規制法

「そろそろ休憩するか?」


「ええそうね」


 空を飛び回る羽との訓練も一息つき、休憩を提案する藤宮君とそれに同意する橘お姉様。普段ならそれは佐伯お姉様が率先して提案するのだが、今佐伯お姉様が何をしているかと言うと……。


「休憩しましょうか佐伯お姉様」


「はああああああい。ああそこそこ。すっごい気持ちいいよ貴明マネ」


 俺に肩を揉まれていた!


「やっぱり凝ってますね」


 佐伯お姉様を暗黒界から連れ戻すために邪神流柔術活法を使ったが、佐伯お姉様の体がガチガチに固まっている事に気が付き、こうやってマッサージすることを提案したのだ!


 そして我が邪神流マッサージ術は、そこらのプロマッサージ師に匹敵するほどの腕前であり、佐伯お姉様は気持ちよさそうにしてくれている。


「いやあ、さっきなんでか全身が固まっちゃっててね。いやあ何でだろう。ふひ、ふひひ」


「とりゃ!」


「どわりゃ!?」


 危ない危ない。再び佐伯お姉様が、精神の暗黒界に堕ちそうだったので、邪神流柔術活法によって正気に返らせる。


「ぷふ。これが悪堕ちなのね。ぷふふふ」


 それをお姉様が、いつもの素晴らしいニタニタ笑いで見ていた。



 ◆



「はいフライドポテトの山盛りをどうぞ!」


 食堂で俺が手に持っているのは、山盛りのキャ、じゃなかった。山盛りのフライドポテト。山盛りのフライドポテト。そして山盛りのフライドポテトだ。


「おっと来た来た。ボク、カロリー消費したから補充しないとね」


 健康? なにそれ? なフライドポテトだが、チームで談話するときには欠かせない品だ。仲のいい友人達と炭酸飲料、フライドポテトを囲んで食べる。これぞまさに青春の味だろう。異論は認めない。でもなんで佐伯お姉様はカロリーを消費しちゃったんだろうなあ。不思議だなあ。何かあったのかなあ。


「お好みでケチャップ、マスタード、マヨネーズをどうぞ!」


「じゃあボクはケチャップで」


「私はマスタード」


「俺はマヨネーズを」


「ふふ。私は一通り」


「でも僕のおすすめは素の塩かな!」


 ピシリ


 ああああああ!? やっぱり皆!?


 なーんちゃって。


「ふ、まあ一通り食べてみようかね。ケチャップが一番だけど」


「私も。マスタードが一番だけど」


「俺もだ。まあマヨネーズが一番だが」


 チーム花弁の壁メンバーの、食に対するこだわりが違うのは今に始まった事ではない。だがそれすら乗り越えて来たのが俺達だ。そう、とりあえず食べてみると美味しいのだ。しかし藤宮君……馬鹿の木村君と同じでやはりマヨラーなのか。


『速報です。ドイツの空港に駐機していた、多数の航空機が爆破された事件について、"天秤"と名乗る組織が犯行声明を出した模様です』


「物騒だねえ」


「ですね佐伯お姉様」


 相変わらず学園のテレビはどこもかしこもニュース番組で、それはこの食堂も例外ではない。


「前はイタリアだったかしら?」


「さらにその前はギリシャだったな」


 そしてそのニュースは、最近世間を騒がせている謎のテロ組織、その名も"天秤"だ。


『これで"天秤"が爆破した航空機は16機になります』


「異能過激派かしら?」


「そうかも知れないわね」


 橘お姉様に、お姉様が多分そうでしょうねといった感じで賛同する。


 実は航空業界と異能者の団体は仲がかなり悪い。それが例え、極普通の異能者の団体だったとしてもだ。


 そしてこれは永遠に解決することがないだろう。


「ま、飛行機に乗れないのはボクも思うところはあるけど、それでテロに走るかねえ」


「だな」


 そう、佐伯お姉様の言う通り、異能者は通常の手続きでは飛行機に乗れないのだ。そのため一昔前の過激派は、よくこうやって飛行機を爆破していたらしい。多分今回の事件もその焼き回しの様なもんだろう。


 だがこれはある意味仕方ない事でもある。ただでさえ銃やナイフなんてものはご法度なのに、異能者はそれよりも遥かに危険なのだから。


 勿論異能者が飛行機に乗れない事を定めた法案が出来る前後は、異能者の人権を侵害しているという論調だった。が、アメリカやロシアなどが何度テストを重ねても、平均的な強さの異能者が本気でハイジャックを企んだら、どう対処を頑張っても墜落かハイジャックの成功という結果しか出なかったのだ。


 それはそうだろう。強力な異能者を保安員として飛行機に乗せていても、鎮圧する際に爆発なんかが普通に起こるのが異能者達の戦いだ。飛行機はそんな奴らの戦場としてあまりにも脆すぎる。


 しかもタイミングの悪い事に、その時期に実際異能者がハイジャックを起こして成功させてしまったため、鉄道や船舶に比べて圧倒的に被害が出る航空機に限り、幾つかの非常に面倒な手続きをしないと異能者は乗れないのだ。しかもその際、傷害の前科なんかがあったら一発で弾かれてしまう。


 例外は国営の異能者養成校の団体だったアメリカ校やロシア校、身分がしっかりしているアーサーといった者だけだ。


 そのため空港では異能を感知する装置が設置されており、ほぼ異能者お断りな場所と化している。


 だがまあ、異能者が差別だと感じるのも仕方ないが、これについては必要だろう。少なくとも俺はそう思う。学園長の言う通り、異能者は戦車と変わらないのだ。勿論俺を含めて。

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