本当は優しい邪神親子

「マイサン、小夜子ちゃん。今日の夜はお隣の村田さんにお呼ばれしてるからね!」


「りょうかーい」


「分かりましたわ」


 今日の晩飯はそこそこ農家としてやっていけている親父が、手も足も出ない神と降参している、ゴッド村田さんちでか。多分俺が帰って来てるから呼んでくれたんだな。


 さて、偉大なる神に会うなら、普段以上にいい子ちゃんであらねばなるまい。まあこれ以上はちょっと難しいか。はっはっは!


 ◆


「今日はありがとうございます村田さん!」


「いいえいいえ。貴明君もお帰りなさいね」


「お久しぶりです!」


 村田さんちにお邪魔すると、神の片割れである村田お婆ちゃんに出迎えられた。


 ガキの頃おねしょした布団をこっそり干そうとしたけど、布団を持ち上げるにはまだまだ筋力が足りなかったから、第一形態になって庭に出たが、お年寄りらしく早起きした村田お婆ちゃんに見られちゃったんだよなあ。見間違いで済んだけど。まあ、朝一番にちっこい注連縄人形が布団干してたら、俺でも見間違いだと思うな。うんうん。


「おお来たかい」


 その奥から、もう片方の神である村田お爺ちゃんもやって来た。


 ガキの頃裏山で、呪いの藁人形ごっことか言いながら木登りしてたら、山菜取りに来てた村田お爺ちゃんに見られちゃったんだよな。見間違いで済んだけど。ちっこい藁人形が木登りしてたら、俺でも見間違いだと思うな。うんうん。いやこれはないわ。何考えてそんなことしてたんだ俺?


 うん? 奥にまだ人がいる感じだな。


「貴明にいちゃんひさしぶり!」


「おお大貴君久しぶりだね!」


 村田さんのお孫さん大貴君だったか。やんちゃ盛りで俺の腹に突撃してきた。ふっ、異能学園で鍛えられた俺の腹筋は小動もせんわ。


「孫が夏休みなもんで、娘が連れて来てくれてるんですよ」


「お姉さん久しぶり!」


「久しぶり。いつ振りだったかしらねえ」


 その村田お姉さんもやって来た。そう、お姉さんだ。お姉さん。もうお子さんがいるけどお姉さんなのだ。こっちに戻って来てたのか。


 旦那さんは来ていないみたいだな。まあ夏休みなのは学生だけだ。社会人も大変だなあ。


「なあにいちゃん、この女の人は誰?」


 ふっふっふ。よくぞ聞いてくれた。


「兄ちゃんの奥さんの、小夜子お姉様だよ!」


「ふふ、初めまして」


「にいちゃん結婚したの!?」


「あら言ってなかったかしら?」


 どうやら村田お姉さんは、お爺ちゃん達から聞いていたようだが、大貴君には言い忘れていたようだ。


「さあさあ上がってくださいな」


「お邪魔します!」


 村田さんちにお邪魔して居間に向かうが、んんんんんん!? 揺り篭!? その中には当然!


「おお! 二人目のお子さんでお孫さんですか!」


 親父が器用にも、小声でテンションを上げながら体を左右に振っているが、その言葉通り揺り篭の中には赤ちゃんがいた!


「僕の弟で悟志って言うんだ!」


「あ。あ」


「悟志君かあ」


 揺り篭の中の悟志君は、見知らぬ顔ぶれ、つまり四葉一家をそのくりくりお目目で眺めながら、手足を動かしている。


「そうだ貴明君、抱っこしてあげて。昔、大貴も抱っこして貰ったし」


「え!?」


 悟志君を眺めていたら、村田お姉さんが抱き上げて、俺に渡そうとしている。確かに大貴君を抱っこした覚えがあるが、もうだいぶ昔の話でどんな風にやったか覚えてないんだけど。


「はい」


 はわ、はわわわ。ど、ど、どうしよう!?


「だ。ああ。あ」


「でへ、でへへ。超可愛い。でへへ」


 はっ!? にぱっと笑いながら手足をパタパタしている悟志君が可愛過ぎて、つい我を忘れていた。抱き方これでいいんだよね!?


「まあまあ。貴明君が優しいのが分かってるんだろうねえ」


「いやあそんな。でへへ」


 村田お婆ちゃんが本当の事を言ってくれたが、それでも照れてしまう。


「あら、私を見て笑ったわ」


「お姉様もお優しいですからね!」


「もう。ふふ、可愛らしいわね」


 悟志君は、お姉様にもにこりと笑っている。いつかマイサンとマイドーターが生まれたら…………でへへへへへへへへ。


「はっはっは!」


「ははははは!」


 親父と村田お爺ちゃんはビール片手に出来上がっている。もう間違いない。明日親父は痛風で呻いている事だろう。


「貴明の小さい頃を思い出すわ」


 お袋が懐かしそうに目を細めているが、それは一体いつの頃だ? 新幹線通ってた? ひょえ! ぎょろりと見られた! 助けてパパ!


「おじちゃんぐるぐるってして!」


「お安い御用だよ!」


 親父に助けを求めるも、大貴君がお父さんとよくやっているらしい、抱っこされてその場でグルグル回転する遊びを御所望されていた。だがなぜ俺と目線を合わせない!


「ほらぐるぐるー! それ! 立てるかなあ?」


「むり! あはは!」


「はっはっは! よーし次は逆回転だ!」


「うん!」


 親父が回転してから大貴君を床に下ろすと、大貴君は笑いながら少し歩いたが、真っすぐ歩くことが出来ずに座り込んだ。


「それじゃあ、もう少ししたらご飯が出来上がりますからね」


「お手伝いしますわ」


「私も」


「まあまあすいませんね」


 村田お婆ちゃん、お姉さんと一緒に、お袋とお姉様も台所へ向かう。晩御飯が楽しみだ。


「あ。あ」


「おーよしよし。可愛いねー!」


 お母さんである村田お姉さんがこの場を離れたが、相変わらず悟志君はご機嫌らしい。


「そーれ上下移動!」


「あはははは!」


 そして大貴君の方も、親父が回転に上下移動を加えた事で喜んでいる。大貴君たっぷり遊んでもらいなさい。親父は明日痛風で死んでるから、元気なのは今日だけなんだ。


「あ。あ」


「べるべろばあ」


 いやしかし、赤ちゃんってのはあったかいなあ。


 うん……これは間違いない……。


「村田お姉さん。オムツ替えないといけないみたいです」


 おしっこ中だ。

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