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「落ち着きなさい"狩り"」


「"大地"様、そうは言われても……」


 この世のどこでもない、どこにもない真っ白な空間。そこで控えている様々な神達の中で、上司である第一神"大地"の傍ら、第二神"狩り"は非常に緊張していた。


「原初の方々は、貴方の思うほど気が短くも狭量でもありません。変わられてはいますが。特に私を作られた"無"の方は本当に無口で」


「おい"大地"!」


「これは失敬"太陽"」


(一族の神で空いている者がいないとはいえ、なぜ自分がこのような場所に……)


 第一神から生み出された存在は第二神、つまり二番目の意味で呼ばれるが、それでもとてつもなく強力な存在であり、人から大いに信仰される存在である。その第二神の"狩り"であるが、周りにいるのはほぼ第一神で、時折見かける第二神は同じ第二神でも、第一神の長子などであり、数合わせのために放り込まれた中堅どころの"狩り"にとっては、神経が磨り減るどころの話ではなかった。


 そしてこの場に神々が集まっている理由は、五千年に一回ほど行われる、第一神を生み出した原初の神々に、星の中、または外で起こった事に対する報告と、第一神ですらどうすることも出来ない様な問題を相談するためであった。


「原初神の方々が来られる」


(きた!?)


 第一神の中でも特に力ある神の声と共に原初の神々が現われた。


『もう会議の時期だったか』


 最初に現れたるは"時間"


『……』


 次に現れたるは"無"


『此度はそれほど問題はないと聞いているが』


 そして"宇宙"


『よく集まってくれた』


 最後に"火"


(こ、これが原初神……! 見えない!)


 現れた原初神達は、この場に集まった神達が見上げるほどの巨体で椅子に座っていたが、"狩り"どころか第一神達でさえ、その原初神の力の強さ故に、漠然とした輪郭しか認識出来なかった。


(しかし、席はもう一つあるぞ?)


 だが不思議な事に、巨大な席の一つは空白のままだった。


『それで最初の議題は』


 コンコン


(ノ、ノック?)


 彼らの纏め役である"火"が口を開いた時であった。扉も何もない空間であった筈なのに、何かを叩いた音、もっと言うならノックの音が聞こえて来たのだ。


『珍しいのがやって来たな』


『然り』


 困惑している神々達であったが、原初神達には心当たりがあったようで、顔を見合わせていた。


「お邪魔するよ!」


(人間!? なぜ人間が!?)


 するとその場に突然湧き出るように、神ではない一人の人間の男が現われた。人間という何の力もない、神がいなければ何も出来ない存在が、である。


(なんだ? 第一神が緊張している?)


 だが第一神達の反応は激的であった。後退っていたのだ。人間に。


「やあやあご同輩の皆!」


『また人間のふりをしているのか』


「はっはっは! ふりっていうか元々人間なんだって!」


 人間のふりをしたナニカに。


「座っていいかな? かな?」


『元よりそこは貴公の席だ』


「それじゃあ失礼して! ってやっぱこの椅子デカすぎ! 端に腰かけてるだけだよこれじゃ!」


『それこそ元の姿に戻れよ』


「だからこれも元の姿と言えば元の姿なんだって!」


(まさか原初神なのか!?)


 "狩り"が疑問に思っていた、唯一空いていた席。そこへ人間の姿のまま飛び乗り、端に座って足を揺らしている姿は、どう考えてもこの場に相応しいとは思えなかった。だが、その席に座れるという事は、同じなのだ。


 超越者達である原初神と。


『だが珍しいな。貴公がここに来るのは……六万年ぶりだったか?』


「おっともうそんなに経ってた?」


『言えてる。時間が経つのは早いな』


「はっはっは! "時間"が時間が経つのが早いだって!」


『確かにそう言われると妙な発言だ』


『うるせえぞ』


(間違いない。だがいったい何の神なのだ?)


 気安く他の原初神達に話しかける姿は、どう見ても気心の知れた仲といった様子であったが、"狩り"はこの神の素性がさっぱり分からなかった。


『それで今日はどういう風の吹き回しだ?』


「いやあ、この前衛兵さんに職質されたんだけど、お仕事は何してるんですって聞かれた時、あれ、俺って無職? とか思っちゃってね……」


『無職だろ』


『無職だな』


『無職と言うだろうな』


『無職』


「ああ!? 普段しゃべらない"無"にまで無職って言われた!」


(やはり分からない。時間でも、無でも、火でも、宇宙でもない)


 "狩り"の混乱を余所に、原初神達は笑いながら話している。


「しっかし皆も真面目だねえ! 久しぶり過ぎて今なにやってるんだって思ってたけど、昔と変わらず子供達に頼られたら相談に乗ってるのか! 普段は一人立ちしたんだから、自分で何とかしろって放任なのに!」


『幾つかの議題は何度か突っ返している。今回もだ』


『然り』


『相談に乗るのはどうしようもない案件だけだ』


「優しいねえ。俺じゃ分からんや」


『子が出来たら分かる』


『これはこれで幸せって奴なのさ』


『然り』


「さて、それはどうだろうね」


 そんな事は考えたこともないと肩を竦める










 唯一名も役目無き神の一柱であった。

























 ◆


「お姉さん。悟志君うんちもしそうです」


「ちょっと待ってね貴明君!」


 同期の言う通りだったな。子がいるってのは幸せだ。


 星の海に還った我が同期よ、同胞よ、友たちよ。乾杯。

























 んん!? 足の親指の付け根が痛む!? こ、これはまさか……!?

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