既に胃薬を飲みまくっている学園長の授業参観
「いやあ、朝一番の学校って独特の雰囲気だよねえ」
「おほほ。そうですね」
きょろきょろしている親父と笑っているお袋。
俺とお姉様は一緒にするという事でしかも朝一だ。踊り疲れてるから眠いのだが仕方ないな。
えーっとこっちだこっち。この訓練場の中にゴリラがいる。
「四葉貴明入ります!」
「四葉父入ります!」
主席として元気よくはっきりと声を出したのだが、何故か親父も俺に習って気を付けの姿勢だ。ってそういや親父は顔変えてるから宣言しないと、ゴリラには誰か分からんか。
「お、お久しぶりです」
スタンバってたゴリラの声が上擦ってる。俺も事前に顔を変えているのは伝えてあるが、それでも見ず知らずの顔の親父に戸惑いがあるのだろう。ちゃんと安心させてあげないとな。
「間違いなく親父なんで安心してください!」
「そうか……」
あれ、気のせいか? なんかどんどん生気が抜け落ちていってる様な? いや、常在戦場、超実戦主義者、漢竹崎重吾、合理的阿修羅、略してゴリラから生気が抜け落ちるなんてそんなことは無いか!
「洋子と申します。貴明と小夜子ちゃんがお世話になっております」
「あ、これはご丁寧に。ご挨拶が遅れました、竹崎重吾と申します」
おっと、そういやゴリラとお袋は直接話したことが無かったか。親父と何歳差か聞いちゃだめだぞ? 絶対だぞ? ガキの頃、親父に無邪気に聞いたら押し入れに籠ったからな。その後お袋が、愛してるのに年齢なんか関係ありませんよ。とか押し入れの襖越しに囁いたら元気一杯で復活したけど。
「竹崎君久しぶり! 入学式以来だね!」
「ご、ご無沙汰しております」
分かるよゴリラ。この邪神テンション高えから引いちゃうよな。負の存在だから、無理矢理テンション高めて人間と接してるとか、そうしないと……とか理由全くない、素の状態がこれなんだぜ?
「ところで今日の騒ぎは……」
「え、今日の騒ぎの事!? 俺は全然関係ないよ! 前にも言ったけど完全に俺の領分じゃないし、邪神的にはルール違反なんだよね。そんな一神教の聖なる奇跡みたいなのとか特に。ねえ貴明」
「そうですよ学園長! 神様ってルールに縛られてるんで破れないんですよ! いいことするなって言うルールを!」
「そ、そうですよね。失礼しました」
「いやいや気にしないで! 確かに中々のもんだからねえ!」
まあやっぱりそうだよなと納得しているゴリラ。よく分からんが、今起きている事と邪神が結びつくことはないだろう。どう考えても善神、それも一神教の奇跡だ。またバチカンにはお便り届くだろうなあ。
「えー、それでは早速実技の方を始めましょう。現在一年生は少鬼の訓練符の打倒を目標にしています」
「ほほう少鬼」
人類滅亡の危険、滅鬼が少鬼とか言ってもね。
「お子さんも悪目立ちしない様、この少鬼で授業を受けています。小夜子は、まああれですが」
「はっはっは。二人らしいなあ」
「おほほ」
「ふふふ」
「はは、あははは……」
い、言えない……ニュー蜘蛛君にマジで挑んでるのにボコられているだなんて言えない……。でも、あのくりくりお目目を見ると俺は……っていうか、お姉様があれで、何のことか分かったのかよ。確かにお姉様はお姉様だが。
「では貴明、始めよう」
「はい!」
だが今日は親父はともかくお袋が見ている! ここは、まあ貴明ちゃん、立派になって。と言わせる場面だろう! 覚悟するがいい俺の相手よ!
「では起動する」
さーて、今の俺様にどんな訓練符を使うって言うんです学園長? 言っときますけど、今の俺は普段のおおおおお!?
『今日も一日ガンバルゾ!』
ああああああああああああ!? よりにもよってニュー白蜘蛛君だあああああああああああ!?
駄目なんだってこの頑張り屋さんの相手はああああ! 邪神とまさに正反対! 直視するのも躊躇ってしまうんだ!
って言うか少し言葉が流暢になったねニュー蜘蛛君。
『いくぞお! えい!』
なんていうと思ったか、同じ轍は踏まんわ! 食らえ超重度の痛風の呪い!
『なんか危なそうだけど頑張るううううう!』
な、なんて頑張り屋さんなんだ……はっ!?
ドン!
「ぐええええええ! やっぱり駄目だああああああ!」
体当たりされて訓練場から叩き出されたけど、あんな頑張り屋さんを呪うだなんて俺にはできないいいいい!
「おのれよくもマイサンをー! 無垢で頑張り屋さんだからって、何でもかんでもしていいんじゃないんだぞ! 食らえ! 船酔いと車酔いと二日酔いの呪い!」
「あちょっ!?」
今まで聞いた中で、一番切羽詰まってるゴリラの声が聞こえてきた。そりゃそうだ。父兄が訓練場に上がるなんて想定してないだろう。
そう俺と入れ替わりに親父が訓練場に上がって、ニュー白蜘蛛君に呪いを掛けたのだ! でも親父、あんたは!?
『新しい訓練生だ! 頑張る!』
ドゴッ
「ぐええええええ! ワイって人間専門だったあああ!」
親父も吹っ飛ばされたあああああ!
アホおおおおお! 親父ってば裏技使わないと人間以外は呪えないじゃん! しかもなんだその呪いのラインナップ! 例え使えても人間以外に効くのかそれ!? しかも応援チームの訛りがちょっと出てやがる!
「おほほ」
「ふふふ」
そんな親父と俺を、まあそっくりな親子ねとばかりに笑っているお袋とお姉様。
「ぐえっ!? ううごめんよ貴明……パパはこれまでのようだ……最後に……パパって呼んでおくれ……」
「が、学園長!? 僕このままテストでも落第ですか!?」
「ぐすん」
俺の隣に吹っ飛ばされて倒れ込んだ親父が寝ぼけたこと言ってるが、んな事に構ってる場合か! 俺の主席としての面子が掛かってるんだ!
「ベルゼブブを拘束したのに、実技で落とすわけないだろう。したらあの場にいた佐伯達が乗り込んでくる。実戦も評価対象だ」
「おお!」
よかった! 実技テストは非公開だから、不正げふん! 実戦の評価点数を追加で入れても誰も怪しまない! 実技かっこ実戦を頑張っておいてよかった! ありがとうベルゼブブ様! 今心の底から感謝してるよ! 永遠に奈落の底に閉じ込めておくつもりだったけど、弥勒様が来たら許してあげる!
でもゴリラ、なんか顔が引き攣ってない?
「次は小夜子だな」
「あら、私もですか?」
お姉様は、自分にお呼びがかかると思っていなかったらしい。キョトンとした顔のお姉様マジプリティあいてっ。でへへ。
「うーん夫婦仲が良くて結構結構! それはそうと、パパも小夜子ちゃんのカッコいいところ見たいなあ!」
「私もよ」
「もう。恥ずかしいですわ」
親父とお袋の言葉に照れて、少し顔の赤いお姉様が訓練場に上っていく。お姉様マジで可愛らしすぎあいててててててっ。でへへ。
『次も頑張るぞ!』
う、むっふんと鼻息が見えそうなニュー蜘蛛君はニュー蜘蛛君で可愛らしい。
「あの人のお気に入りだから、手荒に出来ないのよね」
え!? 別にお気に入りってわけじゃないですよお姉様! あ、でもあのキラキラ光る赤いお目目……
「それじゃあ外へ流しちゃいましょうか。【一の理・水】」
あ、お姉様の切り札だー。
『あーれー』
本来ならナイアガラの大瀑布をそのまま横に向けたような水が襲い掛かるのだが、ちょっと早めなだけの水に、ニュー蜘蛛君が訓練場の外へ押し流されて元の式符に戻った。でもなんか楽しそうだったね。
「お目汚しでしたわ」
「いやいやそんな事ないよ!」
「凄かったわよ小夜子ちゃん」
「お疲れ様ですお姉様!」
まだほんのりと頬の赤いお姉様があいててててててでへへへへへ。
さて、次は面談か!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます