夏休みの小休止 神同士の談話
「きゃあああああ! ……あれ?」
……なんだ夢か。昨日お姉様に、あられもない姿の写真を見られて死んでしまう夢を見た。俺の記憶が確かなら、初めてのおむつ編、ハイハイ編はもとより、初めてのママパパ呼び編もあった筈だ。そんなものを見られてしまった日には、昭和の特撮並みの大爆発を起こして木っ端微塵になってしまうだろう。
ふう。さて、今日もお姉様の朝ご飯を食べて、主席として……あれ? ここ俺の実家のへやややややや!?
「夢じゃなかったあああ!?」
一緒に寝たお姉様の姿がない!? という事はきっとお袋と朝ご飯を作ってくれているはずだ! そうであって!
「お姉様ああ!?」
慌ててリビングに行くと、テーブルにはおにぎりと卵焼き、みそ汁の和風セットがあった。うーん美味しそう。
「おはようあなた」
「おはようございますううう!?」
そしてお姉様はもう椅子に座っていたのだが、その手には俺のマル秘写真を収めたアルバムがあった! 恥ずかしいいいい!
「そう恥ずかしがらなくてもいいじゃない」
羞恥心で呪力がオーバーフローを起こしそうだ! こ、このままじゃ、ば、爆発する!
「彼、よく一緒に写って仲良さそうね。ほらこれとか肩を組んでる」
「え、いやそれは、気が付いたらそうなってて、きっと催眠術に掛けられちゃってたんですよ!」
腐れ縁と肩組んでサムズアップしてる写真なんてあったのか。これじゃあ仲がいいみたいに写ってるから、お姉様に勘違いされてしまう。
「いやあ朝一番の畑仕事から戻ると、息子夫婦がいるだなんて幸せだなあ!」
ついつい昔懐かしい写真を見ていると、親父が朝一の農作業から戻って来たらしい。頭には麦わら帽子、首にはタオルを巻いた姿でだ。全人類にこの姿を見せて、これが邪神ですと言っても誰も信じないだろう。
「あなたお帰りなさい」
「ただいま洋子!」
お袋もやって来た。さて朝ご飯朝ご飯!
◆
『ギリシャを中心に起こった奇跡の日、そして今回のお盆で、世界的に世界各地の聖地に巡礼者が』
リモコンぴっと。
『一神教の信者数は』
リモコンぴっと。
『閻魔大王の像が置かれている』
リモコンぴっと。
『今日のお天気は』
これこれ。
「世間は大変な様ですね」
「そうだね小夜子ちゃん!」
何故か素晴らしいニタニタ笑いのお姉様と、意味あり気なキモイニヤニヤ笑いの親父が話している。いやあ、それにしてもお姉様の仰る通り、世間はなぜか大変みたいだなあ。
「信仰とか増えてるみたいだけど、これで神の復活とかある?」
何気なくだ。何気なーく聞くんだ。俺には関係ないから何気なーく。
「ないない! 人の信仰がどんなに強まっても、心の底のどっかでみんな思ってるのさ! ソドムとゴモラも、ましてや洪水なんてごめんだ。ギリシャの方は下半神が好き勝手するなんてとんでもない。ってね! だから全部、何もかもひっくるめて肯定されない以上、中途半端な信仰になってるのさ!」
「ははあ」
なるほどねえ。しかしゼウスとか一瞬誰だよって思ったじゃん。下半神に失礼過ぎるだろ。ん? あれ?
「それにもうこれだけ数学が強まってるんだ。信仰心だけじゃ無理だね!」
「数学?」
俺が直々に、魔の学問に認定した数学に何の関係があるんだ?
「そうだねえ……学問って広い分野じゃなくて、数学って限定して世界的にメジャーな神様思い浮かぶ?」
「えーっと……いるっけ? プロメテウスとか?」
「プロメテウスじゃちょっと弱いね。数の数え方くらいは教えたかもしれないけど、1足す1は教えてない筈。神にその概念があったかもちょっと怪しいね」
可能性があるとしたら、ギリシャ神話において人類に火と知恵を与えたとされるプロメテウスとかかと思ったが、確かに明確に数学って神じゃないな。
「雷、火、水とか自然は大勢。美、運命、勝利なんかも結構いる。けど数学で明確に力ある神がいないのは、それが神にとって毒そのものだからさ」
「つまり?」
「神の介在する余地のない、1足す1は2。そしてそこから発展する化学式は、神の権能が、司どるって言葉が嘘だって暴きたてのさ!」
「ああなるほどね」
雷は雷神が全て起こしてるわけじゃない。火は火の神が全て起こしている訳ではない。1足す1は2。そこから証明したのだ。されたのだ。されてしまったのだ。数字で。数学で。科学で。
「ガリレオが星の動きを、ニュートンが星の形を暴いたのは止めに近いんだよ。1足す1は2が成立した時点で神の衰退と消滅は確定してたのさ。まあ、エジソンとか電気系の発明家は下半神の下半身をピンポイントでけちょんけちょんにしたけどね! はっはっはうける!」
実は親父もギリシャ系を面倒だと思っているから嗤っている。万が一オリュンポス12神なんかが復活したら、俺親父連合vsオリュンポス12神の一大決戦が始まる可能性が高い。まあ、負ける気せえへん親父いるし。人間専門の親父でも、邪神状態なら人間の恨みを神に返すのも範疇に入っているし、何より年齢が違うよ年齢が。ガハハ!
最近思ったが、親父のうん十億歳発言は多分サバ呼んでる自称だ。俺の第四形態を考えると、どう考えてもその程度の年数の力と密じゃない。親父曰くの同期と合わせて、ほぼ間違いなく別の世界の完全なる無から生まれてるはずだ。そうなると億どころか下手すりゃ兆すらきかない。
なーにが多分百億歳は言ってない筈、だ。サバ読みすぎだろ。あれだな。中年になって実年齢認めたくないんだろう。おばはんか。
……マテ……マテヨ? まさかと思うが、その同期達がそもそも完全なる無とか、原初とか言うまいな? いやマテヨ? 多分邪神状態で名がないのは本当だ……でも大邪神状態ならあるんじゃないか? 俺の第四形態があれだから…… そう、例えば……。
止めとこう。頭痛くなってきた。
「対処はしなかったんかね?」
「ぷぷぷ。気が付いた時には手遅れだったんだろうね! 信仰しなくなったからって人に天罰を落とすのが仕事の一つなんだよ? 人類が進歩したから素直に身を引く? ぷぷぷ。ないない! いつも通り雷落とそうとしたら、急に使えなくなってて焦っただろうね! そして細々と生きながらえてても、最後は豆球のフィラメントが焼き切れるみたいに消えちゃっただろうさ!」
「親父、顔顔」
「おっとごめんよ」
テンション上がり過ぎて顔の形が崩れて泥になっていたが、野球中継見ている時はいつもこれだからお袋は慣れてるし、お姉様も俺の寝起き姿で慣れているため誰も騒ぐことは無い。
「じゃあ俺と親父が数学苦手なのはそのせいなんだな!」
「そうそう! 間違いない間違いない!」
「はっはっはっはっはっは!」
「あっはっはっは! 人間だった時から死ぬほど苦手だったんだよね……多分貴明も遺伝だ……あっはっはっは!」
いやあ、神を否定する学問だったんだから、俺と親父が数学苦手なのも無理はない! Q.E.D.証明完了! しかし、親父が何かぼそっと呟かなかったか?
「まあそういう訳で、信仰心の高まりで神の復活は無いね。復活するとしたらまた別の手口さ」
「なるほどね」
いやあよかったよかった。俺がげふん。したことで、バチカンや異能研究所に迷惑掛けたくなかったからな!
「ごちそうさま! とってもおいしかったです! じゃあ貴明、久しぶりにパパと畑仕事しようか!」
「えー。俺ってばバリバリのシティーボーイなんだぜ? 畑仕事の仕方なんて忘れちまったよ」
今更畑仕事なんて、もう都会に最適化されちゃったから無理に決まってるじゃん。
◆
よっこいせ。どっこらせ。ふいー。クワ持って土いじりするのも久しぶりだっぺな。畑仕事するってことは大地と向き合う。大地と向き合うってことは地球と向き合う事だっぺ。人間たるものたまには地球と向き合わないといけないっぺ。だから今日も畑仕事、明日も畑仕事するっぺ!
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