青春の一幕 お約束

 ん? 親父のれ、じゃなかった。呪力が消えた? まさか猫ちゃんズが……。


 まあいいか、毎年のことだし。それよりも問題なのは、ゴリラが連れて来た撮影クルーだ。


「今は夏休み中ですが、実家で経験を積めない生徒達が、このように自主的に訓練しています。そして大小様々で、かつ、森林や海岸などの特殊な地形も作られており、ありとあらゆる環境下で戦う事が来出ます」


「あれじゃあ学園長ドキュメンタリーというより、学園のアピールですよね」


「ふふ、わざとかしら?」


「学園長、頭まで筋肉なんでちょっと分からないです」


「ふふふふ。確かにね」


 バスガイドの様に撮影クルーを案内しているゴリラだが、その人達あんたのドキュメンタリーを撮りに来たの分かってる? いや、それを突っ込んでも、全ての施設の管理をするのもまた、学園長竹崎重吾の仕事なのだと平然と返してきそうだ。


 あ、こっちに来た。


 どどどどどうしよう。撮影クルーが校門にいた時は特に何とも思わなかったけど、カメラが回ってるって思うと途端に緊張してきた。というか俺映って大丈夫か? 胃に剣辺りが、あ、邪神の息子だ! ってならないよな? いや大丈夫か。俺と親父を結びつけるのはほぼほぼ不可能だ。なにせ俺は親父とは比べ物にならないイケメンフェイスだからな。うんうん。それに学園長が担任の一年A組の主席なんだ。これから何度もテレビに取材されたり映ったりする事を考えると、これは避けては通れぬ道なのだ。きっとそうに違いない。


 服の乱れはなし。さあ、いつでも撮影しに来ていいですよ!


「あ、五馬鹿が来たわね」


「え?」


 見るとお姉様の言う通り、五馬鹿が野外訓練場にやって来た。だがそこは異能学園生徒、学園長と取材班を見ると空気を呼んで目礼するだけで、バカ騒ぎするようなそこらの馬鹿とは違うのだ。なにせ真の馬鹿は礼儀もしっかりしている。


「これは俺のマッスルを全国に披露するチャンスか?」

「お茶の間に流せなくなるんだよなあ」

「ひょっとしてここでかっこよく決めたら、全国の女の子達からラブレターが?」

「玉の輿のチャンス到来! 遊んで暮らせるわ!」

「あ、頭が……」


 カメラ止めろ!


 そこらの馬鹿だったわ。うん。何がマッスルの披露だのラブレターだの玉の輿だ! 狭間君の言う通りそんなのお茶の間に映せるわけねえだろ!


「全く……」


 ほら見ろ。流石のゴリラでさえ頭痛を堪えてるぞ。って駄目ですよ皆さん! 注目するなら馬鹿達じゃなくて我がチーム花弁の壁にしてください! 最優秀な生徒ばっかりですよ!


「それでは今日も筋肉に感謝を込めて訓練しよう」

「はい?」

「ちょっと何言ってるか分かりませんね」

「石油王に見初められる可能性が微粒子レベルである?」

「無いから」


 やっぱりこんな奴ら撮っても駄目ですって。いや、実はゾンビ達が凄いって事を世間が知ることになるのでは? 今更実家が帰って来てくれと言ってももう遅い、俺達の凄さはテレビで紹介して貰った! が始まっちゃうのか?


「じゃあ起動するぞ」


 ああ、本当に馬鹿達の映像を収めるつもりなんですか!? 今よく分からん羽と死闘を繰り広げてる我がチーム花弁の壁の方が絶対映りがいいですって!


 あ、式符が起動ううううう!?


『ぬうううううおおおおおおおおおおおおお!』


 血の底から響いてくる様な雄叫びとともに現れたのは……


「は?」

「ちょっと待て」

「おかしくね?」

「これ普鬼?」

「いやこれ……」


「「「「「大鬼じゃん!」」」」」


『おおおおおおおおおおおおおお!』


 どう見たって普鬼ってレベルじゃない10メートルの大きな赤鬼、つまり普鬼よりさらに一個上の危険度である大鬼だ。つまり大体推薦組の三年生が相手にする怪物だが、そいつが手に持った金棒を振り下ろした……。


「ぐええええ間違えて持って来たああああああ!」

「ぬああああ!?」

「なんでやああ!?」

「ぎゃああああ!?」

「きゃああああ!?」


 当然全員仲良くぶっ飛ばされる馬鹿達。


 馬鹿共ってほんと馬鹿。そんでもって馬鹿モード全開だったせいで、何の備えも出来ずにぶっ飛ばされたし。普通ここはあれじゃね? 自分達を追放した奴らを見返すために、テレビの前で大鬼に勝利するとこなんじゃね? お前ら頑張ったら多分出来るじゃん。まあだからこそ馬鹿なんだけど。


「ぷぷぷ。ぷふ。ぷふふふふふ。ぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ」


 それを見たお姉様はお腹を押さえてうずくまっている。なんて可愛らしいんだあいててててっ。でへへ。


「いやあ、ゾンビーズでも大鬼は無理かあ。でも単純な力押し相手ならいけそうな気はするんだけどね」


「完全にポカンとしてたわね」


「ちゃんとやれば勝負になっただろうに、四馬鹿め」


 一旦休憩に入った皆も呆れている。藤宮君の言う通り、単純なパワータイプが相手なら、真っ向から勝負出来るのにこれだ。


「友治この野郎! あれどう考えても大鬼じゃねえか!」

「せやせや!」

「すっごい汚い叫び声をあげちゃったじゃない!」

「全然違う保管場所なのになんで間違うの!?」


 口々に文句を言う馬鹿達。どうやらマッスルが間違えて持って来たらしいが、東郷さんの言う通り保管場所が違うから間違えようが無いんだけど。


「あ、あまりにも見事な筋肉の気配につられて無意識に……」


 まさにマッスル馬鹿。どうやら本人も覚えていないほど無意識に、あの大鬼の見事な筋肉に引き寄せられてしまったらしい。


 ってそんな事はどうでもいい! 撮影クルーの皆さん、こっちは完璧なチームですよ! ほら学園長、連れて来てください! 邪神アイ発動! 完璧なアイコンタクトを成立させる!


 あ、ゴリラが頷いた! これで我がチームが全国デビューだ!


「ここにいる生徒達は、アドバイスが必要でない優秀な者達で、考えて対抗策を練る事が出来ます。ですので屋内訓練場で、行き詰っている生徒がいないか確認しましょう」


  ちょっと待てや! どうしてここから離れようとしてるんだ!? 今さっきあんた頷いたじゃん! おい本当に待て!お約束を破ろうとするんじゃない! 親父との飲み会なしにするぞゴリラああああああああ!

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