夏休み小休止

夏休みの小休止

「諸君、テストご苦労だった。明日から夏休みに入るが、諸君たちの本分はあくまで学生だという事を忘れない様に。テストの結果は郵送で送る。以上だ」


 短いっすね学園長。いや、俺らももうガキじゃないんで、注意事項だの何だの言われる必要はないですけど、それにしたって短くないですか?


「じゃあ焼肉行くか」

「肉は筋肉となる」

「お菓子は余ってるわよ」

「ええ……ホンマにお菓子作戦したんか……」

「そういう木村君も紙芝居作戦したのね……」


 馬鹿共は行動が早いな。もう打ち上げに行く気満々で席を立っている。あいつら実家と疎遠だから、夏休みは帰らずに伊能市でエンジョイか。


「それじゃあ一週間後に会おうじゃないか」


「ええ」


「また会おう」


「皆元気でね!」


「ふふ」


 推薦組の夏休みは大きく二つに分かれており、古い名家出身は実家で妖異との実戦を積み、新興企業の出身は学園内で強化合宿するのだが、我々チーム花弁の壁は、一週間の帰省後に再び学園へ集結し、強化合宿を行う事が決定している。


 そう……帰省である。


 佐伯お姉様は実家でのんびりと、橘お姉様はお盆であれこれあったので、お父様とお母様の遺品を整頓しに、藤宮君は家族思いなので親孝行。


 んで俺は……。


 ◆


「さあ帰ろう直ぐ帰ろう!」


「気が早えよ!」


 お姉様との愛の巣に帰宅すると、体全体を左右に振っている中年の不審者がいた。警察に通報したいな。だが出来ない。


 つまり……親父だ。ワープしてきやがったな?


 そうだよなあ。帰省するってことは、毎日このテンションの親父と付き合うってことだよなあ。多分久しぶりに俺が帰るから、テンション10割増しの親父と……。


「態々迎えに来てくださってありがとうございます義父様」


「いやいやなんのなんの! 一分一秒でもワープして短縮しないとね!」


 その一分一秒で、俺とお姉様は一緒に電車乗って、楽しみながら帰れるんだけど分かってる?


「大体つい最近会ったばっかりだろ!」


「分かってないなあ貴明! パパってのはいつも子供と会いたいものなのさ! 貴明もそのうち分かるって!」


 んな訳……いや待てよ? 確かにお姉様との間にこ、子、子供が生まれて俺もパパになったら……でへへへへへへ。


「はいパパの勝ち。小夜子ちゃん荷物出来てる?」


「はい」


「でへ。でへへへ」


 ◆


「お帰りなさい」


「ただいま!」


「ただいま帰りました」


「でへへ。あれ?」


 どうして俺は親父の小脇に抱えられてるんだ? というかここ俺んち? 一体いつの間に……あれ?マイサンとマイドーターは?


「おっと正気に戻ったねマイサン!」


 ……思い出した! この馬鹿親父、マイサンとマイドーターに、こっそりじーじって言わせようとしてるんだった!


「くたばれ親父! 我が子の初言葉はママで、その次にパパなんだよ! 秘密裏にじーじって呼ばせようとするんじゃねえ!」


「な、なぜそれを!?」


 ゲロったな! やっぱりあの夢は正夢だったんだ! ならここで親父を仕留めて将来の禍根を絶つ!


「あらあら。ばーばも忘れちゃだめよ」


「ふふふふふふ」


 お袋の天然発言はいつもの事だが、お姉様の笑いが何だかいつもより上機嫌……はっ! よく考えたら、お姉様の前で子供とか言うの恥ずかしいいいいいいいいいいい!


「きゃあああああ!」


 恥ずかしさのあまり、顔を抑えて家に駆け込み自分の部屋に突入! そしてベッドの布団に包まって完全防御の構えだ! それにしても我がタールの臭いが染み込んだベッドの臭いに落ち着く。最早我が半身と言っていいだろう。


 あ、そういや部屋が綺麗だったな。俺が出て行っても掃除してくれてありがとうねマッマ!


「小夜子ちゃん。これこれ、前見せられなかった貴明が赤ちゃんの頃のアルバムを準備してるわよ」


「ありがとうございます義母様」


「ぎゃああああああああお袋止めろおおおおおおおお!」


 部屋の外からトンデモない会話が聞こえて来た! 冗談じゃねえ、そんなものをお姉様に見られた日には恥ずかしすぎて死んでしまう!


「お姉様ストオオオップ!」


「あらちょっと遅かったわね」


「きゃあああああああ!?」


 全速力でリビングに向かうと、よりにもよってオムツをしている赤ちゃんの俺の写真を見ているお姉様がいた!


「もうお婿に行けなあああああい!」


「もう私が嫁であなたが婿だから大丈夫よ」


「それでも恥ずかしいいいいぐえっ!?」


「はっはっは! 貴明は元気だなあ!」


 火が出そうな顔を抑えて自分の部屋に緊急避難しようとすると、入り口から現れた親父にぶつかって体勢を崩してしまう。この親父、色々と密度が半端じゃないから俺でも当たり負けしてしまうのだ。 ってちょっと待て!?


「その両手に抱えてるのは何だよ!?」


「え? そりゃ勿論貴明のアルバムに決まってるじゃないか!」


「キエエエエエエエエエ!」


 そんなもんはジジババがこっそり楽しむもんであって、本人がいるのにお姉様に見せようとするんじゃねえ!


「これこれ。お友達と台所に来て何事かと思ったら、ゲームで負けた罰ゲームにタバスコ舐めてるとこ」


「あらあら」


 ぬうおおおおおおお! いっそ殺してくれえええええええええええ!

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