夫婦の会話

「あら、そのルールで北大路と戦ったのね。それは無理って言うものよ」


「ですよねお姉様」


 お姉様が作ってくれた晩御飯を食べながら、今日起こった事について話す。話題の一つはマッスルと中性先輩の一件だ。


「単純だけど、そのルールじゃ私も面倒だからやらないわ」


「確かに」


 マッスルが提案したルールはいたってシンプルなのだが、そのルールで戦おうとする奴は我がクラスではいないだろう。マッスルを下に見ている一部の者達でさえだ。


「でも少し意外ね。前にちらっと見たけど、その訳ありちょっと肉の付き方が違うわよね?」


「多分無性なんだと思います」


「そうよね」


 天使というものは基本的に無性だ。例外があるとしたら、純潔である聖母マリアに受胎告知を行うには、男性とはっきりしては色々都合が悪かったため、女性となっているガブリエルとかだ。


 そのため中性先輩と表現するよりかは、無性先輩と言うべきなのだが……。


「現代の概念に引きずられてる天使ですから、多分やろうと思えば性別を持てるんですよね」


「変わってる上にめんどくさがりやね」


 多分あの先輩はマッスルにちょっかい掛けた癖に、自分の事になると面倒臭がるタイプだ。現代の天使は無性であるという概念は薄れ、男性的、女性的や、翼の生えた子供など様々に描かれ表現されている。そのためやろうと思えば性別を持てるだろうに、それをしていないのは単純にめんどくさいからだろう。


「それで契約悪魔の方は?」


「さあ?」


「ふふ。あなたの心底分からないって首を捻ってる顔、とっても可愛らしいわよ」


「お、お姉様ああああ!」


 心臓がバクバクしているが、契約悪魔がどうしているかは本当に分からない。マッスルを置いて地下訓練場から去った後も、そこに保管されている猿君から連絡は上がっていたが、あれから一度も姿を現さなかったようだ。マッスルと中性先輩に分からない様、霊的なイナゴ状態になって脅し過ぎたな。多分イメージとして、自分が頭からイナゴに食われたような幻覚を見ただろう。


 まあマッスルをボコるためにまた現れたら、今度は阿修羅猿君にメンチ切られることになるからそれは正解だろう。あの程度では1000体集まっても一緒だ。雑多な塵を払うことに関して、猿君と教官モードを捨てた戦闘態勢の蜘蛛君は他を寄せ付けない。


「ふふ、女になるかしらね」


「さあてどうでしょうねえ。何といってもマッスルですから」


「ぷふ」


 この一件で中性先輩の性別が女性になるかと言ったお姉様だが、俺の説得力ありまくりな表現に、思わずといった様子で笑っている。可愛いあいてっ。でへへ。


「でも分からないわよ。些細な事で人を好きになったりするものだから。目が合った。と、か」


「ほあああああああああ!」


 流し目で俺を見るお姉様。僕は、ぼくはあああああああ!


「そういえばテレビの取材が来るんだったかしら?」


「なんか学園の噂話ではそうらしいですね。学園長のドキュメンタリーを作るとかなんとか」


 聞いた話だが、ゴリラのドキュメンタリー番組撮るため、学園に取材が訪れるらしい。胃に剣も日本のアピールになるから勧めてたみたいだが、本人は嫌がってたようだ。まあ、夏休みが終わったら学園の取材もするから、そうすれば人材交流にも弾みが付くと提案されて手のひら返したらしい。ちょろすぎる。学園のための人材交流とか言われたらすぐこれだ。バナナをぶら下げられたのかな?


「というか何撮るんでしょうね?」


「さあ? 夏休みじゃなかったら授業風景でしょうけどね」


「スーツ準備しときます!」


「気が早いわね」


 確かにゴリラの取材が終わって学園の取材となると、ゴリラが担任の我が一年A組をカメラに映す可能性が高い。んんん? うち大分イロモノだけど大丈夫か? 主に馬鹿達のせいで。うんうん。


「学園長のドキュメンタリーの方は……何かしら。猿ちゃんとの戦い?」


「お茶の間には流せませんね」


「ふふ、そうね」


 ゴリラと猿君の戦いなんてお茶の間に流したら、全国の皆さんがお茶を噴き出すだろう。あの二人の決闘だなんて、結界が無ければそこらの紛争なんて目じゃないくらいの破壊を巻き起こすに決まってる。反異能者の皆さんは、やっぱり異能者は危ないと思うだろうな。


「まあでも、現実を知るにはいいんじゃない?」


「確かに」


 猿君は特鬼の中の特鬼だが、歴史上そのレベルが現われなかった訳ではない。そう考えると世間が備えるために必要な事なのかもしれない。なんとか人類で対処不可能というレベルではなく、大国ならその国の精鋭全部をぶつけたら何とかなるからパニックも……起きるかな……いやでも、表向き猿君は訓練符だし大丈夫……かな?


「それにしても学園長も忙しいわね」


「ベルゼブブから働きっぱなしですからねえ」


 あのゴリラも大変だな。ベルゼブブを倒してから休みなんて一日もないだろう。そんなゴリラの予定を圧迫した原因の一つが馬鹿の中の馬鹿と考えると、チャラ男と紅一点は凄い大物なのではなかろうか。


 しっかし撮影かあ。こりゃゴリラが担当しているクラスの主席として、制服をクリーニングに出す必要があるな!














 あ、それとやっぱり大変なゴリラに、親父から労わってもらうとするか! 俺ってなんて気が利く子なんでしょ。

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