幕間 また新米教師田中健介の憂鬱

(派遣されて来た者の調整は私がせねばならんが、貴明たちについてはどうするべきか……)


 異能学園学園長、竹崎重吾は多忙である。夏休みという事もあって、普段の有事に対して主力である、推薦組の最上級生たちが実家に帰省していることもあって、外部の異能者が国から送られていたが、異能者は多かれ少なかれ変わっていたり癖があるため、生半可な者では調整が難航してしまうのだ。


 そのため高名であり、かつ何かが起こっても無理矢理押さえつけられる竹崎が行うしかないのだが、そうするとある意味一番の問題である、彼の担当クラスのチーム二つ、もっと言えば四葉貴明、小夜子の二人をどうするかという話になる。


(そうだあの手があった)


 その事について考えていると、ふと名案が浮かび上がった。いたのだ。四葉夫妻と交流して問題が無かった


 ◆


「田中、私は外部から派遣された者達との打ち合わせがあるため、一年A組の調整を任せた」


「は、はい!」


 竹崎重吾に声を掛けられたら、大抵の者は委縮するだろう。それが学園に赴任してきたばかりの新米教師なら尚更だ。そう、その新米教師とはつまり、以前に一度だけ一年A組の臨時教員を見事に務め上げた、田中健介の事である。


 この男、何もかも平均的かつ無難にこなせるため、大役を任せるにはまさにぴったり。適任。適材適所。そのため今回も竹崎は、地球の命運を担う役目に田中を大抜擢したのだ。


 そう、つまり田中は人類の救世主という役目を仰せつかったのだ


「くれぐれも、くれぐれも貴明の扱いは間違えない様に。いいな」


「はひい!」


 ガッシリと竹崎に両肩を抑えられる田中。

 竹崎に両肩を抑えられるという名誉にあずかれる者が何人いるだろうか。それだけ田中は期待されているという事なのだ。もし他の者が見ていたなら、彼の出世は確約されていると思っただろう。それほど"独覚"竹崎重吾から信頼されているという事は、異能者の世界では大きな意味を持つ。


 そうもう一度言おう。なんと言っても田中は、竹崎が全幅の信頼を置く男なのだ!


 ◆


 ◆


「え、えーっと、その、学園長は外部からの人員と調整しているので、一年A組の臨時教員として自分、田中健介がチーム花弁の壁と、チームゾンビーズの調整を担当します。よ、よろしくお願いします」


 そんな信頼を置かれている田中が一年A組の教壇に上がり、チーム花弁の壁とチームゾンビーズの調整を行う、いや、行おうとしたのだが、まず数が揃っていなかった。


「えーっと、北大路君はどうしました?」


 そこそこ記憶力に自信がある田中は、いない人物が北大路友治だという事に気が付く。


「あ、すいません。そういえば調査に出ていましたね」


 しかし、その北大路が昨夜謎の襲撃を受け、その調査をしている事を思い出し、この場にいないのは当然だと思い直した。


「いえ! 二年の翼先輩が責任を取ると仰って連れて行きました! 責任の取り方までは分かりませんけど、今晩出てこれないと思います!」


『ぶ!?』


 しかしそこで貴明が、大真面目に北大路がどうなっているかを補足したが、当然田中のみならずチームゾンビーズの面々まで噴き出してしまった。


「おい一体どういうことだ……?」

「嘘や……ワイは信じん……嘘や……」

「なん……ですって……」

「そんなことが起こる筈が……」


 特にチームゾンビーズの面々は現実を受け入れられず、催眠術に掛けられているのではと疑っている状態だ。


「えー、えーと、とにかく出られる状態ではない?」


「それは間違いないです! 彼は昨日の夜に切り札を使ったみたいで、戦闘が出来るコンディションじゃありません!」


「なぬ? あの小夜子に挑んだ時の状態だよね? 殆ど自爆的なドーピングの」


「一瞬で萎れてしまったときの?」


「はいそうです!」


「あれを使わないといけない相手だったのか……」


 田中の確認にはきはきと答える貴明だが、その内容はかつて北大路が小夜子を相手にした時の、非常に代償が重い切り札だと分かり、花弁の壁の面々は北大路を心配する。まあ確かに、ある意味心配する必要があったが。


「で、では北大路君は出動できないとして、チームとして動けますか?」


「問題ありません」

「嘘や……嘘や……」

「あいつの代わりに、その分二人から吸えば問題なし」

「拠点防衛ならそれほど……」


 北大路が抜けたため、チームとしての動きが出来ないのではないかと思った田中であったが、他のゾンビ達の意見はある意味非情であった。


 チームゾンビーズの専門は拠点防衛であり、それは狭間の超力壁と、東郷のバフによって支えられており、その上単に火力という意味では如月の魔法で十分で、部隊運用上、北大路が絶対に必要かと言われれば、実のところそれほどないのだ。


「で、ではそのまま招集は問題ないですね」


「はい」


 こうして北大路は、人生最大のピンチを迎えているかもしれないのに、全員から見捨てられてしまったのだ。


「えーっと、戦力が足りていないと判断される可能性が高い為、皆さんたちは今までと違い呼び出しではなく、最初から指揮所に待機して貰う事になっています。その際は自分も同行するかもしれません」


 田中は世界から見捨てられていた。

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