呼び出し

□竹崎重吾


 ようやく取材も終わったが肩が凝った。やはり慣れない事をするものじゃないな。ふむ、地下が空いているなら猿と戦うか?


 pipipipipi


「ぐむっ!?」


 ……着信……誰からだ……。


 なんだ異能研究所の源所長か。いや、よく考えると源所長からの電話は大事だったな。まあ比較対象が悪いというか……。


「もしもし竹崎です」


『源だ。単刀直入に言うが……』


 最初に要件を告げる源所長の気質は好ましいのだが、その源所長が単刀直入と言いながら言い淀んでいる。これは間違いなく、単純に片付かない厄介ごとだな。


『日本国際空港で、凄まじい霊的な力を宿した何かが見つかった。ここで勤続30年のベテランがリーダーとして回収に向かったが、自分の力量では回収も出来ないと悲鳴を上げている』


 やはり厄介事だ。異の剣に30年もいる使い手が、その何かを回収する事すら出来ないとは、見つかったモノは途方もない代物だろう。


「呪物ですか?」


『それも分からん。ただその者が言うには、明らかに紀元前モノに間違いなく、下手をすれば神話の時代のナニカらしい』


 厄介事も厄介事だ。紀元前の遺物なんてものは、ここ日本では平安時代の陰陽師、その中でも天才鬼才が処理してくれていたから、異の剣にもノウハウがあまり残っていないのだ。ましてや神話の時代となると……。


「それの回収に向かえと?」


『ああ。現地にいる者で無理なら、今ここにいる人材では回収出来ない。もし君でも無理なら空港は閉鎖だ』


「……分かりました」


 日本国際空港はこの国有数の空港だ。それが閉鎖となれば、経済的損失は計り知れないだろう。行くしかあるまい。


『こちらからヘリを出す』


 異能者が飛行機どころか、ヘリに乗っただけで煩い団体は煩いのだがな。


 ◆


 ◆


 ◆


「竹崎さんよかった。自分達ではとてもとても……」


 ヘリから空港に降り立つと、見覚えある異の剣の職員に出迎えられた。どうやら余程困っていたらしく、すぐに現場に案内された。


「実は偶々この近くにいた東郷さんに協力して貰えて、封印は出来つつあるんです」


「そういえば近くに出張していたな」


 浄力において極東にその人ありと謳われる、学園の単独者東郷だが、確かにこの近くに出張に来ていたな。


「【祓い給い】」


「これか……確かに途轍もない力を感じる……」


 空港の滑走路脇に出来ている隔離用のテントの中に入ると、そこには草むらの中に何気なく置かれている、元の色が分からないほど焦げた複数の羽と、それを前に封印に集中している東郷。それを補助している者達の姿があった。


 しかしこの羽の力ときたら……まるで台風が羽一つ一つに宿っているかの様だ。


「分かっている事は?」


「滑走路を点検していたこの空港の職員が見つけましたが、その時はまだこれほど力を発していないかったようです。我々が到着した時には徐々に力が上がり始め、そのすぐ後東郷さんが封印を施し始めたので、今のところ大事には至っていません。それ以外に分かっている事はありません」


 東郷達の集中を乱さない様テントを出て話す。源所長が彼女の事を知らなかったという事は、現場はかなり混乱していたようだな。一時はかなり危なかったのかもしれん。


「神話のモノなのはほぼ間違いないな」


「竹崎さんもそう思われますか」


 あれだけの格なのだ。どう考えても現代の人間が、単なる技術で作り出せるとは思えなかった。


「最初は何かの危険物かと思い、巷を騒がせている"天秤"が原因と思いましたが……」


「あれだけのモノを所持しているなら、航空機の爆破などする意味がないだろうな」


「はい」


 確かに自分もチラリと"天秤"の事を考えたが、あの羽を考えると単なる航空機の爆破よりもっと大きなことが出来る。


「ああああ!?」


 東郷の悲鳴!?


「何があった!」


「学園長!? ってそれどころじゃなかった!」


 呆然としているテントの中の者達。


 そして集中していたため私に気が付いていなかったのだろう。東郷が驚いていたが、問題なのは……


「は、羽が消えちゃいました!」


 そう。東郷達が封印していたはずの羽が何処にも無かったのだ。


 ◆


 ◆


 ◆


 空港から学園に帰ったのは昨日の夜遅くだったが、結局あの羽が見つかることはなかった。せめてあれが何か少しでも分かればよかったのだが、残っているのが数枚の写真だけでは……いや待てよ?


 我々が持っていない感覚を備えている者なら、あるいは写真からでも……


 ◆


「学園長、四葉貴明です!」


「入ってくれ」


 そう、貴明ならばひょっとすると分かるのではないかと思い学園長室に呼び出した。


「失礼します!」


「失礼しますわ」


 貴明と、呼んでいない小夜子が当然のように部屋に入って来る。


「朝早くにすまんな」


「いいえ大丈夫です!」


 感心な事に、貴明も含めて一年A組の生徒は朝早くから自主練に励んでいるため、すぐに来てもらうことが出来た。


「早速だがこの写真から何か読み取れることはないか?」


「げろげろ」


 思い付きだったが、貴明は写真に写った焦げた羽から何かを感じ取ったらしい。とんでもなく嫌な物を見たといった表情だが。


「なんだか分かるか?」


「うーん……分霊とか分体じゃなく、神が直接関与してるのは間違いないですね……しかも衰えた頃とかじゃなくて、最盛期で現役バリバリが何かしたんでしょう。まさに神の時代の遺物ですね」


「やはりか」


 貴明がそれはもう嫌そうに、写真を凝視して結論を下す。あれだけの力で、かつ、古ぼけたものなのだ。人の世ではなく神の世のモノという貴明の所見にも納得だ。


「どういった系統の神か分かるか?」


「多分善神……なんだと思います。多分。それと日本神話の系統ではないですね」


「ふーむ。善神なら一安心、といかないところが神の面倒さだな」


「本当ですよ」


 善神と言っても人を間引くのが神だ。特に海外はその傾向が強い。そのため決して楽観視する訳にはいかないが、日本由来ではないのが更に問題だ。


「しかし、日本神話由来ではない、というより海外のモノという事は……」


「ですねえ」


 この国に持ち込んで来た者がいるという事か……。

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