうしようかな」


 突っ込み役と東郷さんは清掃係に立候補する様だ。僅かなボケも見逃さない彼等なら、学園の汚れを見逃すことはないだろう。


「お姉様はどうします?」


「いやね、貴方の傍から離れる訳ないじゃない」


「はふはふ!」


 なんか久しぶりにお姉様に顎をツーってされてしまった! お姉様あああああああああ!


 あ、ゴリラにもう一つ聞くことがあったわ。


「学園長、質問があります!」


「うむ」


「個人戦は今まで1対1でしたが、集団戦と言うからには同じ闘技場で、10対10で行われるのでしょうか? それとも1対1を繰り返していくのでしょうか?」


 会場の皆さんが今度は、そう言えばそうだなと隣と囁き合っている。柔道とか剣道の試合は先鋒とか大将とかで1対1を繰り返すが、集団戦と呼称されるなら10対10で行われるはず。


「10対10を同じ訓練場で行う事となっている」


 やはりか。しかしそれでは若干片手落ちというか、いや、そもそも個人戦もそうだな。


「学園長、提案があります!」


「うむ」


「同じスタートラインでよーいドンも戦いですが、それだけでは片手落ちだと思います!」


「うむ。私もそう思う」


 やっぱりな。ゴリラもうんうんと頷いている。会場の人達は、ん? って感じだが。


「ですので森林訓練場を試合場に用いて、個人部門では複数人、集団部門なら複数チームが競い合うと、戦力の温存、一時的な同盟、やり過ごし、陽動や攪乱など、それぞれのチームがまた違った面を見せてくれると思います!」


「うむ。その通りだ」


 ふ、流石はブラックタール帝国宰相。俺の言葉に、我が意を得たりといった感じだ。他の皆さんは隣の人と見つめ合っているが。いや、ベテランの教員も頷いているな。


「では諸君、早速一つ案が出来た。まず運営委員会の最初の仕事として、これを協議しよう」


 ゴリラが運営委員会最初の仕事を宣言した。


 ◆


 色々意見が出たのだが、反対意見といっても、ノウハウがないからといった程度で、大体は面白そうだしやってみようという流れとなり、1度か2度試しに行って、いけそうならゴリラが正式に、世界異能大会の実行部に話を付ける事に決まった。










 ピークは過ぎたが、やはり流行りはバトルロイヤル。帰ったらランク上げないと。

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