振り回される人々

親父起動準備よし!

「ぐうぐう」


「あなた、起きて」


「ふごふご」


 お姉様……後365日……昨日テンション上げすぎちゃったから眠たくて……


「もう。主席だから起こしてくれって言ったのはあなたなのに……起きないと」


 起きないと?


「世界地図書く寸前よ?」


「おはようございますお姉様!」


 え!? 僕おねしょする寸前!?


「ふふ。おはよう。ご飯はもう出来てるわよ」


 笑いながら寝室を去っていくお姉様。いやしかし、おねしょしてる感じじゃないいいいいいいいいい!?


「きゃああああああああああ!?」


 うっかり第四形態になってタールで世界地図書く寸前だったああああああああ!? ! は、恥ずかしいいいいいいいいい!


 ◆


『ロシアの古城で見つかった串刺し死体には謎が多く、この怪事件に現地の警察は困惑しているようです。また、死体の身元の一部は、財界、政界にも名の通った人物が複数確認されており………』


 もぐもぐごっくん。


 おおこっわ。朝のニュースによると、ロシアの古城で城の天辺だったり、庭の木だったり、街頭だったりに、人が串刺しにされている死体が見つかったらしい。しかも、数人は串刺しにされた後に死んだんじゃないかと思われる様な、苦しんだ形の死体が幾つかあったらしく、この猟奇的な事件にロシアはドン引きのようだ。いや、ほんと怖いな。戸締りしとこ。


「世間は物騒ねえ」


「そうですねお姉様!」


 お姉様がいつもの素敵な笑いでテレビを見ている。


 ねえ、今は衆合地獄の針山にいる皆さん? おっと、今それどころじゃないみたいですね。叫び声だけで何言ってるか分かりませんよ。


 あ、社員の皆さんお疲れ様です。突然罪人を送ってすいません。え? 罪人を責めぬくのは当然? いやあ流石は歴戦のプロフェッショナルの皆さんだ。代わりに社長さんがいなくて溜まってる仕事を僕が決済しときましょうか? ええ、実は裏技でちょっと本人とは違うんですけど成れてですね。その権限を持てるんですよ。決まりですね。では今度機会を見て。ええ、はい。それでは失礼します。


 ふう。流石はプロ中のプロだ。仕事に対する姿勢が違う。まるで蜘蛛君のようだ。


「そろそろ授業参観の日だけど、義父様どうするのかしら?」


「顔はもう完全に適当にしたみたいです。誰かをモデルにしたら、関係者ですかって言われるのも面倒ですしね」


「そうね」


 てっきりサプライズで、ゴリラをモデルにした顔にするかと思ってたけど、それだと学園で、あれ? 学園長の親戚か兄弟? とか言われて確かに面倒だ。


 そのため親父は、何処にでもいそうな単なる中年の顔で来るらしい。まあ、配慮と言えば配慮なんだが、元の顔からしてくたびれた中年なのだ。大して変わらんだろう。


「義父様、祈祷師しようとしてたって本当?」


「え、ええまあ……」


 あと、胃に剣が親父にビビってる原因の一つに、人類じゃ手に負えない邪神が、何気ない顔で世間に溶け込もうとしていた事がある。威厳が、そして分かりやすく降臨しているならよかった。が、一番最初、お袋がまだ子供だった頃の話。


 こっちの世界に帰って来たばかりの親父は、日本って事が分からなかったため、ちょっと呪詛が漏れて胃に剣の外部機関に察知されたようだ。そこで調査に赴き初めて親父に接触した調査員は、ちょっと常識が違う奴がうろうろしてる程度の認識で親父に話しかけた。


 そして話せば話すほど、異世界から帰って来たばっかりで、常識が違っていた親父を怪しんだ調査員は、親父を金と住居で釣って胃に剣に連れ帰り、そこで調査したらあら不思議。何と全人類を呪い殺せる大邪神だった事が判明したのだ。


 これはもう胃が爆散する。うっかり刺激すればどう爆発するか分からない人類汚染爆弾が、そこらで拝み屋をして生計を立てようとしていたのだ。息子だから弁解するが、戸籍無し、職歴は億年単位で空白。書けても、邪神、っていうふざけた職で、資格も無し。これでまともな職に就ける訳がない。が、一人の人間として言わせてもらうと、もうアホかと、馬鹿かと。どこの世界に拝み屋やる大邪神がいるんだ? せめて採用担当官を呪って、嘘の履歴書を納得させろよ。


 まあこのせいで、胃に剣は今でも現世に似たような存在が潜んでいるか常に怪しまねばならなくなった上、一歩間違えていたら、その人類汚染爆弾は未だに人類に気が付かれていない可能性もあったのだ。どこに起爆スイッチがあるか分からない……こんなのはっきり言ってストレスそのものである。


「でも中々やるわよね。その調査員」


「それが親父の話を聞いてたら、どうも異の剣のトップの若い頃なんじゃないかなあって」


「あら、学園長の前の日本最強?」


「多分」


 確かに温厚とはいえ取り扱い厳重注意の親父を、胃に剣まで連れ帰った調査員は腕利きだ。


 しかしその調査員、確証はないのだが親父から今ではその調査員も偉い人で、連絡先も知ってるみたいな話を聞くに、まだ現場に立っていた頃の現異能研究所所長、源道房の可能性がある。どうも当時は既に副所長で最強の名前もゴリラに譲っていた様なのだが、感知された呪力があまりにもヤバかったため、急遽駆り出された腕利きの一人らしい。


 つまり異能研究所の所長は、地球最初の胃に剣がぶっ刺さった会会長でもあるのだ。


 可哀想なお爺ちゃん。ゴリラと違って、俺が親父との仲を取り持ってないから、今でも親父にビビりまくっているだろう。


 その点ゴリラは大丈夫だ。なにせ俺が親父にしょっちゅう電話を掛けさせてお礼も言って貰っているから、親父が単なるぐうたら中年という事も分かっているのだ。うーん。これは完璧なマネジメント。俺ってなんていい子ちゃんなんだ。


「じゃあそろそろ行きましょうか」


「はいお姉様!」


 ま、目先の授業参観も大事だけど、ゴリラはクラス担任なんだ。その後に控えているテスト期間の方が今は大事だろうな。


 さて! 今日も一日主席として頑張りますか!














 ◆


「し、しまった……! い、忙しすぎて授業参観の事をすっかり忘れていた………! 心構えが出来ていないのにあと数日しかない!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る