ままままままくくくくくくああああいいいいいい 幕間 仁■■■■■■悌

「ベルゼブブ様が討たれたというのは本当なのか!?」

「連絡が取れないのは間違いない!」

「しかし、本当に!?」


 ロシアのとある古城を根城にしている集団が、その会議室で怒鳴りあっていた。彼らはベルゼブブの信奉者であり、その手駒であった。


 強大な存在を主君に頂き、その主君の機嫌を損ねなければと言う前提があるが、我が世の春を謳歌していたと言っていいだろう。なにせ裏の世界、その最も深い部分にいる者達にとって、逆カバラの存在はまさにアンタッチャブル。駒とはいえ、その彼らにすら逆らうことなど出来ないのだ。


 しかし、彼らにとってまさに驚天動地。主君であるベルゼブブが、遠く異郷、異能者にとっての魔窟、蟲毒の壺と言われる極東で命を落としたという情報が、裏表問わず世界に駆け回ったのだ。


 今はまだいい。情報が錯綜しており、他の組織も手を出してこない。が、もし本当だと確定したならば、今までの報いが、全て自分達に返って来る事だろう。


 まあ尤も、それは先の話ではなく、


「なんだ!?」

「窓が!?」


 突然窓が黒いナニカに覆われる。


「ひっ!?」


 そして見た。見てしまった。見られた。見られてしまった。


 窓から、窓から覗いていたのだ。目が。目が目が目が目が目が。


 黒いナニカから生えた幾つもの目がぎょろりと彼らを見ていた。


『いえええええい! ドンドンパフパフー! 悪い子の皆起きてるかなー!? さあやっていきましょう! 邪神ラジオのお時間でーす!』


「な、なんだ!?」


 突如聞こえてきた間抜けな声に、一瞬だけ怯えを忘れた男たち。だが辺りを見回すも、その声の持ち主らしき者はいない。


『本日は特別ゲストにお姉様をお呼びしています! お姉様よろしくお願いします!』


『ええよろしく。ふふ。こういうの面白いわね。あ、力ある者の声で話せてるかしら? 必要じゃなかったから使ったことないのよね』


『大丈夫です! 城の中にいるリスナーの皆さんにちゃんと聞こえてるはずです!』


 彼らはぎくりとした。力あるものの言葉とは即ち、バベルの塔が崩壊する前の言語と同様、地球に住む人類全てが理解できる言語なのだ。が、それが使える事の意味するのは、神仏、悪魔、もしくはそれと契約した者か、人類を超えてしまった超越者という事だ。


「何者だ! 出て来い!」


 堪らず一人が大声で叫んだ。


『えー、リスナーの皆さんにはあるゲームに参加して貰います! ルールは簡単、死なない事! これから皆さんはバラバラの開始地点に飛ばされるので、頑張って生き延びてください! あ、この城は完全に封鎖されてるんで、珍しくテレポートとか出来る人がいても意味ないですよ! では転移!』


「んな!?」


 だがその声に応えは無く勝手に話を進められて、しかも一瞬で城の中の別の場所に、しかもバラバラに転移で飛ばされてしまう。


「弄びやがって!」


 姿を見せず無理矢理転移で移動させるなど、明らかに超越者なのに、その行動はゲームか何かの様だ。


『当たり前だろうがこのクソボケ共! 人体実験! 悪魔と人間の交配! 生贄! まともな死に方が出来ると思ってる方がお笑いだ! お前らはそこで惨たらしく苦痛に満ちて恐怖と共に死ね!』


「ひっ!?」


 激昂する声と共に、未だ窓から見ていた瞳が血走り大きくなっていた。


『おっほん。失礼しました。その目ん玉、俺とお姉様が観戦してるモニターのカメラなんで、どうかお気になさらないで下さい。なあに、害は無いんで大丈夫ですよ!』


 コロコロと変わるテンションに、相手がまともな存在でないことを更に確信する彼ら。


『えー、では皆さんをぶっ殺してくれる鬼役をご紹介します! 犬君でーす! わーぱちぱち!』


『ふう、よし、もういい加減慣れたわ。ぷふ』


『お姉様かわあいてっあいてっ。でへへ。あ、すいませんリスナーの皆さん。でへへ。皆さんには見えてないですよね。えーっと二足歩行のブルドッグなので、見たら一発で分かりますよ。皆さんの頑張り次第で姿は変わりますけど。ではお待たせしました! ゲームスタートです!』


 宣言と共に……


 ゲームが開始された。


「バウ!」


「あいつか!?」


『おおっと! 犬君がさっそく獲物を発見した! さあ頑張れ犬君!』


「バウッバウッバウッ!」


「【超力砲】!」


「くぅん……」


『い、犬くーん!』


 終了した。


 男が見つけた、あるいは見つけられたのは、オリエンタルな甲冑を装備した二足歩行の犬であった。その犬は凄まじい速さで踏み込みその槍を突き刺そうとしたが、それに対して男は得意な超力での念弾を放ち迎え撃つ。


 すると全く大したことが無く、その一撃で犬は吹き飛び倒れ伏してしまった。


『てめえロシアの軍か養成校出身だろ! その超力砲のスピードに見覚えがあんぞこら! っていうか犬君全く反省してねえじゃん!』


『これじゃあ犬ちゃんじゃなくて猪ちゃんね』


『本当ですねお姉様! 犬君マジで猪侍って呼ばれるよ!? 犬なのに!』


「ゲームはこれで終わったな!?」


 鬼とやらに勝利したのだ。これでゲームは終わりの筈だと叫ぶ男。


『え? いやいや、まだ始まったばかりじゃないですか! じゃあ犬君、ちゃんとした実戦テスト行ってみよー!』


「バウ!」


「なに!?」


 いつの間にか立ち上がっていた犬の妖異。その周りには、先程まで無かったはずの玉が浮かんでいた。


 それには文字が刻まれている。


『犬君変身!』


「バウ!」


 玉の数は八つ。文字も当然八。


 その文字こそ


 仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌


『ではご紹介しましょう! 犬君ハチモード!』


 輝いたのは忠の文字。


「【超り】」


「ワン!」


「ぎゅ」


 男が得意の速攻。超力による念弾を放つより更に早く。ひょっとすれば音の壁を突破する寸前の速さで……


 が、その頭蓋骨を叩き割った。


『これぞ忠の文字! 裏切りの今鎮西! その名はああああ!』


 忠に非ず。大内氏と尼子氏の間で幾たびも裏切りを繰り返しながらもその武勇を恐れられ、ついには刃を潰され、弓の弦を切られた状態で毛利氏に謀殺された男。それこそが今鎮西。


『吉川興経!』


 そしてその力を宿したのは、凛々しき秋田犬であった。


 これが、仁に非ず・義に非ず・礼に非ず・智に非ず・忠に非ず・信に非ず・孝に非ず・悌に非ずの八


 武芸十八般のうちの八


 名はハチ


 怨を返すモノであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る