田舎で小休止 超小休止
うーむ親父め。相変わらず見事な土の状態と言わざるを得ない。
ここで土を一つまみ。もぐもぐごっくん。味もいい。親父が定期的に行っている、コッソリ丑三つ時、全国の畑の味見ツアーにガキの頃付いて行って、味の違いが判る男になったが、その中でもこの土は上位の味だ。
というかよく考えると、ガキの頃の俺に土食わすとか虐待だろ。って親父とお袋は普通に止めてたわ。後でこっそり食ったけど。危ない危ない。珍しく人に責任転換してしまうところだった。
しかし、ウチの畑に害虫は親父を怖がって近づかないが、それでも病気の予防に農薬は使っている。それでこの味を維持するとは……悔しいが農家として上をいかれているな。だがお隣の村田さんの畑の味はそれすら凌駕している。まさに神と言うに相応しいだろう。
「とっても新鮮な感覚」
「すいませんお姉様! 収穫の手伝いなんかさせちゃって!」
「心配しなくても楽しんでるわ。かなり」
クワを持っている俺と、お揃いの麦わら帽子とタオルを身に付けているお姉様が、幾つかの野菜を収穫している。
何かお手伝いすることはありませんかと聞いたお姉様に、親父は野菜の収穫を頼んだのだのだが、お姉様の能力を考えると、あまりにも損失と言わざるを得ない。幸いなのはお姉様が楽し気にしている事だろう。
「む、む、息子夫婦と一緒に畑仕事出来るだなんて! ちーん!」
一方親父は鼻水を収穫している。いっつもティッシュを持ってるけど、まさか感動した時のためだけに使ってるんじゃないよな?
「写真撮っていいかな!? かな!?」
「絶対止めてくれ。絶対」
親父め。また自分が写真撮ったら、心霊大集合写真になることを忘れてやがる。流石のお袋も親父に写真を撮らさず、アルバムの写真は全部お袋が撮ったものか、タイマーをセットしてのものだ。
「お昼にしましょーう」
「はーい!」
「もうお昼だっぺか」
「ふふ。あなたって実家ではたまに口調が変わるわよね」
噂をすればなんとやら。お袋が弁当箱を持ってやって来た。しかし、お姉様が言うには、たまに俺の口調が変わるらしい。そうだっぺか?
「うーん最早懐かしい」
気が向いたら休日は畑仕事を手伝って、お昼はレジャーシートの上で昼飯を食べたもんだ。
「頂きます!」
「美味しいですわ義母様」
「小夜子ちゃんったら」
もぐもぐごっくん。シートの上に並べられた弁当箱に入っている、大きめのおにぎりを頬張る。中は鮭だ。やはりおにぎりの具は、鮭、昆布に限る。コンビニのならツナマヨも可。きっとチーム花弁の壁の皆も意見は同じだろう。なにせ一心同体だからな!
「はいあなた。お茶をどうぞ」
「ありがとうございますお姉様!」
「あなたもどうぞ」
「ありがとうね洋子!」
お姉様が俺に、お袋が親父にお茶を手渡ししてくれる。
なんて開放的で幸せな昼食なのだ。
今! 俺は! 大自然の一部だああああ!
◆
◆
「はい貴明これ」
「は? なにこれ?」
畑仕事も終えて夕飯も終わり、親父から唐突に渡されたのは……。
「はっぴ?」
「そうそう! 裏も見て!」
裏? 裏には猫ちゃんのマークってこれ……!?
「贔屓の応援はっぴじゃねえか!」
「いやあ今年は、じゃなかった。今年もいい感じでね! ここはひとつ貴明にも応援して欲しいんだ!」
神妙な顔してるから何事かと思えば、親父が贔屓にしてる野球チームの応援はっぴだった! しかも、無意識に負け癖付いてるのか、今年は、とか言ったぞ、今年はって!
「えー。俺ってばシティボーイだからさあ。応援するなら当然在京球団なんだよねえ」
「5球団もあるんですがそれは」
「えっそんなにあったの!?」
し、知らなかった。てっきり金持ちのあそこと他に一つか二つかと思ってた。
「とにかくお願い!」
「しゃあねえなあ」
「ありがとうマイサン!」
手を合わせて拝みながら頼んでくる、拝み屋やろうとしてた大邪神に根負けして、一応付き合いで応援してやる事にする。俺ってなんて親孝行なんでしょ。
◆
『打ったあああああ! 逆転サヨナラだあああああ!』
「うおおおおおおお!」
「やったああああああ!」
逆転サヨナラ勝利だああああああああ!
「優勝間違いなし! ばんざーい! ばんざーい!」
「ばんざーい! ばんざーい!」
もうこれで今年の優勝は決まったようなもんや!
「ふふふ。仲がいいですね義母様。ふふふふ」
「ええそうね。おほほほほ」
◆
ふーい。ついついテンション上げすぎちまったけど、もう後はお姉様がお風呂から上がったら寝るだけだ。
「ぐえええええ!?」
アホの腐れ縁が夜中に来やがった。
◆
「おいこら聞いて驚け。俺ってば結婚したんだわ。という訳でご祝儀寄越せ。すぐ寄越せ。あ、そんな金持ってる訳ねえか。悪い悪いぷぷぷ」
「可哀想に……そのうち拗らせすぎて正気を失うと思ってたんだ……正気度を失わせる側の癖に。ぷぷぷ」
「いや事実だから。認めたくないのはお前の方だろ?」
「はいはい分かったよ。ご祝儀はタバスコを一瓶でいいんだな?」
「はあ? ふざけんじゃねえ」
「ふざけてんのはてめえだろ。ゲームに負けた罰ゲームは、タバスコの瓶一気飲みなって言ったのお前の癖に、いざ負けたら一舐めで終わらせただろうが。それの残ってる分をやるって言ってんだよ」
「し、知らねえなそんな事!」
「おお少し久しぶりだね!」
「どうもおやっさん。聞いてくださいよ。貴明の奴、結婚したとか抜かしてるんですよ」
「はっはっは! それは本当の事なんだよ!」
「おやっさんまで……あいや分かったぞ。早くこの幻覚の呪いを解け」
「だから本当の事だって言ってるだろこの馬鹿野郎!」
「馬鹿が馬鹿言ってんじゃねえ!」
「残念俺ってば今通ってるとこの主席でーす!」
「それこそ嘘つけ! 数学の通知表見せてみろ!」
「そ、そ、それは関係ねえだろ馬鹿!」
「馬鹿言う方が馬鹿に決まってるだろ!」
「いいやお前が馬鹿だ!」
「あっはっは! 仲いいねえ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます