図太い学園長とまじかるほにゃらら

"異能学園各学園長 竹崎重吾"


「本日はどうぞよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします」


 撮影班にそう挨拶したものの、私のドキュメンタリー番組を撮ると言われても困るのだが……そういえば、若い頃も似たような話があったが、その時は単純に面倒で断ったな。


 しかし今回は、日本政府と異能研究所が揃って私に話をして来たから断れなかった。カバラと逆カバラ、世鬼の訓練符、そして奇跡の日とお盆。世界が混乱しているため、何かしらのプロバガンダが必要なのだろうが、その看板に選ばれた方は堪ったものではない。なにせそれこそ政府と異の剣肝入りの異能学園なのだ。それなりに忙しい。


「それでは私の現在の業務を撮って頂いてよろしいですか?」


「そうですね。はい是非」


 よしうまく誘導出来た。インタビューの様な事もするが、人物のドキュメンタリーを撮る以上、その人物が現在何をやっているかも当然撮影する。それなら利用して学園のアピールも兼ねたらいい。海外にも発信すると聞いたから、人材交流を活発にするための宣伝になるだろう。


「夏休み中ですが生徒達は励んでいますので、それの監督や助言を行います」


 政府と剣に思惑がある様に、私も元は取らせてもらおう。


 ◆


 ◆


「時間がある時は、訓練場にいる生徒の指導に時間を当てています」


 撮影クルーを連れて屋外訓練場に赴く。


「【四気合体破邪咆哮】!」


「【大鎌鼬の術】!」


「【永遠伽羅炎】!」


 む、随分と学園の上位陣達が集まっている。二年と三年の主席や、他のチームも精鋭達だ。これは学園最上位の練度としてアピール出来るな。そうすれば他校としては、飛び抜けてしまって持て余し気な生徒が留学してくるかもしれん。


 そしてこの場にいる者達はある意味慣れているというか、撮影クルーが来ても大して意識を向けていない……いや、非常に意識を向けている生徒がいた。というか凝視している。それは二年や三年ではなく一年の主席、もっと言えば私の担当する一年A組の主席、四葉貴明だ。


「今は夏休み中ですが、実家で経験を積めない生徒達が、このように自主的に訓練しています。そして大小様々で、かつ、森林や海岸などの特殊な地形も作られており、ありとあらゆる環境下で戦う事が来出ます」


 貴明が我々を見ている。いや凝視している。しまったな、取材スタッフと正門で話していたからそれほど興味ないと思っていたが、あれはかなり映りたそうにしている。今服の皴を気にしたな。だが私のドキュメンタリーとなると、異能研究所は必ずチェックするだろう。昔のことだがそれはつまり、ひょっとすると貴明の父親である唯一名も無き神の一柱を知っている職員が見るかもしれないのだ。そしてこの親子は似ているため、親子関係に気が付いたら異能研究所が機能不全を起こすだろう。もっと言えば源所長の心臓が止まりかねない。


「ん?」

「おっと」

「しー」

「分かってるわよ」

「テレビ?」


 ん? クラスの五羽烏も屋外訓練場にやって来た。彼らも既に自分で考えて戦うことが出来るため、やる前から助言が必要なタイプではないな。しかしカメラがあるのはある意味丁度いい。彼らの戦いぶりは、妙な固定観念を持つものに見せねばならなかった。


 しかし、色々な意味で不安を感じる五人だが……。


『ぬうおおおおおおおお!』


「ぎゃあああああ!」


 やっぱりな……普鬼ではなく大鬼の式符か。いや、力押し出ないタイプなら十分に戦えるのだが、よりにもよって間違えて持ってくるとは……頭痛が……。


 む、いかん。貴明がそわそわし始めている。これは自分から撮影を誘致しかねないぞ。


 また目で強く私に訴えかけている。


「ここにいる生徒達は、アドバイスが必要でない優秀な者達で、考えて対抗策を練る事が出来ます。ですので屋内訓練場で、行き詰っている生徒がいないか確認しましょう」


 そうか貴明もそう思うか。確かに貴明が撮影されるのは何かとマズいな。私もそう思う。具体的に言うと異の剣がひっくり返るだろう。そうだな私もそう思う。確かにそれを避けるため、我々は室内訓練場に行った方がいいだろう。貴明もそう思っているだろう。うんうん。


そういう訳で我々は屋内訓練場に向かう事にした。


 ん? 急に肩がすっきりしたような気がする。


 ◆


 ◆


 "四葉貴明"


 信じられねえあのゴリラ。普通俺らの所に来るだろ。いや、確かにチーム花弁の壁はゴリラのアドバイスなんて必要じゃないけど、あの野郎あれだけ頷いてたじゃねえか。一体何を納得してたんだよ。


 しかし親父のれいあ、じゃなかった、呪力が消えてから元に戻らん。間違いなく猫ちゃんズがリーグ優勝できなかったんだろう。この時期になるといっつもだ。


「あ、あの羽に対する対抗策を思いついたわ」


 お姉様がポンと手を叩いた。流石はお姉様だ。我がチームは、まさに今対抗策が思いついたのだ。


「飛び回っている相手に苦労しているなら、飛鳥が飛行魔法を使って空中で戦えばいいのよ。鳥に飛ぶで名前的にもぴったりじゃない。魔法少女マジカル飛鳥ね」


「ぶうううううううう!?」


 はわわわわわわわ!? お、お姉様マズいですよ!


「よーしその喧嘩を買ったよ小夜子」


 ああ!? やっぱりというか当然というか、佐伯お姉様の顔に青筋が!?


「あり……かしら?」


「ない事も……ないのか?」


「ない!」


 うーんと考え込んでいる橘お姉様と藤宮君。


「だよね貴明マネ!」


「はひ! で、でも敵の頭を抑えるという意味ではありだと思います!」


「むむむ!?」


 凄い勢いで佐伯お姉様に詰め寄られたが、空中で飛び回る敵の厄介さはイタチと羽で実体験済みだ。それを思ってか佐伯お姉様も唸っている。


「……一度試してみよう」


 佐伯お姉様が苦虫を嚙み潰したような表情でそう言われた。


 い、一体どうなってしまうんだ……

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