超物騒な青春

チーム再集結

 ふいー。いい感じの土に仕上がったっぺな。これなら次に植える野菜も上等なのが出来上がりそうだっぺ。やっぱ畑仕事するのは楽しいっぺ。明日も畑仕事、明日も畑仕事、明後日も畑仕事オオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 俺は正気に戻ったぞ! だから田舎は嫌なんだ! 畑仕事しかすることがねえ!


 という訳で


「うーんうーん……痛いよお痛いよお……」


「親父親父」


「なんだいマイサン! あいたたたた!」


「都会に帰らせていただきます」


「がーん!」


 居間で寝っ転がってうんうん唸っている親父に、都会へ帰る事を宣言する。この親父、野球観戦でビールをがぶ飲みした上、昨日の村田さんちでも飲んでいたため、それが止めになったのだろう。今朝からずっと横になって苦しんでいた。こりゃゴリラとの飲み会のセッティングは暫く無しだな。


 そして原因は言うまでもない。神をも殺す絶対の真理にして最終現象、ロンギヌスの針、じゃなかった、槍こと痛風だ。


 今親父の足には、針の塊の様な尿酸結晶が出来上がっている事だろう。


「もう少しいようよ! ね!?」


「いや、そろそろ帰らないとチームの集合に遅れるし」


 弱っているから哀れっぽく引き留めてくるが、何も田舎から脱出するためだけで言ってる訳じゃない。学園に戻らないと、チーム花弁の壁の強化合宿に参加できなくなってしまう。


「という訳で俺とお姉様は都会に帰らせていただきます」


「ぐすん」


 親父も納得したようだな。後はお袋にも伝えないと。


「あら、義父様? 学園に戻るのかしら?」


「そうですお姉様!」


 ちょうどお姉様が今にやって来られたが、親父が死体になっているのを見て何となく察したようだ。まあ元々痛風のせいで死んでたようなものだが。


「お袋ー、俺とお姉様学園に戻るからー。掃除もしないとだし」


「まあまあ寂しくなるわね」


「うーんうーん……」


 顔に手を当てて寂しそうにしているお袋を見ると、痛風で呻いている親父よりよっぽど後ろ髪を引かれるが、一週間近く部屋を開けているから掃除もしないといけない。


「という訳で明日には帰るから」


「今日じゃないんだねマイサーン! あいたたた!」


 流石に今日いきなり帰るのはよろしくないから、行ってきますの晩飯を食べて次の日にと思っていたのだが、ハイテンションな親父を見ると早まったような気がする。


 ◆


 ◆


 ◆


「ちーん! 寂しくなったらいつでも帰ってくるんだよおおおお!」


「小夜子ちゃん、息子をお願いね」


「はい義母様」


 いよいよ伊能市に帰るのだが、親父め、一日経ったらもう痛風から回復してやがる。ロンギヌスを足に受けたのに、流石は大邪神の回復力と言わざるを得ない。


「それじゃあ行きましょうか」


「はいお姉様!」


 行きは親父のワープだが、帰りはお姉様の転移でだ。じゃないと大邪神が、未練たっぷりに俺とお姉様の部屋に居座ることになる。そんなのはごめんだ。


「まあ気が向いたらまた帰って来るよ」


「ちーん! 貴明いいいいい!」


 転移する瞬間に希望的観測を告げると、親父が感極まって抱き付いて来ようとした。が、悪いな親父。それが見えてたから転移する瞬間だったんだわ。


「さて、お掃除お掃除」


「ふふふ」


 手を振るお袋と、近付いてくる親父の顔は消え、見慣れた部屋に帰宅した。



  ◆


「やあやあ諸君久しぶりだね」


「ええそうね」


「また会えたな」


「皆久しぶり!」


「ふふ。変わらない様ね」


 異能学園の教室にて再集合を果たしたチーム花弁の壁。皆リフレッシュ出来たようで調子がよさそうだ。


「それじゃあミーティングをしようかね」


 まずは強化合宿のミーティングを佐伯お姉様が宣言する。


「まあ細かい事はないんだけど、とりあえず大雑把な目標は、訓練符は普鬼の打倒、対人は二年生の推薦組、もしくは三年生の一般組に対抗できること。かな」


 普鬼の面汚し、洗剤をぶちまけられた時のゴキブリこと、いやゴキブリだったわ。とにかく奴は嫌悪感というとびっきりの切り札はあるものの所詮は下位の普鬼。マジモンの普鬼は、チーム一丸となって戦う必要がある強敵だろう。そして個人戦、集団戦の両方に出ている皆は、個々の力もチームとしての力も両方上げる必要がある。


「ゾンビ達相手か?」


「はは。いやあそれがだね……」


 藤宮君が単刀直入に訓練相手はチームゾンビーズかと佐伯お姉様に尋ねるが、佐伯お姉様は妙に歯切れが悪く笑っている。あ、ひょっとして……


「小百合ちゃんに聞いたんだけど、木村君と優子ちゃんが赤点で補習中みたいなんだよね」


「馬鹿は馬鹿だったか」


 やっぱりそうだと思った……馬鹿の中の馬鹿、関西弁木村君と、紅一点である如月さんが、案の定赤点を取って補習を受けている様だ。


「だからすぐに対人の訓練って訳にはいかなくてね。幸い普鬼の訓練札はそこそこあるから、特に待つことはない筈」


「分かった。ならそちらを先にしよう」


「そうね」


「分かりました!」


「適当に頑張ってね」


 チームの方針は決まった。まずは普鬼の訓練符から取り掛かる様だ。


 さて……では俺も自分の仕事をこなさねば……もちろん邪神的な、だ。ふふふ。















 ◆


 ふおおおおおおおお! 鮭昆布おかか梅ツナマヨ! 鮭昆布おかか梅ツナマヨ!


 調理室を利用しておむすびを作りまくる俺。そう! 邪神的流おむすび術によって、皆のカロリー補給をお手伝いせねばならないのだ! なにせ異能者は体が資本であり、食べる事もトレーニングの一環なのだ!


 なお費用は、夜間に非常招集された時の、妖異討伐に対する報酬金を皆で出し合っている。チームとしてのお金だから、これもある意味部費と言えば部費だろう。


 一応は俺、都会に出る時用に最低限の自炊が出来るようには練習したし。というか田舎生まれだから米の扱いにはそこそこ自信がある。そのため、周りでも他チームのマネージャー達も色々作っているが、手際の良さでは負けていない。


「あなた、次のご飯が炊けたわよ」


「ありがとうございますお姉様!」


 しかもお姉様もお手伝いしてくれているのだ。1足すお姉様でその力は無限だああ!


 これならお昼には間に合うだろう。



 ◆


「皆お昼休憩をどうぞ!」


 訓練場で頑張っていた皆に、冷やしておいた麦茶とおにぎりの入った大皿を出す。


「鮭と昆布のほかに、一応、そう一応、おかか、梅、ツナマヨが具に入ってるから!」


「じゃあボクはおかかを」


「私は梅」


「俺はツナマヨを」


「でもやっぱり僕のおすすめは鮭と昆布だね!」


「ふふふふふふ。私は一通り」


 ピシリ


 ああああああああああああ!?


 固まったお姉様以外のチーム花弁の壁の皆だが、やっぱり皆異教徒異端者だったんだああああああ!

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