世界異能大会準備編

世界異能大会

「おはよう諸君。また無事な顔を見ることが出来て嬉しく思う。それでは早速ホームルームを始めよう」


 相変わらずですね学園長。帰省して戻って来た生徒が多いのに、特に感慨深げにする訳でもなく、すぐに本題に入るところ、僕は嫌いじゃないですよ。というかクラスの皆も、ああ、学園に戻って来たんだなって感じだし、それでこそですね。


「日本で行われる世界異能大会が近づいている」


 うーん単刀直入。全くもったいぶらない。


「腕が鳴るな」

「いや、一年はそもそも出られるのか?」

「特例で、当時一年でも出た先輩がいるって聞いたことはあるけど」


 だがその代わりというか、教室の中はザワりとした。


「知っての通り」


 ゴリラの言葉でピタリとざわめきが収まった。流石はボスゴリラ。特に何か気を入れた訳でも、ためを作った訳でもないのに収めるとはな。


「学生の部と成人の部に分けられており、諸君達が出場する場合は学生の部となる」


 世界異能大会。別名、世界で二番目に強い奴決定戦である。よくオリンピックと比較されることが多いこの大会だが、四年に一回ではなく毎年で、走り幅跳びとか100mとか水泳などはしない。ただひたすら異能でドンパチして、強い奴を決めようという頭の悪い大会だ。まあ、異能が対妖異に全振りされている事を考えると、そうなるのも仕方ないだろう。


 歴史は勿論浅く、ギリシャのオリンピックの裏で行われていた裏歴史も存在せず、やっぱり頭の悪い事に、近代の異能者がウチの国が最強だし、は? 俺らのとこに決まってんじゃんとか言いだしたことがきっかけで、白黒つけるために開催されたのが大会史の始まりだ。


 単に米露がメンチ切り合った結果起こったともいう。

 まただよ。米ソの時から宇宙開発競争と、オリンピックバスケットボールでお互い何も学んでいない。


 そのため、普通の国は国防に穴が開くため最強の存在は大会に派遣されず、それが原因で世界に二番目に強い奴決定戦と言われているのだが、この米露だけは例外で、相手がアメリカ、もしくはロシアと分かると、お互い最強をぶつけて全力で殺しに掛かるのだ。


 キューバ危機から全く学んでいない。


「だがメンバーの選抜は、去年の戦闘会の戦績を基に、戦闘会会長を中心とした学生執行委員が行うので、諸君達が出場したい場合、自分で売り込む必要がある。なおこの件に関しては、生徒の自主性を尊重するため、我々教員は一切推薦も助言もしていない」


 ゴリラがチラリとマッスルを見た。確かにマッスルは準備さえ出来ていれば、2分くらいの間だけカバラすらぶち抜いて世界最強クラスなのだが、問題は本人にやる気が全くない事だ。これがもし団体戦が存在していれば、ゾンビ達全員がいっちょやってみるか? となるのだが、残念ながら大会は個人戦オンリーで、マッスルが出場する意欲は湧かないだろう。それが分かっているゴリラも、団体戦があればな、と思っているだろう。もしあったら、建前は敢えて無視して、ゾンビ達に大会に出るかどうか位は聞いたかな?


「栞はどうする?」


「残念だけど、まだ単独で四年生を打ち破ることは出来ないわ」


「だねえ」


 バトルジャごほん。失礼な事を思ってしまった。若干バトルジャンキーな橘お姉様も、出場のための売り込みを断念するみたいだ。確かに最上級の四年生、半裸戦闘会会長とその周囲を見ると、四年を押しのけて一年坊主が入り込む余地はないかもしれん。


「……」


 チラリと藤宮君が後ろを向いて俺を見て来たので、全力で手を横に振って否定する。俺が世界大会なんかで大活躍したら、バチカンから熱い視線で見られることは確実なんだよ藤宮君。


「補欠で参加しようかしら」


 呟きに教室中が、ぎょっとした。それはゴリラも俺もだ。


 その呟きを発したのはなんとお姉様だ。いや、確かにお姉様は面白い事が好きだが、面白くなるかどうか分からない、不確実なものにはあまり興味を示さない。それを考えると大会に出て来る者達のレベルがいまいち分からないのに、お姉様が興味を持たれるのは珍しいと言えるだろう。


「ふふ。学園でも思ったより面白いのが多かったもの」


 チラリとお姉様が見たのは、チーム花弁の壁とゾンビーズのメンバーだ。若干顔が引き攣っているチーム花弁の壁と東郷さん。ゾンビ達は、逃走経路の窓を確認しているため顔は見えない。


 多分、お姉様が思ったより世間には面白い者が多かったから、大会でも出てくる可能性があるため、補欠でエントリーだけしておいて、いざ本当に面白い奴がいたら、そいつに合わせて出場するかどうかを考えているのだろう。メンバーの空きは作ればいいし。うん。


「一応戦闘会執行部に話はしておこう……」


 おいゴリラ、建前忘れてるぞ。生徒の自主性に任せるから、教員はノータッチじゃねえのか?


「まあとにかく、大会に参加出来れば、自分の名を売るチャンスではある。検討している者がいれば、概要だけでも執行部に聞いてみなさい」


 そりゃ世界的な大会であり、この時だけは国の許可の元、代表の異能者が飛行機でやって来る程度には力が入れられているのだ。テレビに勿論映るから、名を売る絶好のチャンスだろう。実際、名家出身の人達はそれを聞いて、話だけでも聞いてみるかって感じになってるし。


 コンコン


「うん?」


 そんな大会の説明中に、誰かが教室のドアをノックしてきた。


「学園長、すいません。緊急の連絡があります」


「どうした?」


 そこにいたのは……確か……事務室の職員さんだな。その職員さんと話をするため、ゴリラが教室の外を出る。


 邪神イヤー発動! 盗み聞きする!


 好奇心旺盛な邪神は、秘密の会話にそそられてしまうのだ。


「……なに? 今年度から、一年生だけ出場出来るルーキー部門が設置されていた?」


 これはとんでもない事になったかもしれん……












 まさかプロさん、ルーキーとして出てこねえよな?

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