真の訳あり

「ふーむ。ツナマヨもいけないことはないね」


「おかか。悪くないわ……」


「梅干しすっぱ!?」


 またしても崩壊の危機に直面したチーム花弁の壁であったが、唐揚げの時と同じく全ての具を分かち合う事で解決した。藤宮君は梅干を食べて、顔の皴が梅干しみたいになってるけど。


「ところで昆布と鮭はどうかな!」


「貴明マネの作り方がいいから美味しいけど、具としては普通だね」


「そうね。美味しいけど具としては普通」


「うまいが具としては普通だ」


「きええええええええ!」


 唐揚げの時といいまたしても! やっぱり皆は異教徒異端者だったんだ!


「美味しいわよあなた」


「お姉様あああああああ!」


「いろんな意味でごちそうさま。それじゃあ少し小休止しようか」


 食べたばかりの運動は避けるべきだ。消化云々もあるが、訓練札にぶっ飛ばされた場合とんでもない惨事になってしまう。


「うーむ困った」


 この聞き覚えのある声……いた。


「太一と優子がやらかしたから練習が出来ないぞ」


 訓練場の隅っこで困った困ったと言いながら、バニラ風味とココア風味のプロテインを吟味している男、北大路友治がいた。どうも馬鹿オブ馬鹿が補習中のため、チームゾンビーズの練習が出来ないようだ。


「やあ北大路君。今日はココアでどう?」


「流石だな貴明。俺もココアに傾いていた」


 近付いてさっそくマッスルの大きな悩みを片付けてやる。


「チームゾンビーズの練習が出来ないの?」


 まあもう一つの悩みも聞いてやろう。と言ってもどうすることも出来ないが。


「いや、学園長に指導して貰うはずだったんだが、太一と優子が補習の小テストでもやらかしたから、その補習の補習で学園長の予定が崩れて時間が潰れたんだ」


「おおもう……」


 何だよ補習の補習って……そんなの聞いたことも無いわ……。


 しゃあない、ここは一肌脱いてやるか。


「強化無しの組み手くらいなら手伝うよ?」


 幸いチームの皆はお昼休憩で少し間がある。ちょっとくらいマッスルに付き合ってもいいだろう。


「それは助かる。学園長が地下訓練場を予約してくれていたから、そのまま使っていいはずだ」


「分かった行こう」


「ありがとう」


 ふ、異能者同士での組手は、時に全く自身を強化せずに行うことがあるが、それなら俺様の邪神流戦闘術である程度戦うことが出来る。強化されてる相手には全く通用しないけど……戦車と戦闘機が合体した存在と殴り合うとか無理だよ無理。


 ◆


 うん? 地下訓練場の中に誰かいるんじゃないか?


 中には……またなんか変わった人が瞑想しているな。白い髪で外見は中性的だが、佐伯お姉様とはまた違う感じだ。佐伯お姉様は飄々とした中にエネルギーを感じるが、あの人からは悪い意味で無機質さを感じる。


 邪神アイ発動! 相手の事をある程度把握する!


 じー。


 ぶううううううううううううう! て、天使と堕天使のハイブリッドで、しかも悪魔契約者だああああ!?


 や、厄うううううい! 東郷さんじゃないけど厄過ぎいいいい! 厄さの数え厄満、じゃなかった役満だ! 一神教圏にいたら存在を無かった事にされるぞ!


 い、いや、悪魔契約はかなり利点が大きいのは間違いない。臓器や五感、その者の大切な物を支払うだけで、人間よりもずっと上位な存在の力を借りれると考えるなら、かなりコストパフォーマンスが高いのだ。ちゃんとした契約ならだが……。


 もう少しじー。


 ああなるほどね。見たところ天使の翼を代償に、中堅どころの物理戦闘型悪魔と契約してるな。本人的にはあっても無くても困らない部位だが、悪魔側にとっては怨敵の翼なのだ。悪魔コミュニティで箔が付くんだろう。これぞお互いウィンウィンの関係か。


「すいません。この時間は自分がここを借りています」


 そして流石は馬鹿筆頭の脳みそ筋肉。そんな事は知ったこっちゃないと正論をぶつけた。


「君は誰?」


『失せろ定命の者』


 瞑想していた目がぱちりと開き、それと同時に黒い靄の様な影が湧き出て来た。こいつが契約悪魔か。戦闘状態でないから完璧に顕現してはないが、それでも中々の力を感じる。


「私に勝ったら退く」


 なんでそうなる? バトルジャンキーなの? ゴリラなの? 色々端折り過ぎじゃね? 頭大丈夫?


「分かりました」


 なんでそうなる? 予約とってるの君だよね? バトルジャンキーなの? マッスルなの? 頭筋肉なの?


「それではルールを一つ設けても構いませんか?」


 あーあ、何考えてるか分かっちゃったよ。


「……です」


 やっぱりね。珍しいは珍しいが変でないルールだ。たまにだが、普通の異能者もこのルールで戦う事もある。


「分かった」


『馬鹿め。小細工にもなっていないわ』


 そうだよ馬鹿だよ。見抜けないお前も。


 さて、どっこいしょ。俺は気楽に観戦してよっと。


 ◆


「自分の勝ちです」


「……うそ」


 尻もちをついて呆然としている中性先輩。それじゃあ無理だよ。そもそも呆然としている事も含めて。


『馬鹿な! 定命の者如きが!』


 ありゃ、あの悪魔、中性先輩のこと結構気に入ってるんだな。マジで現世に顕現しそうだわ。このままじゃマッスルがボコられるな。


『今すぐ化けの皮を』


 食うぞ


「モー?」


 馬鹿め。悪魔なら契約を遵守しろ。


 モーというのかあの悪魔。まあ悪魔にとって名は重要だから本当の名は別だろうが、とにかく突然現世から魔界に引っ込んだ悪魔に中性先輩は戸惑っている。でも特に何もしてないから大丈夫ですよ。ちょっとイナゴが見えたかもしれないですけど。あと喋ったら殺すってぶっとい釘も刺しましたけど。大丈夫ですよ。うんうん。あ、喋ろうとしたらだった。


 それと弱肉強食の中で生きててよかったな。正当な恨み溜めてたらマジで食うところだったぞ。


「もう一度。戦うためにここに来たのなら丁度いいはず」


「いや先に人に頼んでいます」


 おっとマッスルにリベンジマッチか。俺もマネージャー業務があるからいつまでも付き合えなかったから、この提案は渡りに船かもしれない。


「北大路君、僕もマネージャーしないといけないから、先輩ですよね? 先輩に付き合って貰ったら?」


「すまんな貴明。折角誘って貰ったのに」


「いいってことさ!」


 この地下訓練場には猿君がいるし、何か起こるとしても大丈夫なはずだ。という訳で俺は、邪神拳伝承者から元のマネージャーに戻る!


 しっかし、本当の訳あり生徒との訳はあのレベルかあ。格が違ったわ。俺ってば地味な方だったな。うんうん。

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