幕間 これから小休止するロシア異能者養成校に対するインタビュー
―教官、今日はありがとうございます。早速ですが、聞くところによると、最初は非鬼の訓練符について存在を疑問視していたとか?
「ええはい。仰る通りです。最初我々は、幾ら魔窟の日本とは言え、本物の非鬼の式符があるとは思っていませんでした。情報の誤認、もしくはアメリカが、勝利出来ずともそれと善戦したという宣伝に利用するため、大袈裟に誇張していると判断していたのです。つまるところ、非鬼擬きと言われる程度のものにアメリカは破れたのだと思っていました」
―しかしそれは違った。
「ええ。今思えばまさに楽観論でした。しかし、正真正銘の非鬼の式符など、当時は誰も信じていなかった。それほどのモノだったのです」
―アメリカ校が空港でムカデ型妖異と戦っている映像は見ましたか?
「見ました。あれも我々が間違った思い込みをした原因の一つです。呪詛特化の大鬼に対してその完璧な対応から、アメリカ校が異能学園でも呪詛特化型の非鬼擬きと訓練して、それを非鬼と吹聴したと思い込んだんです」
―それを基準にして考えてしまった……。
「はい。空港で出現したこともあって、資料映像には事欠きませんでした。そのため各部署と協力してありとあらゆる分析を行い出した結論は、切り札であるダイヤモンドの指輪を付ければ、空港での大鬼の討伐は非常に容易く、アメリカ校が出来なかった、恐らく非鬼の擬き程度なら勝利出来るというものでした」
―それは卓上の楽観だった。
「はい。我々はマトリョーシカの大きさを見誤りました。中にぴったりと収まるはずだったダイヤは、いざ入れてみると、頼りなくカラカラと音が鳴るほど小さかったのです」
―現実を知ったのですね。
「はい。勿論私達もですが、非鬼討伐を一番強固に主張していたアレクセイ教官もこれには堪えたらしく、今は心を入れ替えて熱心に指導しています」
◆
―訓練生、今日はありがとう。早速だが、日本に行く前は、楽観論が支配していた?
「はい。最初自分達が聞かされていたのは、自分達が切り札であるダイヤモンドの指輪を身に付ければ、非鬼擬きを簡単に討伐できる。というものでした」
―ぶっつけ本番だった?
「いえ流石にそれはありませんでした。一応練習として、それよりも小型の物で運用を確認しました。やはりそう簡単に使用出来るものではない、とてつもなく価値のある物を貸し出されるんだと思い、自分達全員が緊張していました」
―異能学園に到着した時、周りはどういった反応だった?
「ははは。あ、すいません。異能学園に着いた時は、そこの生徒達がぎょっとしたように自分達を見ていました。多分、自分達が超力者ばかりな事に気が付いたんでしょう。まだその時は、ダイヤが通用すると思っていたので、そんなものは不要な心配だと思いました。どちらが正しかったかは、まああれですが」
―学園が正しく、こちら側が現実を思い知らされた。
「はい、いざ訓練場に上がっても、まだ自分達には余裕がありました。祖国には無い為実際に見たことはありませんでしたが、非鬼擬きと言われる存在は、大鬼の延長で倒せる事を知っていましたので」
―全く別物だった?
「はい。見た瞬間です。これはダメだと思いました。その前に起こった叫び声? 鳴き声? ともかくそれは何とか耐えることが出来たんですが、実物が出てくるととてもとても……気が付いたら訓練場の外に叩き出されていました。後で聞いたのですが、見た、見られたで死んだと判定されたようです」
―どのような外見だった?
「蜘蛛です。ですがその時は、黒い泥の塊と表現出来るような外見でした。何か、この世の全てを呪わずにはいられないという、圧倒的な鬼気を感じました」
―その時の対応は?
「ただ呆然としていました。切り札であるダイヤモンドが効果無ければ、自分達はほぼ超力者だけで対処しなければならないのですから。勿論工夫はしました。全ての指に指輪を付けたり、数少ない浄力者全員を投入したりです。ですが、全く意味がありませんでした」
―しかし、最終的にはある程度渡り合って、実り多い実習にすることが出来た原因がいてくれた。
「はい。そんな時です。彼が現われたのは。これといった特徴のない、地方の農村ならどこにでもいる様な青年でした。彼が自分達に走り寄って来ると、自分達はコロンブスの卵、もしくは例のアレと呼んでいますが、紐を渡してきたのです」
―困惑した?
「はい、当然困惑しました。なにせ何の力も感じない、単なる紐だったのですから。最初自分達は、これでどうするつもりなんだと思いましたが、世界に名高い竹崎重吾が、彼は学園で最優秀の生徒であると言ったので、その助言通り紐に指輪を通して、首から吊るしました」
―その違いは確かにあった。
「違いました。何をやっても泥を見ただけで死んだと判定されましたが、何とか歯を食いしばりはしたものの、泥と相対することが出来たのですから」
―浄力に対する助言もあったと聞いています。
「はい。恐らく彼は浄力者なのでしょう。実に的確な助言で、自分達を助けてくれました。その後やって来た休学生の尽力もあり、何とか自分達は非鬼に対する、戦術的蓄積を手に入れることが出来たのです」
―総括すると、重要な経験だったことは間違いない?
「はい。日本の諺に、胃の中の蛙という言葉があるらしいですが、まさに我々は逃げ出せず、胃液で消化されるだけの餌でした。それを実感したのか、日本に来る前は、必ずアメリカより上であることを証明するのだと言っていたアレクセイ教官も、今は浄力者と基礎の大切さを我々に教えてくれています。え? 2日目にやって来た休学生を誰も教えてくれない? それは……私の口からは何とも……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます