青春の一幕 買い物

「ふうむ。これだけ大人数での買い物は初めてだね」


「まあ……そうだな……」


「ええそうね……」


「僕もです佐伯お姉様」


「ふふ」


 打ち上げも終わり夜となったが、チームに必要な備品を求めて、異能者御用達の巨大スーパーに皆でいく事となった。それはいい。だが藤宮君と橘お姉様の歯切れが悪い。それもそのはず……。


「また会うとは奇遇だな」

「おっす」

「ちゃっす」

「今日は化粧品が安いのよね」

「チラシにマークしてる……」


 そう、学園で別れたはずのゾンビ共と、店の前でばったり会ってしまったのだ。そのため総勢10名で店の中に入る事となったのだが、当然ちょっと目を引いてしまい、店から出て行く人がぎょっとしたのを感じ取ってしまった。


「まずはスポーツ飲料の粉か」


「思ったより色々あるわね」


 まずはスポーツドリンクの粉の補充だ。ペットボトルのものより大量に用意出来て、味も調整できるから必須だ。だがある意味で、運動専門学校よりも体を動かしている異能学園が近くにあるため、その種類も半端な数じゃなく、中にはアメリカのものと思わしき物まであった。


「ふうむ。王道なのを基本にして、たまに別のを試してみるかい?」


「それでいい。たまには違う味も欲しくなる」


「同じく」


「じゃあとりあえずいつものと……ちょっと酸っぱいのを買っとくね!」


 決まった粉をカート乗せた買い物かごに入れる。


「やはり筋肉の本場アメリカのものをだな」

「ハチミツレモネードに決まってるだろ」

「ここはマヨネーズや」


 馬鹿の男三人は仲間割れを起こしている。ふ、スポーツ飲料の粉で揉めるようでは、所詮は五羽烏だけに烏合の衆と言わざるを得ないな。つうかチャラ男のやつ、今マヨネーズって言った? 馬鹿なの? マヨラーなの?


 そして女性二人は……女性エリアか。尤も東郷さんは紅一点に引きずられていったようだ。


「ここは……凄い光景ね」


 次のエリアに向かうと橘お姉様が圧倒されている。そこには先程の光景を軽く超える、箱、詰め物の列、列、列があった。そう、プロテインと栄養剤の、である。それはもうずらりと奥まで伸びている。なんだか目眩がして来た。


「む、興味は多少あったがこれは凄いな」


「あったんだね藤宮君!?」


「筋骨隆々を目標とまでは言わんがな」


 意外だ。藤宮君は細マッチョを目指してるらしい。と言って普段の運動量が運動量だから、来年にはムッキムッキのバッキバキだよ。


「へえ女性用もあるのね。どう飛鳥?」


「小夜子、それどう見ても男性用だよね? 喧嘩なら買うよ? 買っちゃうよ?」


「あらやだ間違えちゃったわ」


 女性用プロテインがあるにもかかわらず、お姉様が佐伯お姉様に見せたのは、アメリカマッチョな男のボディビルダーが写っているやつだ。ひょえ、佐伯お姉様の顔に青筋が……!?


「北大路君は?」


「橘お姉様……彼はですね……」


 橘お姉様が、この場にいるのが当然な筈のマッスルが、未だにスポーツドリンクで揉めてるのを不思議がっている……。


「聞いた話では部屋に一年先のまで備蓄してあるそうです……」


「そう……」


 呆れているのか、寧ろ流石だと感心しているのか、俺では判断付かない表情をしている橘お姉様。いやほんと、何考えて一年分の備蓄をしてやがるんだ?無くなるちょっと前でいいじゃん。災害に備えてるのか? 保存水でプロテインをシェイクするのか?


「えーっと消毒液と包帯もいるな」


 メモ帳を見て足りない物を確認する。訓練で使用する訓練符とは言え、少々のダメージは受けるし、時には出血だってする。そうしないと緊張感のないゲーム感覚になってしまうからだ。そのため救急セットくらいの準備はしておく必要がある。まあ橘お姉様の浄力で回復するし、ちゃんと保健室もあるから予備の予備だ。


「これくらいかな?」


「そうですね佐伯お姉様!」


 その後も色々買ってメモを最終チェック。うむ、買い忘れなし。


 ではレジへ向かいまーす。


「このポイントおかしいからちゃんと計算しろ!はやく!店長呼べ!」


「は、はい!」


 レジに向かうと、ヒステリックに叫んでるおっさんがいた。


 出たよ。ポイント界ポイント門ポイント網ポイント目ポイント科ポイント属ポイントヒトだ。ゲシュタルト崩壊起こしそう。ともかく、1ポイントも妥協しない、まさにポイントに命を懸けてる種族だ。そりゃ金と同じ扱いだったりだから分かるけど、大声で叫んで場の雰囲気を悪くするのはいただけない。他の人に迷惑ダメ。これ絶対。


 という訳で落ち着く呪いを発動! 相手は落ち着く!


「あ、すまん。ゆっくり計算してくれ」


 冷や水でも掛けられたかのように鎮静化したおっさん。そうそう。子供の癇癪じゃないんだ。おかしい事の指摘でも最初は大人らしくするのだ。それでも変なら、まあその時はその時だ。


「お待ちのお客様お待たせしました!」


「はーい! お願いします!」


 空いたレジにカートを移動する。


「お会計が……」


「これでお願いします!」


 活動費の入った封筒からお金を取り出す。ポイントカードは個人のだから今回は無しだ。これはあくまで活動費でのお金なのだから。


 そして責任を感じるが、活動費は俺に一任されている。これは間違いなく信頼の証! この四葉貴明、どんな手段を使おうとチーム花弁の壁の活動費は死守して見せる! もし盗み出すような奴がいれば、そいつは全身がドロドロになるだろう。


「藤宮君、整理整頓が出来てないって小学校の通知簿に書かれてなかったかい?」


「な、なぜそれを!?」


 買い物かごを先に回収した藤宮君がレジ袋に詰め込んでるが、その藤宮君は佐伯お姉様から突っ込まれていた。なるほど、遠目にだが確かに余分なスペースが多い。ふ、主婦道に関してはまだまだな様だね。


「それじゃあ飛ばすわね」


「お願いしますお姉様!」


 そしてその詰め込んだレジ袋は、お姉様の転移術で一足先に我が家にワープだ。


「それじゃあ諸君、また明日」


「おやすみなさい」


「またな」


「お休み皆!」


「ふふ」


 スーパーの出口で皆と別れる。佐伯お姉様と橘お姉様は、同じタワーマンションに住んでいるから帰路は一緒だが……やっぱりあのお二人……。







 そういや馬鹿共は?


「これください……」

「友治の筋肉がしぼんで見えるんやけど。え、ワイも本当に買わされるん?」

「超恥ずかしい」

「いやあ安く済んだわ!」

「怖いモノなしね……」


 紅一点に、お一人様一点限りの女性用商品を買わされていた。それにしても羞恥心あったんだな。メンタル100だからないと思ってた。

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