テスト直前

 お、お腹が痛かったああああ……!


 いやマジで痛かった。あれはゴロゴロピーとかいうレベルじゃない。帰って暫くトイレの住人だったわ。


「はい。お粥をどうぞ」


「ありがとうございますお姉様!」


 そんな俺をお姉様が気遣ってくれて、朝ごはんはおかゆだ。いやあ、テストは今日からなのに、危うく腹痛で落第するところだった。


「でもおかしいわねえ。私の見立てじゃ、湯呑一杯ならこんなに酷くならない筈なのに。どうしてかしらねえ?」


「そそそそそそうですねお姉様!」


 やべえよやべえよ。夜にこっそりと、お姉様を家に残してアメリカに行ったから弄られてるよ。


「そうねえ。大鍋三杯ってところかしら」


「ななななにがですかね!?」


『アメリカに現れた閻魔大王について様々な憶測が』


「あら、テレビに閻魔様が映ってる。へえアメリカに出たんですって」


「そそそそうみたいですね!」


 やべえよやべえよ。生け簀の邪神だよ……。


「それじゃあ食べましょうか」


「はい! 頂きます!」


 ふう。何とか切り抜けることが出来た……。


 もぐもぐごっくん。あああ、お粥なんて久しぶりに食べたけど、やっぱりお姉様が作ってくれたのは何でも美味しいなあ!


「第一、二、三形態全部の合わせ技?」


「はいそうです!」


 梅干し食べて塩分チャージ!


 ◆


 ◆


 ◆


 さて、授業参観のための休みが数日続いてのテスト当日という事もあり、クラス内がピリついている。恐らく、今の状態じゃマズいと、親御さんの前でゴリラに釘を刺されたのが何人かいるからだろう。


「そもそもテストって必要ある?」

「ないない」


 普段通りなのは馬鹿の中の馬鹿、如月さんと木村君だけだ。ツッコミ役の狭間君は比較的常識人だし、マッスルに至っては座学に隙はないインテリなため、紅一点とチャラ男はまさに一年A組の馬鹿オブ馬鹿と呼ぶに相応しい。


 それにしてもあのマッスル、脳みそまで筋肉一色な癖して、何故ああも理数と文系どっちでもいけるんだ? 鍛えたら俺も、アミノ酸とプロテインがどうのこうの作用して数学出来るようになるか?


「や、やあご両人」


 あれ? 聞きなれた佐伯お姉様の声とちょっと違うぞ? 何がああああああ!?


「さ、佐伯お姉様ああああ!?」


「ふふ。生気が無くなっちゃってるわね」


 教室に入って来た佐伯お姉様を見ると、お姉様の言う通りまさに生気が無くて今にも倒れそうだ!


「き、昨日酷い目にあったんだよ。あ、あれを学園長が使ったせいで、母さん共々倒れちゃってね」


 ゴ、ゴリラあああああああ! あれって何ですか? なんて尋ねる必要もねえ! あのゴキブリを佐伯お姉様に使いやがったな!? しかも佐伯お姉様のお母様まで巻き添えになってるじゃねえか!


「し、しかもなんだか幻聴まで聞こえて来てね。へいへい姉ちゃんビビってるー。そんなんじゃワイは倒せへんでーとかなんとか……」


 げ、幻聴なんだろうか。関西弁なところを考えると、ひょっとしたら本当にゴキブリの声が聞こえていた可能性があるんだけど……。


「でもこれじゃあテストは無理そうね」


「ふふ、聞いておくれよ。気を失う直前に一つ階段を昇れてね。あ、あれを消し炭にしてやったんだよ。いやあ、ほげえええあっつうううう。とか言ってたけどこれでもう大丈夫さ。そう、大丈夫大丈夫。ふひ、ふひひひひ」


 どんな時でもふてぶてしくニヤリと笑う佐伯お姉様が、壊れた笑い方をしている。これは大丈夫じゃないかもしれない……。


「ぃよしっ! さーて、気分を戻して今日もいっちょやろうかね」


 頬を叩いて自分の席に戻る佐伯お姉様。うーむ。あれだけ生気が無かったのに普段通りになられるとは流石の一言だ。


「うん? 佐伯はどうしたんだ?」


「おはよう藤宮君! いやそれが、授業参観でゴキブリ式符を使われたみたいで、お母さん共々倒れちゃったらしいんだ。それで気分を入れ替えてね」


「ああなるほどな」


 よっしゃやるぞと言わんばかりの佐伯お姉様を、教室の入り口で見ていた藤宮君が問いかけて来る。


「まあ佐伯はそれ以外大丈夫だから心配はいらないだろう」


「だね!」


 佐伯お姉様はどちらかというと理数系だが、不得意な科目は無いと言っていい。それは目の前の藤宮君も一緒で、座学ではクラス一のインテリであるマッスルのちょっと下辺り、実技では橘お姉様、佐伯お姉様とのトップスリーな事を考えると、クラスで最優秀な生徒と言っていいだろう。


 あれ? 俺っち主席としてマズくね?


 だだだだ大丈夫だ! 数学はすっぱりと諦めてその分他の分野で頑張り、実技も我が必殺技を使えば楽勝に決まってる! あ、そういやゴリラが、ベルゼブブを拘束した俺の実技の点数は満点だって言ってたじゃん。


 ふははは。藤宮君、君とは親友だが主席の座は渡せない。ここはひとつ英語で勝負しようじゃないか。ロシア語でもいいよ。


「おはよう」


「おはようございます橘お姉様!」


 橘お姉様が教室に入ってこられた。先日の事についてはずかずか聞かない。それはきっと橘お姉様の大事な思い出だから。


 そして不肖この邪神四葉貴明、来年のお盆も頑張る所存であります!

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