何とか乗り切った学園長とやっぱり怖い親父
「えー、では面談をさせて頂きます」
ゴリラに促されて、訓練場に置いてあった椅子に座る俺達。っていうか、なんでこんな広い訓練場に椅子がポツンとあるんだと思ったら、やっぱり三者面談用の椅子か……このゴリラ、全く雰囲気ってのが分かってない。普通教室だろ? 合理的なのも程々にしろよな合リ羅。
「貴明の方ですが、座学では、異能関係は超力、魔力以外、一般教養では数学以外は一年でトップクラスです。全体的に言えば素晴らしいと表現できます。ただまあ、やはり理数が……」
「おお流石はマイサン! 俺も数学に弱いんだけど……」
「凄いわね貴明。数学は……まあ中学の頃からいつもの事だけど」
うっせえよ! 他のじゃトップクラスなんだからよくやってる方だろ! もう理数系については俺も諦めてんだからこれ以上言わんでくれ! 友情と努力じゃ学力は上がんねえんだよ!
「小夜子の方は……もっと頑張りましょう。ですな……」
「ふふふ」
「はははは! 流石は小夜子ちゃんだ! 興味ない事にはとことん無関心!」
「そうですわ義父様。面白くないんですもの」
「ダメよ小夜子ちゃん、あなた。先生が教えて下さっているんですから」
「はい義母様」
「はいごめんなさい……」
座学には全く興味無しなお姉様の評価を、まるで小学生の通知簿の様な言葉で評したゴリラ。それに流石だと笑っている親父とお姉様だが、お袋がめって感じで叱っている。そして親父がしゅんとしているのを見るに、家庭での夫婦の力関係が分かるというものだ。
そんなお袋を救世主を見るような目で見ているゴリラだが、お姉様を叱った事か、ハイテンションな親父を黙らせた事に対してか分からんな。だが親父は三秒立つか、三歩歩いたら元に戻るぞ。
「実技はどうなのかな!」
ほらもう元に戻った。復活が早すぎるのも大邪神なのだ。
「えーとですな……」
そんな親父に学園長も押され気味で、普段とは考えられないほど歯切れが悪い。ゴリラがえーととかいうの初めて聞いたぞ。
「実技では貴明に随分不自由させてしまっていますが、以前連絡した通り、夜間の非常招集でベルゼブブを拘束していますからね。それを加味して考えるとほぼ満点でしょう。小夜子の方は学内の訓練符では役不足な程で、非の打ち所がありませんね」
「流石は二人だ!」
「おほほほほ」
よ、よかったあああああああ! 俺の実技ってそういう点数の付け方だったんだ! ニュー蜘蛛君にはマジで挑んでボコられてるから、最悪赤点ギリギリも覚悟してた! やっぱりベルゼブブ様こそ偉大な存在だったんだ!
「総じて言うと、二人とも非常に優秀な生徒です」
「おおおお!」
「今夜はお祝いね」
はーっはっはっはっは! これが主席だぜ親父にお袋! なんかゴリラから副音声として、貴明は理数に弱い事、小夜子は座学そのものがあれだけどって聞こえてきた気がするけど!
「それで進路相談の方なのですが」
そういやそんなのもあったな。だが決まってる!
「え? うちに戻って農ぎょ」
「都会で四葉夫婦異能相談所を立ち上げます!」
「ぐすん」
「あなたしっかり」
なんで異能学園を出て、田舎で畑作業をせにゃならんのだ。親父が落ち込んでるが無視だ無視。
「ふむ。小夜子の方も?」
「ふふふ。勿論ですわ」
「ぐすんぐすん」
お姉様とも既に話はついているから、親父の最後の望みが断たれた。
俺とお姉様は、都会で異能関係の相談所を開き、お姉様とイチャイチャしながら、たまに要請された妖異を討伐して報酬金で生活するのだ! 特に呪詛返しなんて需要はあるだろうなあ。100%カウンター決められるし、ど素人の恨みが生霊になるってパターンもあるから、仕事には困らんだろう。正当性のある恨みはそのまま食らってろ。
「私の単なる案だが、この学園の教師も選択肢の一つとしてありだと思う」
「きょ、教師!?」
突飛なゴリラの言葉に思わず声が裏返ってしまう。
「ああ。普段の貴明の活動を見てみれば、その適正も十分あるように思う。教師一本にせずとも、実戦的な分野や対呪詛における非常勤講師という手もあるな」
「は、はあ」
この前ジェット婆の杖で頭を殴られたより強いショックを受けている。いや、教師……教師か……だが、お姉様とイチャイチャする時間が減るのは……いや、それを考えての非常勤講師か……教師……講師……。
「まあ先はまだ長い。ゆっくり考えてみなさい」
「は、はい!」
「貴明が教師かあ。ははあ。あの小さかった子がなあ。いや、まだ決まったわけじゃない。それに教員免許には数学も……」
「おほほ」
「ふふふ」
確かにまだ先の話だ。ゴリラの言う通りゆっくり考えてみよう。しかし親父め、最後にぼそりと呟いたのは聞こえているぞ!。
「小夜子の方は」
「夫の傍で一緒にいますわ」
「そうか」
「ちーん! 小夜子ちゃんありがとうねえええええ!」
「不束な息子だけど、改めてよろしくお願いしますね」
「もう、当然ですわ」
お、お姉様あああああああああああああああああ!
「それでは今日のところはこれで」
「ありがとう竹崎君! これからもよろしくね!」
「は、はい」
親父がゴリラ両手を握ってブンブン振っている。止めてくれ親父……こっちが恥ずかしくなるから……。
「で、ではまた学園で会おう」
「はい!」
「ええ」
こうして俺達の授業参観兼三者面談は終わるのであった。
◆
「あ、橘お姉様おはようございます!」
「おはよう栞」
「ええおはよう」
帰路で橘お姉様とご家族にばったり会った。しまったな、次は橘お姉様だったのか。またお会いするつもりは無かったんだが……そうか、橘お姉様は親父と面識がないから俺達の次に回してたのか。いや、あの姿じゃないから大丈夫なはずだ。
「これは貴明と小夜子ちゃんがお世話になっているようで!」
「いえいえ、こちらこそ栞がお世話になっているようで」
男の社会人のご挨拶が始まる。しまいに名刺でも渡しそうな雰囲気だ。
「貴女が栞さんなのね。貴明から、仲間思いの素敵なお嬢さんだって聞いていますよ」
「こちらこそ、貴明君は頼れる男の子だって聞いてます」
母ちゃん止めてくれえええええええ! ほら橘お姉様も真っ赤になってるじゃん!
「いやあ、お話ししたいんですが、授業参観のお邪魔になりますからな! どうぞお嬢さんとごゆっくり!」
「これはすいません。ではお言葉に甘えて」
「橘お姉様、また学園で!」
「え、ええ」
ほら見ろお袋! 橘お姉様のお顔がまだ赤いじゃん! 照れ屋さんで恥ずかしがり屋さんなんだから、変な事言うんじゃねえ!
「なるほど。だから踊ったんだねマイサン!」
「ななななな何の事やら」
単に俺が夜中に踊りたくなっただけなのに、一体何を勘違いしてるんだこの親父?
「いやいやなんでもない何でもない! はっはっはっはっはっは!」
「だから何の事だって言ってるだろ!」
「さて、今日はご馳走を作らなきゃ」
「お手伝いしますわ義母様」
◆
「こ、これは!?」
突如……突呪彼女の周りが真っ暗となる……
「やあやあ初めまして逆カバラのナヘマーさん!」
そして声を掛けてきたのは、黒いベンチの様な物に腰を掛けている何の変哲もない一人の男。
「いやあ、本当ならクリフォト、逆カバラの大物とは関わるつもりは無かったんだけど、あれでしょ? ベルゼブブを討った竹崎君に興味が出てやって来た口でしょ? でも竹崎君も色々忙しいみたいだから、ちょっと勘弁してあげて欲しくてですね!」
「特に今日の騒動なんかは息子が引き起こしたから、出来ればこれ以上竹崎君に負担を掛けたくないんですよ!」
「いや、息子のやった事は誇らしいですよ? お友達の事を想ってやった事ですからね! うちの子はなんて優しいんだ! そうそれそれ! 折角の親子水入らずなご家族も邪魔したくないですからね!」
「という訳で話は戻るんですけど、竹崎君には息子がとっても世話になってるし、あのご家族の事もあるからってあれ? ナヘマーさん聞こえてます? もしもーし? あちゃあ、いつから独り言になってたかなあ……」
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