訓練

「さて、それじゃあやろうかね」


「ええ」


「分かった」


「皆頑張れー!」


「ふふ」


お昼の時間も過ぎ、訓練場で他のチームもぼちぼち活動を再開しているが、勿論我がチーム花弁の壁も例外ではない。一旦職員室に返却していた普鬼の訓練札を、もう一度借りてこれで練習をするのだ。


しかし、名家出身が実家に帰ってるから助かった。じゃないと数はそれなりある普鬼の式符でも奪い合いになって、俺様の盤外戦術が火を噴くところだった。


「よし。午後も頑張ろう」

「うん!」

「勿論!」

「さあやるわよ!」


こ、この声!? 貴様爽やかハーレム野郎先輩いいい! やっぱりチームメイトも幼馴染な女の子と一緒だとおおお!? 俺は腐れ縁の野郎だけなのに許せん!


ここで引導を渡してくれる! くらえ! お前らのイチャイチャを見せられている、二年生徒の嫉妬と恨みを込めて! 今必殺のおおおおお!


「じゃあ貴明マネ、式符の起動よろしく」


「はい佐伯お姉様!」


おっと、あんなナチュラルハーレム野郎の事はどうでもいい。今の俺は出来るマネージャーなのだ。というわけで


「起動します!」


概要は知ってるけど、お昼を作ってた俺はまだこの式神を直接見ていなかった。


『ガアアアア!』


現れたのは全長二メートルほどのイタチ。鎌鼬もそうなのだが、どうもイタチは妖怪と結び付けられやすいようで、こいつもイタチの様な姿だ。だがこの程度なら少鬼や小鬼にいくらでもいるだろう。では何が違うか。


『ガア!』


「【四力結界】」


雷を纏っているのだ。そのイタチ、雷獣から放たれた雷が藤宮君の四力結界と激突する。


未だ空が人の立ち入れない神聖な場所だった時代、雷獣は雷と共に天から降って来たと考えられていた。そのため雷を操れる式符、雷獣として作られたのだろうが、この雷というのは当然のことながら厄介極まりないのだ。


雷は光ではない為光速ではないが、それでも秒速うん百km以上。そんなものを見てから回避余裕でしたなんて言えたら、そいつは異能者どころか生物じゃないだろう。


そして直撃すれば強者でも気合を入れなければ耐えられず、いや、耐えれる時点でやっぱり異能者って生物じじゃないんじゃ……うん? 耐えるだけなら少しいるか? クマムシとかいけるか? ま、まあいい。耐えたとしても神経が電気にやられて、まともな動きを出来ずに隙だらけになる。


「【四力連射砲】ちっ」


しかもこいつ早い。連射力と回転率に定評のある、藤宮君の四力連射砲をスイスイと避けて、訓練場全体を駆け回っている。


「【せき乱雲】」


おっと、橘お姉様の範囲攻撃、雪乱雲だ。この雪の浄力を含んだ白い雲の様な物が、訓練場を覆うように広がっていく。これなら多少足が速かろうがっ!?


『ガ!』


と、飛んだ!? いや跳んだ!


何もない空中なのに、雷獣は放電しながらまるで足場があるかのように跳ね回り、地面を覆った雲から逃れ、そして空中から雷を連続して結界に叩きこんでいる!


こ、こいつ強いぞ!?


「あら、強さは大鬼というには足りないけど、少しだけ出来がいいわね。陰陽寮がまだあった頃の新人の作かしら?」


お姉様の基準で、少しだけでも出来がいいとなると、それは現代の者が作ったなら力作で、もしくは陰陽術最盛期でもきちんとした新人が作ったレベルだ。つまり大鬼の下位とは言わないまでも、普鬼でもかなりの強さだ。


いや、普鬼自体強いんだったわ。異能者なしに倒そうとするなら、戦車と戦闘機が複数出張って、ちょっとした戦争になるレベルなんだからな。況やこんな雷だなんてぶっ放す奴なんて、もう小銃持ってる程度の歩兵じゃ無理だ。


「式神符はそれほど古い感じじゃなかったんで、今の人が頑張った感じですかね」


「白蜘蛛ちゃんと犬ちゃんみたいな感じじゃないから別の人間ね。最近の式符制作者もそこそこ頑張ってるじゃない」


俺にはさっぱり分からないが、どうやらニュー白蜘蛛君と犬君を作った者とはまた別の製作者の作らしい。


なおこの二人、二匹? は強さはそれほど大したことないが、お姉様曰く頭の出来が単なる式符とは雲泥の差で、製作者の頑張りを感じるらしい。お姉様にそこまで言わせるとは、変わった式符を作るだけじゃないんだな。犬君の豆柴フェイスとか……ゴキブリとかゴキブリとかゴキブリとか。


そう、まだ見ぬ製作者はゴキブリの製作もしているのだ。まあ奴も頭の出来がいいと言えばいいんだが……とにかくどんな奴か興味あるが、確認は佐伯お姉様と橘お姉様のいない場所でだ。さもなくばそいつは死んでしまうだろう。


「じゃあボクがやろう! 【インフェルノ】!」


そのゴキブリ野郎を纏めて蒸発させた、佐伯お姉様の範囲攻撃インフェルノだ! これなら空中で駆け回ってるイタチも!?


「んげげっ!?」


「見切られてるぞ!」


だがその全方位に広がった炎の壁の中で、最も弱く薄い部分を見つけ出したイタチは、身を捻じるようにその炎に突っ込み、殆どダメージを受けることなく突破してしまった。


「飛鳥ったら、やっぱり時折おっさん臭くなるわよね」


「い、いやあ……」


それに対する佐伯お姉様の反応をお姉様がコメントするが、僕は何も見てませんし聞こえませんでした。はい。


『ぎぎぎ!』


だが有効打がないのはイタチも同じで、歯軋りをしながら憎々し気に藤宮君の四力結界を睨んでいる。


「丁度いい感じじゃない。簡単に倒せたら訓練の意味ないもの」


「でも僕は皆がすぐ倒せるよう応援してます!」


「ふふ」


お姉様の言う通りかなりの強敵だが、それでもチーム花弁の壁に不可能はない。という訳で足りない分はマネージャーである俺が頑張るのだ!


取り急ぎまずは確認することが……




スポーツドリンクの温度よし! よく冷えてる!

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