まだ凄い学園長
「あなた起きて」
「むにゃむにゃ……あと366日……」
ごめんなさいお姉様……僕昨日、大分遅くまで踊ってて……
「義父様と義母様がいらっしゃってるわよ」
「ふえ!?」
何で親父とお袋が!? ってそうか今日参観日だった!
「もしもしマイサン聞こえますか……そうですあなたのパパです……今日はいい天気ですね……邪神的にはよくないけど」
「邪神が囁きながらこっそり扉の隙間から覗くんじゃねえ! 心底ビビるだろうが!」
寝室の扉の隙間からこっちを覗いているのは、顔を変えて休日にはどこにでも寝っ転がってそうな見知らぬ中年の顔。だが俺は騙されない。大邪神こと我が馬鹿親父だ! しかし、どうして隙間から覗いてるんだ!? あれか!? 邪神の本能か!? かつての禁断の必殺技、パパとママって何歳差結婚?って言うぞコラ!
「いやあ貴明に会えてテンション上がちゃって! さあ久しぶりに皆で朝ごはん食べようじゃないか!」
テンション上がったらこっそりひっそりするのかよ! って嘘つけ! 今も普通にハイテンションじゃん!
「じゃあ待ってるわね。それと、踊った後に疲れてそのまま寝ちゃってるわよ。ふふ」
「え? きゃああああああああああ!?」
第三形態のままだったああああああ!
ま、またやっちまったあああああ! しかも親父にも見られてしまったああああああ!
◆
「おはよう貴明」
お袋はもう席にいるな。
「おはよう母さん」
はっ!? 気が動転してつい昔の呼び方をしてしまった! まあ、ママと言わないだけましだと思おう。
「パパの事は!? 父ちゃんって呼んでたでしょ! いや、パパでもいいよ!」
心底うぜえ。
「頂きます」
「ぐすん」
もぐもぐごっくん。
む、この味付けはまさにお袋の味だ。
「ふふ。義母様が、久しぶりにあなたにご飯を作りたいって仰ったのよ」
「もう、いやだわ小夜子ちゃん。内緒にしてって言ったのに」
「母さん……」
ちょっとジーンと来てしまった。
「お父さんって呼んでた頃もあったよね!」
一体いつの話をしてんだ。無視無視。テレビつけよ。
「ぐすん」
『おぼ』
ピッとテレビのチャンネル変えて。
『きせ』
ピッとチャンネルまた変えて。
『よみが』
ピッとまたまた変えずに電源オフっと。
「ふふ。どこも同じことね。ねえ。あ、な、た」
「そそそそそそうですねお姉様!」
いやあ、なんでかテレビは同じことしか取り上げていない。
「昨日は踊りまくって疲れたでしょ」
「ななななな何の事ですかパパ上?」
「今パパって言った!」
ガチのマジで心底うぜえ。
「ふふふ」
「おほほ」
お姉さまとお袋が笑っているけれど解せない。
◆
「いやあ、中々お祭り騒ぎだね!」
「そそそそそうかな?」
「そうさ!」
学園に徒歩で移動しているが、親父の言う事に全く同意できない。精々ナスとキュウリが至る所にあって、国旗が翻っているだけだ。
「こりゃあやった人は凄いなあ。ちゃんといい人だけに限ってパスポートを発行してるんだ。絞り込むの大変だっただろうなあ。尊敬しちゃうなあ。素晴らしいなあ」
「それほ……!」
危ない! 全く何のことか分からんが危うく口を滑らす事だった!
「それよりも、学園でちゃんとやれてるかしら?」
「へっ。何を言い出すかと思えば。俺ってば主席なんだぜ?」
お袋がママ心配。といった感じで頬に手を当てているが、言うに事欠いてこのクラスの主席に、ちゃんと出来てるかだって?
「ふふ。クラスの頼れる主席なんですよ」
「まあ。小夜子ちゃんがそう言うならそうなのね」
ママそれってどういう意味? 俺の事全く信用してなかったの?
おっと我が帝国に到着した。
「いやあ前来た時も思ったけどデカい」
今にもほえーっとため息をつきそうな、親父の異能学園に対する感想。
「これだけデカけりゃ不便じゃない?」
「まあ否定はしないけど住めば都だよ」
確かに親父の言う通り、学園内の端から端への移動なんて頭が痛くなるレベルではある。
「電話じゃ話してたけど、竹崎君に会うのも入学式以来か!」
「直接お礼よろしく。大分世話になってるから」
「勿論勿論! いやあ、縁ってのは不思議だねえ。竹崎君がまだ二十歳かそこらの時に初めて会ったけど、それが今じゃ息子の担任かあ。彼と会えてよかったよかった!」
うんうん。俺も気の合うツーカーの仲のゴリラと会えてよかったよかった。これも全ては、親父とゴリラの縁と言う奴のお陰だ、きっと強固な縁なんだろうなあ。
「でもなんか、思ったより賑やかじゃないね。もっと親御さんがいるかと思ったけど」
「あれ、言ってなかったっけ? 名家同士がマウント取り合うから、原則一組ずつの実技と面談なんだよ」
仲が良いところもあれば悪いところもあるが、欧州の天地並みに複雑怪奇なのが名家間の関係だ。もし仲が悪いところの生徒が何かの失敗をすれば、お宅の子供さんぷぷのぷになるのは目に見えてる。そのためなんと、学園創立時からこのシステムなのだ。当時から、まさに目に見えているといった感じだったのだろう。
「言われてみれば……いや……」
「あ、野球中継見てたような音が電話越しに聞こえてた」
「ああなるほど」
それなら納得と手を叩いた親父だが、なーにがなるほどだよ。どこの世界に野球中継に夢中で話の内容を忘れる邪神がいるんだ? 向こうの世界でいた、本当に極僅かな親父の信者さんの言ったことも忘れてたんじゃないだろうな? いや、そもそもその信者は親父が、いたよいた。と勝手に言ってるだけだから、やっぱりいなかったんだろうな。それなら誰にも迷惑をかけてないだろう。
「さ、さて、それじゃあ行こうか!」
誤魔化しやがったな。
こうして、再び大邪神が異能学園に足を踏み入れるのであった。まる。邪神はほぼ毎日だけど。
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